星空

手紙

日曜の夕方に、私は紙の専門店を訪れた。友人から聞いていた店は、駅から歩いて15分程度の場所に品よく建っていた。小さな鈴の音を鳴らして扉を開くとすぐに、色の濃度に沿った綺麗な並びが目に入る。図書館と同じ空気。そう広くない店内で、どこに何が置かれているのか、見渡すことができる。

棚に対うと、棚の一番端に収まっている深い紺の封筒に目がいく。薄っすらと光る粒を含んだなめらかさに惹かれ、迷うことなく手に取った。罫線のない種類の並びから便箋を見る。私は、目の細かい和紙のような質感が好みだが、封筒と見比べると、やはりさらりとした紙が似合う。白、クリーム色、淡い水色を手に取り封筒に挿し入れてみる。深い赤、薄いピンクも一度手に取り、また戻す。随分と時間をかけ、茶色の縁取りのある、クリーム色の紙を選んだ。

封筒一枚と便箋を3枚手に取り、レジの前で周りを見渡す。綺麗な髪を一つに束ね、シンプルな形のエプロンをした店員さんが、急ぎ足でレジに回り込んできた。慣れた手つきで商品を包む目がとても真剣だった。出口まで案内し、商品を渡しながら「またお越しください」と、笑顔を作った。すっきりとした一重の素朴な顔立ちが、やけに印象に残っている。

家に帰り、紙袋から厚紙と共に取り出す。最寄駅の本屋で、便箋に合うよう買っておいたペンで、適当な紙にぐるぐると円を描き、馴染ませる。少しのヨレもない一枚の紙を前に、修正液を使うことは許されないような気がして、鉛筆に持ち直す。

贈る相手はいつも連絡を取っている人で、何を書くべきか悩んだ。書き出しをしばらく考えて「元気にしてる?」と、よくある始まりの言葉を選んだ。次に自分の話を二行ほど書く。「買い物をした時、あなたの好きな食べ物を見て…」と、日常の瞬間のことも書いてみた。それから次々に言葉が出てきて、一枚目の便箋がいっぱいになったところで、点けていたテレビの音が耳に入ってきた。

息を吐き、キッチンへ向かう。大きめのマグカップにインスタントのコーヒーを注ぐ。湯気に乗って濃い匂いがあがってくる。新しく買っていたクリープの中ぶたを開け、目安より二匙多く入れた。大人になればブラックでコーヒーを飲めるようになると思っていたが、まだコーヒーは苦い。

スプーンを回しながら部屋に戻り、再び向き合う。一枚目に綴った言葉を読み直し、続きの言葉を選ぶ。続きに、2年ほど前の思い出話を書いた。いつも電話で言うようなことも、文字にして並べると、くすぐったい気持ちになる。慎重に言葉を選びながら、二枚と半分で書き終えた。一度読み直し、ペンでなぞりながら、もう一度読む。きっと伝わるだろう。

便箋の端を合わせ、文字を内側に、丁寧に折り目をつけた。紙の中心に入った一本の影が、罫線のように文字の下にぴたりと合った。半分になった便箋を封筒に入れる。三角になった封筒の口には、乾燥糊が引かれていたので、ヨレないよう控えめに指先を濡らし、フチをなぞった。ズレることなく綺麗に閉じられた封を見ると、少しの達成感を覚えた。

白のペンで宛名を書いた。名前、住所、郵便番号。綴を確認しながらアルファベットを書いていく。ペンを置き時計を見ると、15分前に郵便局が閉まっている。

家に切手はあるが、せっかく選んだ封筒に、古っぽい野花の切手を貼るのは憚られた。翌朝、家から一番近くの郵便局へ行った。ATMに立ち寄る時にいつも見かける40代の女性が、丁寧に並べて見せてくれたが、あまりしっくりくるものがない。今後使う予定がないので無駄使いになるが、好きなデザインを選ぶためシートで購入した。82円を二枚、貼る位置を確認して右上に貼った。白に赤い線で建物が描かれた切手は、紺の封筒に映えていた。
そのまま消印が押される過程を見送った。

届くまで9日程度。
時間をかけて書いた手紙に、想いはどれほど乗せられただろうか。



(学部4年 住吉美玲 )