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#ネタバレ 映画「孤狼の血」

「孤狼の血」
2018年作品
映画「ダーティハリー」が普通に思える
2018/5/16 18:07 by さくらんぼ


( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

かつて、映画「ダーティハリー」が公開された時は、「なんとダーティーな刑事だ」と言われましたが、今観ると、「それほどでも…」な感もあります。

しかし、この映画「孤狼の血」は、初めてハリーの世界観に触れた、あの興奮を思いださせてくれる佳作です。

★★★★☆

追記 ( 改元一年前だからこそ、生まれた映画 ) 
2018/5/17 7:52 by さくらんぼ

表面がダーティーだからと言って、内面までそうだとは限りません。むしろ正反対の場合もあるのです。

役所広司さんは、映画「日本のいちばん長い日」で、昭和天皇を助ける陸軍大臣を演じました。

この映画「孤狼の血」でも、深層的には、天皇陛下と改元にまつわる何かを語っていたようです。

ですから、あと一年で「平成」が終わろうとしている、まさしく今の映画でもあるのです。

追記Ⅱ ( 最高権力の承継 ) 
2018/5/17 8:43 by さくらんぼ

昭和63年は昭和天皇崩御の前年です。気がつくと、ニュースでは「下血」という言葉が毎日のように流されていました。その重く、沈痛な空気感は、映画「64-ロクヨン- 前編/後編」にも、しっかりと刻み込まれていましたね。

ですから、映画「孤狼の血」の舞台が昭和63年だと知った時、「もしかしたら…」という気持ちが湧いたのです。でも、それだけでは「単なる時代背景の説明」かもしれません。

しかし映画の中盤、(この映画には、対立するヤクザ・警察・右翼・堅気が出てきますが)右翼幹部の家で、妻がTVにしがみつき、「下血」のニュースを見るシーンが出てきたのです。

そして映画のクライマックス。新人の日岡(松坂桃李さん)と右翼が仕組んだヤクザ同士の抗争で、ヤクザの幹部を逮捕した時、その舞台となった宴会場のカーペットには、「菊花紋章」のような柄がありました。

さらに映画のラストには、ベテラン刑事・大上(役所広司さん)の形見である「孤狼柄のライター」で、今まで吸わなかったタバコをふかす新人の日岡(松坂桃李さん)がいました。正しく最高権力の、「血」の承継が行われた記号です。

このラストまで観たとき、映画の深層を少し覗けた気がしたのです。

追記Ⅲ ( 公務員の仕事 ) 
2018/5/17 9:26 by さくらんぼ

映画「羊の木」には、6人の殺人犯を住民として受け入れる、市役所の若い役人が出てきます。しかし彼は及び腰であり、6人のコントロールが上手に出来ませんでした。

無理もないでしょう。若いだけでなく、彼は事務屋として就職したつもりだったのですから。でも役所の仕事というものは、住民相手、人間相手ですから、事務屋と言えども、デスクワークばかりしている訳にはいかないのです。

ましてや警察ともなれば、それもマル暴担当になれば、それこそ、一見どっちがヤクザか分からない、みたいな世界観も、まんざら嘘ではないようです。もちろん映画には誇張がありますが。

災害時の避難所で、派遣された役人の仕事は、災害対策本部と住民との「連絡調整役」が主でしょう。

映画「羊の木」でも、映画「孤狼の血」でも、主人公は「基本的に連絡調整役」として動いていました。管理下にある人間が、罪びとにならず、平穏に暮らせるようにです。

つまり映画「孤狼の血」の主人公も、ある意味、公務員の仕事をしていたのです。

追記Ⅳ ( 「新約聖書」のことば ) 
2018/5/18 7:20 by さくらんぼ

7:1 人をさばくな。自分がさばかれないためである。

7:5 偽善者よ、まず自分の目から梁を取りのけるがよい。そうすれば、はっきり見えるようになって、兄弟の目からちりを取りのけることができるだろう。

7:6 聖なるものを犬にやるな。また真珠を豚に投げてやるな。恐らく彼らはそれらを足で踏みつけ、向きなおってあなたがたにかみついてくるであろう。

7:7 求めよ、そうすれば、与えられるであろう。捜せ、そうすれば、見いだすであろう。門をたたけ、そうすれば、あけてもらえるであろう。

7:15 にせ預言者を警戒せよ。彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおかみである。

7:16 あなたがたは、その実によって彼らを見わけるであろう。茨からぶどうを、あざみからいちじくを集める者があろうか。

7:18 良い木が悪い実をならせることはないし、悪い木が良い実をならせることはできない。

( 「ウィキソース」 マタイによる福音書〈口語訳〉 より抜粋 )

