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極貧詩 327             旅立ち⑫

中学校生活最後の日の帰りの通学路
最後の足取りを残すかのようにゆっくり歩く
坂道が終わりかけたころヤッちゃんがおもむろに話し出す

「俺はおめえらがいてくれて本当にありがたかったよ」
「一番貧乏で、一番馬鹿な俺に付き合ってくれて本当にありがとな」
「おめえたちといると頭の良しあしとか関係なかった」
「金のあるなしなんてもっと関係なかったよな」
「最後に百姓でもちゃんと勉強が必要なんだって気づかせてくれたよな」
「俺最初は大工になりたかったんだ」
「でも大工だと家を離れて親方のもとで修業しなきゃならねえからな」
「俺ん家の父ちゃんは体が弱くて畑もあんまりできねえんだ」
「ばあちゃんと母ちゃんは毎日泥の様になって働いてるしな」
「チビ達も2人いるしな」
「俺が家にいて農業やればいつも一緒にいられるからな」
「幸い俺は体は人一倍丈夫だしな」
「丈夫な体に生んでくれた親には感謝してるよ」
「ろくなもの食ってねえのにこんなに丈夫だっつうな不思議だいなあ」
「毎日母ちゃんとばあちゃんが育てた野菜食ってたからかなあ」
「小学校からずっと毎日1時間くれえ走って学校に通ったからかなあ」
「俺が今、家を出てったらみんなが困るだんべからなあ」
「シゲちゃんは東京の工場に決まってからガラッと変わったんべ」
「俺はそれ見てて、俺もちゃんとしなくっちゃなって思ったんだ」
「イッちゃんだって、すげえ頑張ってたもんなあ」
「俺2人のこと見習おうと思ってな」
「バカな頭でこれでも考えたんだで」
「俺が新聞読んだり辞書引いたりしてると母ちゃんがたまげてな」
「おめえどうしたんだやって聞くんだで」
「何かがわかるってこたあ嬉しいもんだいな」
「俺は百姓がんばるよ」
「もっといろいろなこと覚えて農業ちゃんとやるよ」
「2人のこたあ本当にありがてえって思ってるよ」
「俺が今こんなにやる気があるなあおめえたちのおかげだよ」
「ほんとにありがとな、感謝、感謝、あめあられだよ」
「今度またいつ会えるかわからねえけど、また絶対会うべえな」
「おめえたちに自慢できるように頑張るからな」
「貧乏人、貧乏人、バカバカって言われてきたけど、もう言わせねえぞ」
「卒業っつうなあ寂しいもんだいなあ」
「シゲちゃん、イッちゃんほんとうにありがとうな」

ヤッちゃんは目に今にも零れ落ちそうに涙をためていた
時々目の端を指で押さえていた
シゲちゃんと俺は「うん、うん」と頷くのが精いっぱいだった

ヤッちゃんがこれだけきちんと話をしてくれるとは思わなかった
しかも家族愛、友達愛に満ちていてその真摯な語りに感動させられた
ヤッちゃん、こちらこそありがとう
これまでずっと友だちでいられてよかった、これからもずっと友だちだよ

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