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自転車のススメ

 多分オススメしても誰もやらないんじゃないかとは思うんですが、私の自転車生活のことを書きます。

 初めてまともな自転車に乗るようになったのは、小学校の二年生くらい。当時としては自分の自転車を持つのは早かったと思います。たまたま廃車のトランクから出てきた、当時では珍しい折りたたみの小径車でした。その自転車には中学生の半ばくらいまで乗っていましたが、周囲の友達は新しい自転車を買ってもらい、かなりコンプレックスを感じていたような気がします。フラッシャーが付いていたり、セミドロップハンドルで変速機が付いていたりして。私くらいの年代にとって、子供の頃のスポーツ自転車はあこがれでした。
 スーパーカーブームとも重なって、なんだかおかしな方向に行っちゃった自転車もたくさん発売されましたが、あこがれの頂点はやはりドロップハンドルのスポーツ車。当時はまだ日本にもたくさんの自転車メーカーがあって、ブリジストンのロードマンを始めたくさんのスポーツ車が発売されていました。でもね、当時の自転車は高価だった。最低でも五万円くらいから。今から三十年以上前ですからね。親も買ってやるには一大決心を必要としたでしょう。とくにウチは母子家庭だったし。
 そして中学三年の時だったかな? ついに新車のロードマンを買ってもらいました。近所の自転車屋で、一年型遅れになるから一万円安くなったモデルでした。その自転車はフレームがハイテンション鋼だったのですが、翌年の新型はクロモリ鋼のフレームになって、大幅に軽量になっていました。友達の何人かは新型を買ってもらったので、ずいぶんと悔しい思いをした事を覚えています。

webで画像を拾ってきました。まさにこの色、この姿でした。
 それからはどこに行くにもロードマンです。雨が降ろうが雪が降ろうが、高校の通学もこれです。当時喫茶店でアルバイトをしていて、アルバイトが終わった夜の11時から友達と九十九里まで夜通し走ったりもしました。午前四時頃海に着いちゃって浜辺で横になって寒さに震えたり、なのにしっかり海水浴して午後三時には家に帰り着いて爆睡してみたり。今みたいに安くて高機能なサイクルメーターなんて売ってませんから、一体どのくらいの距離乗ったのかはわかりませんが、何万キロかは乗ったんじゃないかと思います。その割にはろくにパンクもせずあまり故障した記憶がありません。最近になって知ったのですが、この自転車のタイヤって、今のシティーサイクルの27インチと同じ規格なんですね。道理で丈夫なわけだし、段差や荒れた道でもあまりストレスを感じなかったわけだ。


 その後原付の免許を取ってバイクに乗り始めるとほとんど自転車に乗らなくなりました。十八歳になるとすぐに車の免許を取って後は車一筋。いつの間にか乗らなくなって錆だらけになったロードマンは処分してしまいました。
 それからどれくらい経ったでしょう? 十三、四年かな? 自転車マニアの友達が居て、「新しい自転車を組むんだけど、もう置く場所が無いから一台あげるよ。実戦用に組んだやつだよ。一緒に乗ろうよ。」という願っても無い申し出に、クロモリの本格的なロードレーサーを譲り受けたのでした。彼とは身長も同じくらいで、フレームサイズもピッタリ。その自転車は、パナソニックのオーダーフレームで、ほとんどの部品が型遅れとはいえ、国産最高峰のDURAACEで組まれていました。すでに当時、手元変速システムのSTIは売られていたけど、変速はダウンチューブに付いたレバーで操作するタイプ。ホイールはマビックGP4というチューブラーリムの逸品をDURAACEのハブで組んでありました。
 せっかくもらった自転車。それも子供の頃は雲の上の存在だった本物のロードレーサー。
 その時はとにかく速く走りたくて、土手のサイクリングロードでずいぶん練習しました。
 そうこうしていると、いつも行く自転車屋で「今度筑波で耐久レースあるぞ。出たら?」なんて言うもんだからその気になってエントリしました。数日前に書いた、「失った1秒は永遠に取り戻せない」のレースです。

 うーん懐かしい。二十二年前ですね。
この時は、二人のチームで6時間を交代で走り、順位は真ん中よりちょっと上だったと思います。ほかのチームはほとんどが3人以上でローテーションしていたので、休む時間が少なくてキツかったですね。
 しかし、初めての自転車レース(で、今のところ最初で最後)にはとても興奮しました。
 集団走行で先頭交代をしながらだと40キロくらいで走り続けられる事や、失った一秒は永遠に取り戻せない事を実感してみたり、競う事で普段の自分では出せなかった力が出たり、補給にバナナは、裏のストレートで吐きそうになるからヤバいとか(笑)
 そして六時間走り終えて、ゴール後の周回では日が暮れかかり、コース上にたくさんのテールランプが光っていました。
 帰り道、みんなで焼肉屋で打ち上げをして、十人前くらいの肉とどんぶり飯二杯も食べてみたり。

