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現実を直視して、その現実を愛せるひとはヒーロー、の巻

2021年9月22日、たまたま仕事でお会いしたある方から、このロマン・ロランというフランス人作家の言葉を教えてもらった。

正確には、この作家が書いた「ミケランジェロの生涯」(1906年)という作品の中の、

「この世にヒロイズムなどない。もし、あるとすれば、それは現実を直視し、しかもそれを愛する事である」

という一節だそうだ。

俺は「たしかに、なるほど」といたく感銘した。

ヒーローとかヒロイズムって、ごく一部のスーパーアスリートとか、カリスマリーダーとかだけに当てはまる言葉なのかとずっと思っていた。

でも、たしかに、自分に突き付けられた現実を静かに受け止め、その境遇を受け入れるどころか、最後は「愛してしまう」くらい、覚悟を決めて生きられれば、それはヒーローだよなあ、と純粋に思えたのである。

たとえば、先日まで開催されていた東京パラリンピックに出場されていたパラアスリートの方々は、どこかで自分の目の前の現実を直視し、最後はその境遇を愛するくらい受け入れた先に、ああした大会に出られたんだろうなと想像できる。

でも、あそこまで昇りつめた一部のトップアスリートでなくても、日々の生活のなかで、瞬間、瞬間に厳しい現実を突きつけられることはある。

普通は、そんな現実にはため息も出るし、びびりもするし、逃げ出したくなる。実際、逃げたりする。俺なんかすぐ逃げちゃうタイプ。

でも、どこかのタイミングで「この現実と付き合っていくのが、自分の運命なんだな」と腹をくくって、その境遇を愛そうと決めたとき、その人は自分自身にとってのヒーローになったってことなんじゃないかと。

俺の妻の姉の子(つまり、俺の甥っ子)は、小学6年生のときに小児がんにかかった。妻の姉一家は我々夫婦の近所に住み、姉の旦那さんともしょっちゅう会っていたから、そのことが分かったときの落胆ぶりも、その後のパニックも、涙が止まらない生活も、ずっと見ていた。

でも、どこかのタイミングで義姉も旦那さんも覚悟を決め、同じ小児がんのお子さんをもつ親御さんたちによる勉強会や、がんに効くと言われる薬を開発している先生、名医と呼ばれる先生のいる病院など、ありとあらゆる情報を求めて全国津々浦々に出かけていった。いつの間にか泣くのもやめたようだった。

もう、これだけでロマン・ロランのいうところのヒロイズムだと思う。息子と自分達が突き付けられた現実を愛することができなければ、そんな行動には移れなかったと思う。結果、ほんとうに奇跡的に、甥は病気を克服して、今では立派な社会人1年生になっている。

昨日、ロマン・ロランの名言を初めて聞いて、約10年前の義姉とその旦那さんのそんな「ヒロイズム」を思い出した。

おわり





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