「旅する練習」は終わっていた
『旅する練習』乗代雄介(2021)
乗代雄介は二作目。その前読んだ『本物の読書家』の方がメタフィクション的で好きだったが、これは乗代雄介なら最後はどんでん返し的な展開があるのだろうと期待しすぎて、極めて普通の文学的な落ちだった。芥川賞狙いというような。これが三島賞だと思うと期待外れかも。
ただ作品としては面白かった。傑作ならば『本物の読書家』の方を押す。普通に中堅クラスの作家がいて、サッカー好きの小学生女子がいて、それぞれ目的は違うがカシマスタジアムまで旅に出る。途中で就職中の女子に出会って、その出会いが最高の思い出となる。
過程の話だから面白い。就職中の女子もそこで挫折するのだがまだ途上だった。何もかも途上だから面白い。だから作家は先輩作家を真似て描写の練習をするのだ。それは小学生サッカー好きの女子も同じ。毎日のリフティングは過程なのだ。
そしてジーコ自伝の語録がある。それは勇気を与えるおまじないのような本。例えて言うなら仏教書みたいなものだ。真言のおまじないを意味も分からず唱えるのは、言葉よりもそれを信じることに重きが置かれるからだ。この旅はカシマスタジアム巡礼なのだ。巡礼とはそういうものだ。
だから『おジャ魔女どれみ』の主題歌は絵空事ではなく信じることで本当の姿になる。文学はそうしたものだろう。言霊と言ってもいい。
だからラストの結果はどうであれ、その過程が重要なのだ。言葉として残っているのだ。旅の思い出も『旅の練習』も。
それは就職難の女子に対するエールだろう。作家もサッカー少女もすでに練習をクリアして旅日記を残しているのだ。誰に宛て?
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