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シネマレビュー2 いきなり孤独の淵に突き落とされる女性のあるあるを描いたアニー・エルノー原作「あのこと」

フランスのノーベル賞作家、アニー・エルノーの『事件』が原作の「あのこと」を観た。

エルノーの作品は、『場所』『ある女』『シンプルな情熱』と読んできたが、『事件』は読んでおらず、映画を見て初めて、壮絶な中絶体験があったことを知った。エルノー自身は、この作品を評価していると語っている。

当時のフランスで中絶はタブー。主人公のアンヌが友達に「具合悪そうだけど何か病気なの?」と問われ「主婦になる病」と答えたのが印象的だった。

労働者階級で生まれ育った 一人っ子で、親や近所に期待され、美しく努力家で聡明な女子大学生の主人公 アンヌが、これから自分自身の未来を切り開いていく矢先、ひと夏の恋の勢いでうっかり妊娠してしまう。
相手はアルファオス的な学生だが、いざ妊娠が発覚すると保身に走り、相談にも乗ってくれない、実にあるあるなお話。

妊娠するには男も女も必要なのに、なぜ女性だけが悩まなければいけないのか。その不公平さが、映画ではよく描けていた。

フランスのモットーは「自由、平等、友愛」。にもかかわらず、男女の平等はそんなフランスですら難しかったということがよく分かった。今はずいぶん変わっているのだろうが。

かたや日本に目を移せば、まだまだ女性が割りを食う社会が、歴史の名のもとに横たわっている。

「透明なゆりかご」という漫画がある。テレビでドラマ化もされた。産婦人科で看護師として働いた経験のある漫画家、沖田✕華(おきたばっか)さんが描いた作品だが、日本人の死因ナンバーワンは、癌でも脳卒中でも心臓発作でもなく中絶による死であることをこの作品で知った。

望まない妊娠が日本ではまだまだ多いということだ。

16歳の娘を持つ母親として、悪い予定しか立っていない(苦笑)これからの超高齢化日本で、娘たちの世代が、人間らしく、女性性も殺さず、豊かに生きるために、今自分にできることは何だろうと考えることがある。

少なくとも、女性だから何々を我慢しなさい という言動はしないようにしている。中学生の息子にも男性だからという話し方はしない。

エルノーが紡ぐ言葉は、極めて私的な内容でありながら、世界中の多くの女性の代弁をしている。私自身に中絶の経験はないが、もし映画と同じ事態になったら、想像を絶するぐらい悩むかもしれない。

もちろん女性にもいろんな考え方がある。

今NHK でやっている朝ドラ「虎に翼」もそのコントラストを際立たせているし、上野千鶴子さんの『こんな世の中に誰がした〜ごめんなさいと言わなくてもすむ社会を手渡すために〜』(光文社)にもそのことが詳しい。

上野さんの本を読むと、ドラマの面白さが倍増するかもしれない(余談だが、『こんな世の中〜』が面白かったので、鈴木涼美さんとの共著『往復書簡  限界から始まる』幻冬舎文庫刊も買ってしまった)。

結婚や妊娠、出産に対する違いは色々あって当たり前。ただ、いざという時、女性一人だけが当事者で、全てをかぶって&泣き寝入りという状況は時代錯誤と思う。

「あのこと」は、1960年代に大学生だったアニー・エルノーの実体験をベースにした作品だが、はて、日本は映画に出てくる恐ろしい 中絶の方法はおそらくしないで済んでいるにせよ、状況は変わってるのかなと疑問が残る。

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