追記Ⅴ ( 聖人 ) 
2018/5/18 8:24 by さくらんぼ

>7:6 聖なるものを犬にやるな。また真珠を豚に投げてやるな。恐らく彼らはそれらを足で踏みつけ、向きなおってあなたがたにかみついてくるであろう。(追記Ⅳより)

映画の冒頭、「裸電球」と、ダンゴみたいな「豚の糞」が出てきます。

「裸電球」とは「真珠」の記号であり、聖なるもの、この映画の場合は、法律、警察手帳、孤狼のライターなどを指しているのでしょう。

「豚の糞」は、金銭的な損得など、それ以外の価値観の記号として登場しているようです。

お釈迦様の言葉にも「人を見て法を説け」というものがあります。この言葉は今も生きているはず。役人になったら、先輩・上司から一度は教わる教訓でしょう。

つまり、例えば「法律を受け入れない人を、損得で善に誘導してみる」という手法も、あるのかもしれないのです。これが、ベテラン刑事・大上(役所広司さん)が行っていたことの一つなのでしょう。

彼は服装こそヤクザでした。でも、それに騙されてはいけません。あれは彼の仕事着です。お医者様が白衣を着るのと同じ。

むしろ彼の語り口は、人情味のある、模範的なほど穏やかな役人でした。もちろん、むやみに暴力も振るいません。

彼は、「この世の法律を(ヤクザとは違った意味で)超越したイエスのような存在だった」のかもしれません。

そして彼の魂は、弟子に乗り移って復活したのです。

追記Ⅵ ( ヤクザの皮をかぶった、役人 ) 
2018/5/18 8:56 by さくらんぼ

もし、元・ヤクザの俳優さんがいたとして、その人がヤクザを演じたら、きっと滲み出るものが違うと思います。

元・区役所職員の役所広司さんは、本物の役人として働いた経験があるから、地が生かされたというか、内面的な演技が、演技ではなくなっているような上手さがありました。

追記Ⅶ ( 権力争い ) 
2018/5/18 11:08 by さくらんぼ

>そして映画のクライマックス。新人の日岡(松坂桃李さん)と右翼が仕組んだヤクザ同士の抗争で、ヤクザの幹部を逮捕した時、その舞台となった宴会場のカーペットには、「菊花紋章」のような柄がありました。(追記Ⅱより)

このとき何が起こっていたのか…

最高権力者である大上(役所広司さん)が殺られたので、ある意味、この町は無政府状態になったのです。

すぐに権力争いが始まります。

そこで、正統的な弟子である新人の日岡(松坂桃李さん)が、立ちあがったわけです。

彼は大上さん直伝の、いや、それをしのぐ手法で、後継者としての地位を確保し、秩序の回復を図ったのです。

追記Ⅸ ( 日岡のスパイ活動 ) 
2018/5/20 7:54 by さくらんぼ

ダーティーな大上の相棒に、なぜ一流大学出の新人・日岡がやってきたのか。

上司が日岡に言った、「おまえ…まさか俺に、内偵かけてるんじゃないだろうな…ミイラ取りがミイラになってどうする…」という言葉がヒントになります。

日岡が途中から「大上への内偵」を始めたのはご覧の通りですが、もしかしたら上司たちは、最初から(新人でクリーンだから)、密かにその計画を立てていた可能性もありますね。大上を潰すために。でも日岡はミイラになってしまった。

