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白熊物語


あるところに一匹の白熊の子供が生まれました。

その白熊の母親は、未熟で、母親としての根っこができていなかったので、
自分に甘えてくる我が子とどう向き合っていけばいいかわかりませんでした。

ある日、子熊がテレビで
真っ黒なヒグマをみて
「この熊、めちゃくちゃかっこいいね、お母さん」
と言いました。

母グマはどう答えていいかわからなくなり、
「そう、じゃあこうしたらいいんじゃない?」

と、白い子熊に、バケツいっぱいの墨汁をかけました。

「ほら、黒くなったよ」

と、真っ黒になった子熊をみて笑いながらいいました。

「お母さん、ひどいよ…」

子熊は呟きました。
母グマは「何で?」と思うだけでした。

それから何かにつけて、母グマは
「お前はヒグマになりたいんだもんね」と
墨汁を子熊にかけるようになっていました。

子熊が、大人になる頃には
白熊だったことを忘れてしまうぐらい、真っ黒な熊になっていました。

「黒い熊になれて良かったね」

母グマはそう言いました。

子熊は、
母親が今までずっと、
自分に墨をかけてきたことが、苦しくて、辛くて、悲しかったのでした。

大人になって、母親から離れた子熊は、真っ白なメスグマに恋をしました。
だけど「あなたは真っ黒だけど何熊なの?」
と言われては振られての繰り返し。
次第に、
真っ黒な自分はもう嫌だ。
白熊に戻りたい


満月の月に願いました。

願って間もなく、

「なぜ、自分は白熊ではなく真っ黒なんだろう」

と、訳もなくただただ苛立ちました。
そして

満月にお願いすると

「自分はもともと白いんだから、白くて当然だ!!」

と、心底思いました。


ところが


いつまでたっても
黒いままだったので

ヒグマの彼女をつくりました。


だけど、ヒグマの彼女からは

「あなた、ヒグマらしくなくてなんか変」

と、いつも言われていました。


子熊は悲しくて、辛くて、
「何で自分は白くないんだ!」

と、憤慨していました。


母親のせいだ…あの母親のせいで、自分は真っ黒になったんだ…


ある日、
一滴の滴が子熊に落ちてきました。

ぽとん


ぽとん



ぽとん





ゆっくり、


ゆっくり、


雫は落ちました。

一滴の滴は真っ黒なカラダに当たると、滲みました。
何滴も、何滴もおちましたが、
ただただ、にじんでは乾き、滲んでは乾き


そんな繰り返しがあり


一年が過ぎました。

滲みで少しずつ、歪みながら流れ始めてきた墨。


子熊は

自分は白いのが当たり前なんだ

と思うので、

何故、まだ黒いんだ!!
早く自分を白くしてくれ!!
白くならないなら死にたい!!



叫びました。


滴は

木の上のキツツキが
毎日毎日
帰宅したときに落としていた滴でした。

ある日

キツツキは子熊にいいました。

「当たり前だと思うから、
今が見えないんだ。

今の自分をきちんとみなければ
本当の自分は見えないんだよ。」


そして、遠くへ飛んでいってしまいました。


子熊はそれ以来滲むこともない自分の体をみて

そのとき初めて

自分を白に戻すために
キツツキが滴を落としてくれていたことに気付きました。

そして

その滴は

遥か遠い、白熊の故郷から、
一滴一滴、
キツツキが運んでくれていたこと。

これは、当たり前なんかじゃないということ。

自分は、白くしてもらって当たり前だ、
願いが叶って当然だと思い込んでいたことも……


白熊は、急いで故郷へ向かいました。

走って、走って、

一生懸命走って


故郷の氷山につきました。そして

海に飛び込んだのです。


長年、白熊の毛に染み込み固くなっていた墨が
ゆっくりとけて

落ちていきます。


ようやく

白くなった自分の体を見て

白熊は
心底思いました。

今まで自分と出会えた全てに対して思いました。

本当に
感謝しかない…


と。。。。


もっと読んでみたい!という気持ちが 何かを必ず変えていきます。私の周りも、読んでくださった方も、その周りも(o^^o)