リナ、六十分、一万二千円

 その夜オレは泥酔していた。確か、外で飲んで帰って、そのまま部屋でさらに飲みながら寝てしまって、深夜二時を過ぎた頃に岡里からの電話で目が覚めた。岡里は大学の頃の友人で、当時、家が近かったこともあって、よく連絡を取っていた。その電話は、本当に大したことの無い用事で、まだ起きてる? ガムテープ借りれない? とか、USBメモリちょっと使いたいんだけどなんか余ってない? とか、そんなような用事だった。とにかく、何の用事だったかは覚えていないが、電話がかかってきて、それでオレは目が覚めて、そのまま少し電話で話していたら、岡里はこれからデリヘルを呼ぶと言っていて、酔っ払っていたオレはなんとなく面白くなってそれを見に行くことにした。デリヘルを呼んでサービスを受けているところを見学されるのなんて、オレだったら普通に嫌だし、もちろん岡里もそれを断ってきた。いくらのデリヘル呼んだの? 一万二千円。え、じゃあさ、おれさ、六千円払うからさ、見学させてよ、な、いいじゃん? などという意味のわからないやりとりがあって、とにかくオレは岡里の家に向かうことになった。出際に、睡眠薬を三錠くらい砕いて粉にして鼻から吸ったので、岡里の部屋に着く頃にはすっかりキマっていて、いろいろなものが歪んで見えたし、よく怪我したり携帯を落としたりしないでたどり着けたものだと今になっても思うくらいだった。缶ビールのロング缶を飲みながら岡里の部屋に着くと、まだデリヘルは来ていなくて、半ば強引にオレは部屋に上がった。でもさ、ほら、こういうのってさ、呼んで嬢が来ているのが二人だったりしたらさ、規約違反とかで怒られるんじゃない? 一万二千円を握りしめた岡里は少し不安そうだったが、大丈夫、泥酔して寝てるフリするから安心してくれ、まかせとけ、そうオレは答えて岡里の横を通り過ぎて部屋の奥に上がった。ガムテープだかUSBメモリだかなんだかは忘れたが、岡里に頼まれたものは持ってくるのを忘れたのだが、オレはなぜか、ひとを駄目にするクッション、と巷で呼ばれているビーズクッションのパチモノを持参していた。在庫処分で売られていた黄緑色のダサいカバーがついたやつで、なんでかはわからないが、オレはそれを岡里の部屋に持参していた。覚悟を決めたのか、オレが床置いたそのクッションの上にだらしなく横になると、デリヘルが来るのに備えて岡里は部屋の照明を落とした。程なくして予定時刻になって、デリヘル嬢が現れた。オレはデリヘルとかソープとかピンサロとかそういうのに行ったり頼んだりしたことが全く無くて、性欲が無いわけではないが、とにかくそういうサービスと利用したいとどうしてか思えないので、デリヘル嬢が部屋に来る、というシチュエーションが、もうそれだけで面白かった。デリヘル嬢はリナという源氏名で、部屋に上がりながら、岡里の背中越しに床に転がっているオレを見つけるて怪訝な声で、あの人は? と岡里に、当然ではあるが尋ねた。そこからが面白くて、オレは笑いをこらえるのに必死だった。酔ってラリっていたのでハッキリとは覚えていないのだが、岡里はわけのわからない言い訳をしてリナを納得させた。たしか、すごい酔っ払ってて絶対起きないから、とか、突然現れてオレも困っているとか、もし起きてきたらその場で中止でいいから、とか、そんなようなフレーズを繰り返して、とにかく岡里はリナを納得させたのだった。薄暗がりの中、床に転がって寝たフリをしているオレの上を乗り越えて、リナと岡里はベッドの上に乗った。ゴムしてもらっていいですか? ゴム無しで始めようとしていたのか、リナにそう言われて岡里はなにやら少しゴネていたが、最終的には合意して、デリヘル嬢が岡里にゴムをはめる後ろ姿が見えた。暗がりの中で、岡里のペニスはさすがに見えなかったし、見たくもなかったが、リナが岡里のものを咥えている姿を眺めている自分、という図式がとてもシュールでオレは笑いそうになったが必死にこらえた。睡眠薬とアルコールの酔いがそのあたりで急激に高まってきて、オレは寝転がったまま目がまわるような感じがして、意識がゆらゆらと揺らぎ始めた。眠いわけではないのだが、まっすぐに意識を保っているのが難しくなって、舐め方の要求を岡里がリナにしている声とかが遠くに聞こえて、それからリナはフェラをやめて手で岡里のことをしごいていて、オレは何か強い酒を喉に流し込みたかったが、動くわけに行かないとはわかっていたのでオレはそのまま目をつむって天井を仰いだ。寝返りを装って身体を動かすと、その音でリナが手を動かす音が一瞬止まったような気がしたが、すぐにまたベッドのスプリングがリナの身体の動きに合わせて揺れる音がして、急にオレは意識が鮮明に戻ったような気がして目を見開くと、ウッという声を出して岡里が射精した。リナと岡里がオレの上を乗り越えてバスルームに消えて行って、バスルームのドアが完全に閉まったのを確認してからオレは身体を起こして、ゆらゆらと揺れる視界のなかで、ふと目に入ったリナのバッグがあったので、その中を写真に撮った。それ以上もそれ以下も興味がなかったので、写真を撮って、またもとの位置に横になって天井を見ていたら、いつのまにか眠りかけていて、リナが帰る音が遠い遠い意識のなかで夢を見ているときのように聞こえてきて、岡里がリナを見送って部屋に戻ってきて天井の蛍光灯を急につけてオレは眩しくてガバっと飛び起きたらなんだか妙にさっぱりした顔の岡里が立っていて、オレはふざけて、岡里がいったときの声を真似して、ウッ、と言った。オレはひどいことに財布を持ってきてすらいなくて、六千円を支払うことができなかったし、その夜に酔ってあげると言って持ってきたビーズクッションは、やっぱり部屋で使うと言って後日、取りに来て家に持ち帰った。その頃は家が近かったが、岡里もオレもその後に引っ越してしまって、最近はあまり会うことがなくなった。いつか、オレは岡里に六千円を払おうと思っている。たぶん、死ぬ間際とか、八十歳を越えてからとか、そのくらいになったら支払いたいと思っている。オレはいまでもデリヘルとかソープとかを利用したことがなくて、男ばかりの飲みの席とかでそういう話題になると、あの夜一万二千円で岡里の部屋に来た、リナという源氏名の女のバッグの中を思い出す。あまりはっきりとは見えなかったが、リナはスラッとした体型で、綺麗な顔立ちだったような気がする。(2018/02/05/04:15)

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Aki

aoyorimoaoiao

習作、1段落で完結する物語、性描写等が苦手な方は #エロくない やつをどうぞ。Follow me, please! フィクションです。実在の人物や団体、出来事などとは一切無関係です。
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