この構図は、役所広司さんと岡田准一さんの映画「蜩ノ記」にも少し似てますね。役所さんが好きな構図なのかな。

誰でも、生きていく間には、大なり小なり、汚れて行くものです。「サンダーバード」のマシンでさえ、汚しのテクニックが話題を生んだように、それは、なかなか避けられない。

しかし「ぼろは着てても心は錦」なのです。死ぬ前には、世界で一人だけでも良いから、それを分かってもらいたい。そして、出来ればスピリットの承継者も欲しい。

贅沢な「おじさんの承認欲求」とも言えますが、それ、私も分かる気がします。

追記Ⅹ ( 日岡を手のひらで泳がせる ) 
2018/5/20 8:32 by さくらんぼ

>日岡が途中から「大上への内偵」を始めたのはご覧の通りですが、もしかしたら上司たちは、最初から(新人でクリーンだから)、密かにその計画を立てていた可能性もありますね。大上を潰すために。(追記Ⅸより)

極度の警戒態勢が日常的になっている大上は、当然それに気づいていた。それを知ったうえで、様子見というか、日岡を手のひらで泳がせる度量・力量があったのです。

映画の前半、パチンコ店で、大上が日岡に「あいつ(ヤクザ)に喧嘩を売ってこい」と命ずるシーンがあります。

大上は「危険になったら助けてやるから…」と言いましたが、結局ボコボコにされるまで、ほかっておかれました。あのとき大上の心の中には、一滴の、「これで、シッポをまいて逃げだしてくれれば、それも良いさ…」みたいな気持ちがあったのかもしれません。スパイもいなくなるし、そうでなくとも、ヤワでは間に合わないから。

ご承知のとおり、「弟子入り希望者は、すぐに受け入れず、三日三晩は、門前払いする」みたいな話は珍しくありません。試すのですね。そして、それを乗り越えた者だけが、門の中に入れてもらえるのです。

追記11 ( 昭和天皇と陸軍大臣 ) 
2018/5/20 8:38 by さくらんぼ

>誰でも、生きていく間には、大なり小なり、汚れて行くものです。「サンダーバード」のマシンでさえ、汚しのテクニックが話題を生んだように、それは、なかなか避けられない。

>しかし「ぼろは着てても心は錦」なのです。死ぬ前には、世界で一人だけでも良いから、それを分かってもらいたい。そして、出来ればスピリットの承継者も欲しい。。(追記Ⅸより)

映画「日本のいちばん長い日」の、昭和天皇と陸軍大臣(役所広司さん)にあったであろう心の交流も、そうだったのかもしれませんね。

追記12 ( 男の映画なのか ) 
2018/5/20 9:01 by さくらんぼ

私には、「女心のひだを繊細に描いたような映画」がよく分かりません。だから、きっと女性の方の中にも、「男心を描いた映画」がよく分からない方も、いらっしゃるのだろうと、想像します。

昔、 スティーヴ・マックィーンの映画「栄光のルマン」が公開された時、私は劇場で観て、ぶっ飛びました。最高にかっこよかった。

私の友人も、デート映画に選び、「すごく感動した」と言っていました。しかし彼女さんの方は、「どこが良いのか分からない…」ようだったと。

だから、もしかしたら、この映画「孤狼の血」も、女性にとっては、映画「栄光のルマン」みたいなのかなぁと。

追記13 ( 「ぼろは着てても…」 ) 
2018/5/20 14:31 by さくらんぼ

>しかし「ぼろは着てても心は錦」なのです。死ぬ前には、世界で一人だけでも良いから、それを分かってもらいたい。そして、出来ればスピリットの承継者も欲しい。(追記Ⅸより)

我を忘れた日岡が、スーツ姿のまま、豚小屋で腹ばいになり、素手で小屋中の糞をかき分けて、最後に、形見になったライターを発見するエピソードは、まさに、この映画を語っていましたね。

追記14 ( ピエール瀧さん ) 
2019/3/15 10:18 by さくらんぼ

この佳作にも、ピエール瀧さんが脇役で出ていますが、良い味を出しています。

他にもありますが、だからと言ってお蔵入りさせるような作品があったとしたら、それは、いかがなものかと思います。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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