ただどうしたものか? その後、ほとんど自転車に乗らなくなります。
なんだか燃え尽きちゃったんでしょうね。

 そして時は流れて2009年11月。
 レースに出た頃は、引き締まっていた体も、運動不足からずいぶんとナマってしまい体重も増えて心も淀んでしまったような気がしました。


自転車に乗りさえすれば。

 過去の体験、経験からそれはわかっていたので、自転車を買う事にしました。
 例のロードレーサーは、レース以来放置され、そのままでは乗れない状態だし、専用の靴とかウエアとかが必要で、やはり気軽に乗れる自転車じゃないのです。
「だいぶおなかも出ているし、前傾姿勢が緩くて、普通の靴(レーサーはビンディングシューズという専用の靴を履く)で乗れるやつがいいな。」と思い、自転車屋に行って、最近流行のクロスバイクというのを買いました。

 試乗した時は「お? 軽くて速いぞ!」なんて喜んだのですが、実際に長い距離を乗ってみるとなんか違うような気がします。なんだこれ?
 タイヤは太いのに、路面からの振動はガツガツ上がってくるし、フラットバーハンドルは幅が広くて、しばらく走るとすぐに手が痛くなる。なんだか転がらない気がする。ロードレーサーはこんなんじゃなかった。全然違う。
 というわけで、放置していたロードレーサーをレストアする事を決意。
 完全にバラバラにして、フレームの塗装を剥離し、全塗装。部品は洗浄して磨き倒し、使えないものは新しい部品を手配して組み直しました。

って、文章にすると簡単だけど結構大変でした。新品を組むのならそうでもないけど、レストアっていうのは大変ですね。

で、レストアしたんですが、ビフォーアフター

(正直こんなに美しい自転車になるとは思わなかった)

 そしてやはり乗ってみたらわかりました。
 クロスバイクとは全然違う。何もかもが違うって言うくらい違う。
 新しいし結構高かったし今風のクロスバイク。でもそれは自分が求めていたものなんかじゃなかった事に気がつきました。
 それでも、その後クロスバイクもあーだこーだとかなりいじくり回したんですが、結局ロードのようには走らないという事実を確認する事にしかなりませんでした。実際タイムトライアルバイクみたいな改造を施して、最高速は60km/hくらい出るようにしてみたんだけど、そもそもの自転車の性格が違うので乗っていて楽しくないし楽でもない。今ではそのクロスバイクにはカモメハンドルなんていうアップハンドルを付けて、自分で組んだホイールにチューブラータイヤを履かせてちょい乗り自転車になってます。そうしてみたらこれはこれでなかなかいいなと思える自転車になりました。

 ということで、気がついたらまたまた自転車に乗るようになりました。
正直、今回レストアをするまでは、自転車の部品すべてに手を入れるような整備はした事が無くて、ずいぶん勉強になりました。

 そして今では、休日、時間の許す限り自転車に乗ってあちこち出かけています。(最近乗れてませんけどね)
以前と違うのは、速く走る事が目的ではなく、小さな旅をする事が楽しくて走っています。だから、速度は遅くても、以前より一度に乗る距離がずっと長くなりました。
 基本、自走で日帰りですけど、一番距離を走ったのは、茨城の鹿島灘まで220kmくらい。

 帰れなくなっちゃうので、海辺に居たのはほんの数分(笑)

 そんな小さな旅の数々が、日常に穴をあけてくれました。

 春になると、土手の脇が菜の花でいっぱいの中を走ったり。

江戸川の始点にある関宿城博物館に行ったり。

高校生の頃を思い出しつつ、九十九里海岸まで走ってみたり。

サイクリングロードの帰り道、富士山の向こうに夕日が沈むのを見たり。

 で、ですね。新しい自転車なんか要らんなと。
 この鉄のフレームのロードレーサーで一生足りるなと。
 そう思っていたんですけどね。

 まあ、カーボンとか一応気になるわけですよ。お金は無いけどね。
 で、たまたまヤフオク見てたら、中古のカーボンフレームが安く出品されてて、そんな安く買えるわけないだろとシャレで入札しておいたら翌朝おめでとうございます!メールが・・・

落札しちまった ( ̄▽ ̄υ)アセ...

