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老いと新たな環境

皆さんは、新しい環境って、どんな印象をもたれますか?

ドキドキ、ワクワクしたり。

はたまた、不安に苛まれたり。

いろんな心模様が現れるように思います。

脳の観点からも、この新たな環境というのは、非常に重要で、ここ最近、この脳の「新」を見出す仕組みや、「新」の区別の仕組み、「新」を感じさせる仕組み、そして「新」を受けての脳の情報処理、など「新(Novelty)」にまつわる脳の研究は非常に盛んです。

それだけ脳にとって重要な情報ということですし、「新」は生物にとって、生命を脅かす可能性もあれば、新たな可能性や学びにもなりうる。それはそれは心動かすことでしょう。

本日は、2022年にオランダのライデン、Leiden Institute for Brain and Cognitionによって発表された以下の論文から色々考えてみたいと思います。

この論文にも記されているように、新たな環境というのは、我々の大きな成長の機会になり得ます。主にドーパミン性によるところというふうにも説明されています。

少なくともこの論文がいうように、ドーパミンは、記憶を強固にする作用があることは有名です。それ以外にも、ドーパミンによって、集中力や思考力も高まるでしょう。

本論文では、人生という時間尺度における、新しい環境での記憶向上効果に焦点を当てています。慣れた環境に比べて、新しい環境は、children (8–11 years), adolescents (12–17 years), younger adults (18–44 years)の記憶想起力を高めたようです。45歳以上では、統計的に優位な学習向上効果は得られませんでした。

その理由の1つに、確かにこれまでも、年齢と共に、ドーパミン性は弱まっていくというような一般的な傾向があることが知られていることがあるでしょう。

もう一つには、年齢と共に色々と知識を身につけていくので、当然若い人にとっては新しいものであっても、歳を重ねると、知識量によって、新しいと感じる絶対量は減って、反応を弱くしている可能性があるでしょう。

よって、本質的に脳で合成されるドーパミン量が緩やかに減少している可能性もありますが、それは、知識が身についた表れとも解釈できるように感じるのです。

ドーパミンは、脳の環境予測誤差(Environmental Prediction Error)に反応しやすく、すなわち知らないものに反応しやすい。よって、知らないものが多い若い人の方が、相対的には、大きなドーパミン反応は引き起こしやすいと考えられます。

けど、だからと言って、大人だって知らないことがたくさんあるはずで、どれだけ、知識を身に付けたとしても、ドーパミン性を引き出せるのか、これが大人の学びの違いになってくると考えられます。

なんとなく知識を膨らませていきます。そして脳の記憶というのは、多くの場合あやふやで、なんとなくです。ですから、入力情報に対して、そのなんとなくの記憶によって、見聞きした気になりやすく、新しさとして反応できない。ドーパミンを放出できない。すなわち学ばない。それを、知ったかぶりと世では呼ぶように感じます。

大人になればなるほど、ぱっと見の新しさは、減るかもしれません。記憶によって。しかし、記憶を司ってもなお、感じるささやかな新しさを感じとること、ドーパミンが反応できるような脳をもつことが重要と考えます。

レオナルド・ダ・ヴィンチさんも、ささやかな出来事に対して、大いに感動するという傾向があったそうです。

ヘンリーフォードさんの言葉

Anyone who stops learning is old, whether at twenty or eighty. Anyone who keeps learning stays young. The greatest thing in life is to keep your mind young.

Henry Ford

20歳でも80歳でも、学びを止めた人が老いている。学び続ける人は、若い。人生における素晴らしきこと、それは心を若く保つこと。

若者のように新しさにドーパミンする。知っているようなことでも新しいものを感じ取れる、そんな脳になれたらなぁ。そんな老い方をできたら楽しそうだなぁ。

マルセルプルーストさんもこんなふうにおっしゃってます。

The real voyage of discovery consists not in seeking new landscapes, but in having new eyes.

Marcel Proust

「本質的な発見の航海は、新たな時を求めることにあらず。新たな目を持つことだ。」と。

新しいを、いつだって新しいと。楽しいを、いつだって楽しいと。美しいを、いつだって美しいと。

慣れても、繰り返していても、常に新たな新鮮な喜び、楽しみを見出せる目を、脳をもち、世界と戯れる。そんな老いを実現していきたい。

そんなふうに思わされる。そんな論文でございました。


Schomaker J, Baumann V, Ruitenberg MFL. Effects of exploring a novel environment on memory across the lifespan. Sci Rep. 2022 Oct 5;12(1):16631. doi: 10.1038/s41598-022-20562-4. PMID: 36198743; PMCID: PMC9533976.

Pic by AI Wonder


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