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【随筆】人がいつか死ぬように、物もいつか壊れるんだ。

人がいつか死ぬように、
物もいつか壊れるんだ。

繰り返す

人がいつか死ぬように、
物もいつか壊れるんだ。

まだまだ

人がいつか死ぬように、
物もいつか壊れるんだ。

そう、

人がいつか死ぬように、
物もいつか壊れるんだ。


僕が工事現場の監督をしていた時のこと、朝礼で、といっても僕は夜間工事をしていた。東京の、真ん中で。元請の僕が一人。27歳だった。下請けの所長が一人。40歳。あとは作業員が15人くらい。と、朝礼には職長しか参加していないが、ガードマンが6人。という規模で、21時。僕は朝礼で今日の作業内容を確認し、安全指示をし、さいごに一言添える。

その時に話した。
「人がいつか死ぬように、物もいつか壊れます。どうしたってダメになったり、壊れたりします。でも、大切にしてあげて下さい。使い方次第で長く使えます。その点を重々気をつけて下さい」

こんなことを話したのは、前の日に、ほぼ新品の道具か何かが(忘れてしまった)壊れたからだ。そのことで下請けの所長と話したが、明らかに使い方が悪かった。だからこんな話をした。

別に、大した金額じゃなかった。金で工期が買えるのなら構わないことがあるが、ここでいう金は、ただの死に金だった。それに、可哀そうだった。


思い出した。もう10年来使っていたオロビアンコのボディバックだったが、先日、ワイヤーがはみ出した。そろそろお別れだ。

彼とは、休みの日はいつも一緒だった。そこには長財布と小銭入れと文庫。色々な文庫がそこに収まった。それが新書になることもあったね。と、車のキーと、お守りが入っていた。タバコを吸っていた時は、ライターと一緒にそれも入っていた。懐かしい思い出だ。彼は手頃なサイズ感で、デザインもキュートだったし、とにかく気に入っていた。一目ぼれだった。僕はまだ、彼と一緒にいたい。流行だとか、よりよい機能性が云々なんて話にはビクともしない。

十分すぎる。大好きなんだ。でも、僕らがいつか死ぬように、君たちもいつか壊れるというのは、真理だ。それには、抗えない。

お別れなんて寂しすぎる。でも、振り返って大切に使っていたのかと考えれば、あまり自信はない。君はただ、当たり前にそこにいたんだ。僕の隣に。

寂しくなる。新しい人は見つかるだろうか。まだ実感がわかないが、僕は君じゃないのなら、いらないのかもしれない。そう考えるかもしれない。

文庫は後ろポケットに入れればいいし、車のキーは左前のポケットに目薬とリップのところに入れてもいいし、ベルトにかけてもいいのかもしれない。それに現金だが、もうカード1枚もって携帯と一緒にして右前のポケットに入れちゃば済む話かもしれない。

そしたら、新しい人を見つけないで済む。いつまでも君のことを忘れないで済むかもしれない。僕は、今日も君を連れて行くのを忘れたと思うかもしれない。君はまだ、僕と一緒にいる。のかもしれない。

人がいつか死ぬように、
物もいつか壊れるんだ。

そんなことは分かっているよ。でも、それと受け入れることは全くの別の話なんだよな。

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