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祈りの三十一文字

『短歌 2022年11月号』

【カラーグラビア】
名湯ものがたり 銀山温泉(山形)…小池光
空の歌…阿部真太郎 選

【巻頭コラム】うたの名言…佐佐木幸綱

【巻頭作品28首】篠弘・永田和宏・水原紫苑・川野里子
【巻頭作品10首】藤岡武雄・松川洋子・山田富士郎・中津昌子・林和清・睦月都

【第68回角川短歌賞発表】
受賞作品…工藤貴響「injustices」50首
選考結果・受賞のことば
次席作品・佳作作品
選考座談会…松平盟子×坂井修一×俵万智×藪内亮輔

【特別企画】祈りの器
中根誠、山中律雄、菊池裕、なみの亜子、黒瀬珂瀾、鍋島恵子

【作品12首】松永智子・川涯利雄・大橋智恵子・山本司・恩田英明・鷲尾三枝子・竹村公作・正古誠子・森井マスミ・生沼義朗
【作品7首】小田裕侯・高山鉄男・植松哲太郎・小松カヅ子・冨樫榮太郎・黒木沙椰・江田浩司・斉藤梢・鶴田伊津・大里真弓・みかみ凛

【連載】
家族の歌…カン・ハンナ
フリージアの記…水原紫苑
挽歌の華…道浦母都子
かなしみの歌びとたち…坂井修一
ぼくは散文が書けない…山田航
啄木ごっこ…松村正直

【連載エッセイ】
歌人解剖 〇〇がスゴい!…吉濱みち子
うたよみの水源――現代短歌の先駆者を辿る…北山あさひ
一葉の記憶 ―私の公募短歌館―…藤井幸子
嗜好品のうた…吉岡正孝
見のがせない秀歌集…渡辺真佐子
短歌の底荷…地表・ヤママユ
ふるさとの話をしよう 岐阜県…桐山五一

【歌壇時評】山下雅人・鈴木加成太
【月評】中埜由季子・藤野早苗
【歌集歌書を読む】丸山三枝子・住谷眞

【投稿】
角川歌壇…三枝浩樹・安田純生・松尾祥子・桜川冴子 選
題詠…栗明純生 選

歌壇掲示板
読者の声

出版社情報・目次

短歌雑誌を読んでいても漠然と言い悪いだけでちっとも勉強にならないように感じるので、今回からは一首批評というものに挑戦しようと思う。まずその人の作品から一首代表作というべきものを選ぶ。客観的に批評(主観的にならざる得ないと思うのだが)を書いてみる。今月号は角川新人賞ということで格好の題材かもしれない。

受賞作品…工藤貴響「injustices」50首

フランス短歌というところでまず躓いてしまう。でも日本語で書かれているのだからそういう偏見は持たないようにしよう。横文字で書かれているのはパスするけど。タイトルが横文字はマイナスだな?「injustices」は「不当」とかの意味だった。

スプレーの太き噴霧にすみやかにinjusticeと男は書きぬ

フランスのデモか何かの暴動だろうか?その前の歌「七階のそろう通りの空ほそく催涙弾の音のみ聞こゆ」で警察とデモ隊の騒動だとわかる。

マグレブ系青年ひとりのみ呼びて身体検査を車外に始む

俵万智の選評が作者の個人的意見が欲しいというが。写実的に語られていれば十分ではないか?まさか権力側に読めるわけでもないし。ここで作者が感情を爆発させても白けるだけだ。独自性というのだが、フランスの暴動を扱っているだけで十分独自性はあると思う。俵万智がこういう政治的な歌より恋愛の歌の方が興味あることはよくわかる。ここはタイトルにも関わる歌だから、十分独自性はあるとは思うが。

Vite fait(やっつけ)と言いたる友の発表に子宮の中のサミュエル・ベケット

ベケットの論文を発表するのか、それともベケットのように子宮の中に留まりたいのか、ちょっと意味不明。たぶん後者かな。騒乱の後に大学に戻りまた普段と変わらない日常に返る学生生活だと感じる。

