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小説詩集「時間の波のなかで、」

時間がなくって溺れてた。仕事が苦手なのに次から次へと仕事が舞い込んで、巻き込まれて、誰かみたいに靴を履き替えて走ってた。それは副業だったのにそこに閉じ込められて、心だけが、音楽を望んでた。いつも楽譜に起こすことを願いながら、その日は終わってた。

「だから、」

「だから?」

「時間の波が寄せてくるのを望んでた、」

時間がね、あふれてるのよ。

「いいね」

「いいでしょ」

「でも、それってどうゆうこと?」

砂時計だよ。私の生活は砂時計なんだよ。だから、押し寄せる色々が一度にせめぎ合うの。

「せめぎ合う?」

ほら、重力があるわけだから時は流れていくのだけれど、ほんの細いくびれを通って私の1日はすぎてゆく。

「でもある日、目覚めたら、」

「目覚めたら?」

日が穏やかにカーテンを揺らしてた。

「で?」

で、海に行ったの。海ではしゃいで塩まみれになって太陽を見つめたの。それで、ベンチでアイスを食べながらアイスみたいな音符を打ち込んで、何度も聞き返したの。

「どんな曲?」

「海とうたえる未完成な曲」

「未完成でもよかったの?」

時間がたっぷりあふれてて、完璧にすることもできたけれど、海がね、そばでうたってくれたから。

「ランチタイムになるまえに、」

電車をおりて、カフェで仕事をしたよ。あなたがそこでアルバイトしてたから。ひとしきり打ち込んでポーンて送って席をたつ。

「長居はしなかったね」

わるくって、できなかったの。小心者だから、時間はわんさかあるのにさ。次の店に行って友達にあって笑ったよ。あなたのことを考えながら笑ってた。

「時間があふれてたから安心してた」

たゆたう、みたいに時間の波にゆられながら、あれもこれもできたの。もう囚われの身じゃなかったの。

「でも、ここに戻ってきた」

「うん、」

時間がね、私をゆらして満たしてたから考えつくことをドシドシやってはしゃいでた。けれど向こうに見える夕暮れが、私のところには来なかった。あなたが戻ってくる夕暮れが来なかった。

「なので、」

「なので?」

なので、今日もまたプリズナーにもどった私はハートが壊れそうになりながら、電車のリズムに音符を置いて戻ってきたの。

「この絵、すすんでるね」

「うん」

いいな、あなたは勤勉で、仕方ない私も少し書いてから休もうかな、できるかなあ、とか言って細い隙間を落ちてゆく砂の音にあわせて、音符を書くの。

おわり

❄️一度に押し寄せる時間、時間、じかん、みたいな幻想に溺れる、を午睡から目覚めた、的スッキリ感でかきました。近づく春がそんな気持ちにさせるのかしらん、みたいな呑気さをたたえながらまた書きます。ろば



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