 買っちゃったもんはしょうがないので、部品かき集めて組みましたよ。
 フレームは2009年モデルのFUJIのCCR3っていう完成車のフレームのみ。
 変速関係はSHIMANOの105のあえて9速をチョイス。
 ホイールはクロスバイクTTバイク化プロジェクトの時に買ったDTスイスのセミエアロ。
 その他諸々で以下のようになりました。

 この写真、組んだら乗りたくて、調子こいていきなり富津岬まで往復160km走った時のです。

 正直、カーボンフレームいいです。
 振動が上がってきません。楽です。
 クロモリは柔らかくてロングライドが楽とか、最近たわけた事書いてる雑誌が多いけど、本物の鉄のレーシングフレームは固いです。というかカーボンだってレース用は固いはず。このカーボンフレームはカタログによるとコンフォート・ロードだそうです。格好はレーサーと変わらないけど、ロングライドが楽な設計になっているみたい。これは今の自分の用途に合っています。なので最近はこの自転車に乗る事が多いです。
 サドルに大きなバッグが付いていますが、こんなのロードに付けるのは似合わないとかおかしいとか邪道だとか色々あるかと思うんですが、そもそもこういうバイクよりバッグの方が先に存在しているんですよね。ハンドルにフロントバッグで運用してた時もあるけど、ハンドリングがえらい事変わっちゃって面白くない。だけど旅先でお土産買いたいし、そこそこ荷物もあるし、特に夏なんかリュックとか汗みどろになるし肩もこるし背負いたくないのでこうなりました。ちなみにバッグのメーカーはイギリスのキャラダイス。17リットルくらい入るので重宝してます。(「拘りを捨てろ」で書いてるバッグです)

 それで自転車の何がいいんだよ? って話なんですが、車や電車の移動とかって、AからBに移動する間って基本移動するだけなんですよ。ところが自転車はずっと移動の過程も愉しめるんですよね。ちょっとなにか気になれば、気軽に止めて見たり食べたりできるし、ものすごく世界が濃密に感じられる。雉(キジ)が目の前横切ったり、ウグイスが鳴いてたり、時には道の真ん中で蛇がトカゲ食べてたり。その時は車に轢かれちゃうから棒切れで道の脇に追いやりましたけど。その隙にトカゲも逃げちゃったから蛇に恨まれたかな? でも車に轢かれるよりよかろう。

https://youtu.be/fVS8NKIxQcI

 それに独りで走るので、行き先も決めずにふらっと出て、適当にノラクラ走るのもいい。予定なんかないんだし、道に迷っても自分独りだから誰にも迷惑かけるわけじゃないし。

(だけどイノシシ注意!!冒険なんですよ。)

 そしてとんでもなく遠くまで走っちゃったら、自転車バラして輪行袋っていう大きな袋に自転車入れて電車で帰ってくることもできますし。

 さすがに千葉の勝浦とか館山まで走った時は、帰りは電車で帰ってきましたけど、それもまた愉しい。山の中で遭難しかけたり。

 そして行く先々で、知らない道を走って、入ったことのない店で食事して、なにか旬の物でも買って帰る。

 パンクしたりメカトラブルがあれば、それは全部自分でなんとかしなきゃならないけど、はじめから覚悟しておけばなんてことない。なんせ自転車バラバラにバラして一から組んだんだからなんとでもなる。

 で、タイトルでススメとか書いておきながらオススメできるかってえと、これはもう個人差ありまくりでなんともいえません。

 それに、先週どこそこまで行って帰って160キロ走ったというと、異常者を見るような目で見る人もいますからね。(標準偏差からいえば確かに異常なのかorz)

 実際ぶっちゃけ自転車なんかちゃんと走るように整備してあるならなんだっていい。私の場合はできるだけ楽に遠くまで行けるように、それに合わせて色々組み合わせてありますけど、遠くに行けばいいのかといえばそうでもない。人間、自分が住んでいる10キロ圏内だって知らないところだらけだから、裏路地散策とか、ちょこちょこ写真撮りながらでもきっと愉しい。だからその人なりの愉しさを見つけられるかどうかってことなんだと思います。

 やっぱり書いてはみたけど、伝えたいことの半分も書けないですね。

 いや、そうじゃないのかな。

 きっとそれは実際に自分でペダル漕いで走って経験してみないと、言葉では伝えられないのかもしれない。

 この数年で3万キロくらい走ったけど、それを言葉にするのは不可能かもしれませんね。

 ちょっと信じられないかもしれないけど、帰り途くたびれて自転車漕ぎながら空を見上げると、唐突に、なんて世界って綺麗なんだろう。とか思うんですよ。ちょっと頭沸いてるだろ? とか思うでしょ? 

 そういうことを言葉で伝えるのは無理なんだろうな。きっと。

ちなみに、この二年くらいの自転車旅はこちら






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