関門としてきみ読みし『赤と黒』ペーパーバックの焼け反りかえり

『赤と黒』という事件性よりも長い時間が過ぎた焼け反りというような現実の時間性かな。これは七五五八七の変則短歌だった「ペーパーバックの」が一文節ということか?フランス語で読んだわけで、それが関門としてということなのか?だったら外国語でいいと思うが、それにルビ振ったほうがいいのではと思える。それだけ時間が経過したことと騒乱の事件との対称性か?そう思うと突発的な事件よりも文学を読むという日常に重きが置かれる。それは大学という内なる世界なのだが、それと外なる世界の激動の時代と。前半は路上での短歌で次第に大学内の日常生活が詠まれている。

福山ろか「さえずりに気づく」は17歳だった。ただ坂井は優等生すぎて面白くないという意見だった。早熟の天才が後に凡才になっていくのを何度も見たという。ここで傑出しているのでなければ賞の資格なしということなのか?

今紺しだ「動点Pの冒険」。俵万智一押しの学生(京大生)短歌。「動点P」は「親指P」を連想させるが、そこまで際どくない。これこそ優等生短歌という感じがしてよく出来ました止まりだと思う。

篠弘「独りして立つ」

過去を振り返る短歌なのか?

(昭和十六年八月、天皇を詠んだ作品が「不敬罪」となる。)
廃刊となりし「日本歌人」の実物を探し得ずして酷暑に入る

この短歌より不敬罪になった短歌を知りたい。篠弘『戦争と歌人たち』を出していた。その関連での短歌なのだろう。その次の

みづからを救世主とぞ履き違へ独り芝居を演じし水穂

も気になる。水穂って誰?「大日本歌人協会」を解散に導いた指導者とあるが。

永田和宏「虱と風あるいは国葬」

虱の字体に惹かれながら、そこに風を感じる。この風は自然の風と共に時代の風というようなその中に安倍元首相の「国葬」があるのだ。

斎藤茂吉の虱を「だに」と読んでしまった誤読の短歌が面白い。

安宿の茂吉を夜毎苦しめし床蝨は「だに」とルビを振られて

「蝨」は「虱」の旧字。作者は「虱」の風体の方がいいという風を感じられるからか?

風のなかになぜ虫がゐると思ひをりし虫はすなはち龍なのであつた

斎藤茂吉のだにと言う言い方と安倍元首相の狙撃犯は共通のことを言っているのかと思った。あいつはだにであるというような。狙撃犯にとって安倍元首相は「だに」であった(統一教会のだにでもあった、血税という言い方がある)が見方を変えれば彼もダニのような存在ではなかったのか?虱という風に読み替えれば、ただ漂っている我々のことかもしれない。

そういう政治の具にされるのは好まないと作者は言うがもともと安倍元首相は政治家なのだ。そこは一般人と違うのだから、これだけ大騒ぎになるのだろう。自然から考えたら虱同然なのだが。そこは永田和宏の科学者としての視点が短歌に生かされているのか?

それにしてもワクチン4回打って、さらに感染一回しているとは科学者もコロナ禍では無力なんだな。それでもマスク外すと言っているよ。ワクチンまったく打ってなく、感染歴もないが、マスクは外さない。花粉症でもあるのだが。小池光って誰だ?

【特別企画】祈りの器

祈りという和歌(短歌)の形。根本はそこにあるとは思うのだ。例えば「万葉集」でも挽歌に惹かれる。釋迢空がいいと思うのもそれが挽歌であるからだった。すでに和歌は滅びた文学なのである。その郷愁を歌にするからどこか懐かしく惹かれるところがあるのだ。それは絶望の淵から蘇らせたい何かなのである。

犯されし果に遺体となりてあるこの女をせめて土に埋めん  川口常孝『兵たりき』

それを言霊と言うなかれだ。想起するのは己の内面であり幻影にしか過ぎない。しかしながらその幻影が世界だとしたら。これはグノーシス主義的な思考だがあながち間違っているとも思えないのだ。


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