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(詩)夜行列車

はじめて
この星に降り立った時に
乗っていた夜行列車は

銀河系を越えてやってきた
銀河の長い長いトンネル
幾数千万の星屑
生命ねむる銀河の海の底に

たえまなく続く
こどう、またこどう
夜のしおざいの中に

揺られながら
はじめてこの星の
プラットホームに
降り立ったあの日

わたしがそれまで
果てしない旅の間
腰をおろしていた
あの夜行列車の
窓辺とシートに
わたしが
忘れてきてしまったものは
忘れてきてしまったものを

もう思い出せない
そして

この星に降り立った瞬間に
狂おしいほどの
まぶしい光が差して

わたしが
わたしという
ひとつの生命として
成立するため

その一番最初の
といきとこどうを
わたしへと
吹き込んでくれた
いたずらなあの日の風は

わたしをひとりおいて
今はどこへ行ってしまったか
もうつかまえるすべもない

ただこの星の
見知らぬ町の
駅のプラットホームで
夜行列車を見かけるたび

わたしにもたしかに
帰る場所がある

それは今もあてもなく
銀河を走り続ける
幻の夜行列車の
うすよごれたひとつの
シートかもしれない
けれど

それでもたしかに
帰る場所が
こんなわたしにも
ある気がする


わたしの故郷は
銀河系夜行列車の
ひとつのさびれたシートです

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