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架空の言語を作った男の映画

『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』(2020年/ロシアドイツベラルーシ)監督:ヴァディムパールマン 出演:ナウエルペレーズビスカヤート ラースアイディンガー

ナチス占領下の強制収容所。唯一の希望は<架空のペルシャ語>だった。
 第二次世界大戦中、数百万のユダヤ人大虐殺(ホロコースト)が行われたナチス・ドイツの強制収容所。この生存不可能といわれた絶望の場所で、信じがたい方法で何度も処刑を免れた男がいた。それは、ユダヤ人の青年がペルシャ人になりすまし、ナチスの将校に<架空のペルシャ語>を教えるという、驚くべきものだった──。短編小説から着想を得て映画化された本作は、奇抜な設定ながら圧倒的なリアリティが大きな衝撃を巻き起こし、ベルリン国際映画祭のベルリナーレ・スペシャルガラ部門で上映されたのをきっかけに、世界各国の映画祭で数多くの賞を獲得し、絶賛を浴びた。『戦場のピアニスト』『シンドラーのリスト』に続く、ホロコーストを題材とする戦争映画の新たな衝撃作がついに今秋、日本に上陸する──。
 主人公のユダヤ人青年ジルを演じたのは、カンヌ国際映画祭のグランプリ作『BPM ビート・パー・ミニット』のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート。4カ国語を操るクワドリンガルを活かし、命がけで偽のペルシャ語を紡ぐ姿を渾身の熱演で体現している。ナチス親衛隊のコッホ大尉役には、『約束の宇宙(そら)』のラース・アイディンガー。ドイツ国内で様々な賞を受賞し、高い評価を受けた演技力を遺憾なく発揮した。監督にはアカデミー賞®ノミネート作品『砂と霧の家』で世界的評価を受けたウクライナ出身のヴァディム・パールマン。膨大なリサーチと綿密な取材に基づき映画化。緊張感が途切れないサスペンスフルな演出と、鋭い視点で描くヒューマニズムによって、圧倒的リアリズムで心打つドラマに仕上げている。

今日(2023.11.03)もしんゆり映画祭から普段みられそうもない映画。

監督はウクライナ出身の監督だった。主演のナウエルペレーズビスカヤートは『BPM ビート・パー・ミニット』で同性愛のエイズ役を演じた人だった。この映画も良かった。ナチスものだけど設定が変わっている。毎年のように公開されるナチスものだが、設定がいろいろあるが、ユダヤ人側が教師でナチス側が生徒という変化球だ。それもペルシア語を教えるのだが、本人はペルシア語を全く知らずに言葉を作っていくのだ。

偽ペルシア人だと知っているナチス兵が恋人のために殺そうとするのだが、逆に恋人が前線送りになってしまって余計に敵意が増す。このへんの人間関係も面白い。ナチスのコッホ大尉は、元々は平和主義者であり、兄はナチス政権から睨まれてイランに亡命したのだが、その兄を追ってイランに行きたいと願っているのだ。虐殺されるところを偶然助けられて、大尉にペルシア語を教えることになるのだが、単語はすべて嘘であり、単語を作り出す方法をユダヤ人収容者の名前から連想するというアイデアが素晴らしい。これはラストの重要な伏線になっていた。

こういう映画はどう嘘を突き通して生き残るか、という映画としてはわかりやすいテーマだが、立場が逆転するところの面白さなのだが、シャーロット・ランプリングが出演した『愛の嵐』と似たような展開になるのだった(教える=教わるは愛の行為)。つまり大尉の中に愛ではないが友情が生まれてくるのだった。大尉が偽ペルシア語で詩を作って朗読するところで、大尉ではなく名前で呼んでくれというのだが、ユダヤ人青年のジルはそれを拒むのだった。ここでも名前が重要な意味があるのだ。

イギリス兵の捕虜の中にペルシア人がいて、あやうく彼の立場が危うくなるシーンがあるのだが、兄弟ユダヤ人を助けたのでその兄に救われるのだが、ナチス兄弟の話とユダヤ人兄弟の話を交差させて、生きたいと思っていたジルの内面に変化が生じる。兄の自己犠牲的精神に彼も自己犠牲的精神を発揮しようとするのだが、大尉によって連れ戻される。そしていよいよドイツ敗戦の日が近づいて、収容所は証拠隠滅作業に入るのだが、その時に大尉は逃亡してユダヤ人のジルも一緒に連れ出すのだった。それが彼の友情なのだが、空港で税関を得意のはずのペルシア語が通じなくて逮捕されるのだった。一方彼は連合軍に保護されるのだが、収容所のユダヤ人リストを空で言えるほどに言葉=名前を覚えているのだった。ここは泣けた。


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