(詩)しお風がかくれた場所

海辺から逃げた一筋の風は
少女の手を逃れ
少年の手を逃れ

海の前の
駅の改札にまぎれた

ちょっといたずらっ気で
海辺を逃げ出した風は

そのまま迷子になって
人に、人に
人波について

しお風は
人の波を海の波とまちがえて
人波についてゆけば
また海に帰れると信じた風は

そのまま
人のあとについて
列車に乗ってしまった

列車のドアが閉まった瞬間
閉じ込められた風は
ガラス越しに
遠ざかる海を見ていた
冷たいガラス窓に張り付いて
ずっとずっと
小さくなるまで海を見ていた


それから
海を失くした風は
さびしがりやの少女の胸に
かくれた

いつか
少女が恋にやぶれて泣く時
風はひっそりと
海に帰ってゆきます

さびしがりやな少女が
大人になる時
風は海に帰ります

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