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10987K1D−4

な、何を言っているんだこいつ、今宇宙人って言った…?
相変わらず大きな雑音が声と同時に溢れてきて、もしかしたらそれで空耳したのかもしれない。

「あ、チなみに君ガ今考えテイるヨうな空耳デはナイよ、ボクは宇宙人ト言ったンだ」

僕は息が止まる思いだった。
まさにそれを聞き返そうとしたところへ、声の主は知っていたかのように言い当ててきたのだ。
しかも少し笑いながら、楽しそうに。
僕は声を出そうとしたところを寸前で止められ、今度は逆にアウアウと漏れ出てくる声を止めることができなかった。
しかしそんな僕の気持ちとは裏腹に、声の主は構わず続ける。

「ソレに10987K1Dっテイうことはアレだろ、宇宙人トいうと灰色クテ眼の大キい頭でっカチの二足歩行ヲ想像しテいるンだロ。あレも居なクはなイケど、ボクはあレとはチョっト違うかナ。あト星を侵略すルトかそウいウのとも違ウ、そンな怖いコトしよウなんテ生命体ノ誰も思ってヤしなイカら安心しテ」

相変わらず何を言っているのかスッと頭に入っては来ない。
でもとにかく声の主はなんだか、すごく楽しそうだ。

「心配しナくテモ、今かラ君に何か攻撃をスるとシテ、210億光年離レたボクの手が君ノイる10987K1Dまデ届くのハどう頑張っテモ君が死ンだアトだよ。コっちでもヨうやくギリギリ光速クラいの速サでしか動けナイからね」

理解が追いつかないスピードでどんどん話が進んでいく。
210億光年?光速?どういうこと?
そして声の主は最後にこう付け足した。

「それヨリさ、君のコともっと教エテよ!」


勝手にベラベラ喋っておいて最後は急に僕に話してこいだなんて、いったいなんなんだ。
それにそんなこと言われて何を話せばいいんだ、何を話すなら大丈夫なんだ。
宇宙人だなんだ言っておいてこれが何かの詐欺かもしれないし、確かに声は子供のものに聞こえるけど、これだって漫画に出てくるような変声機で声を変えてるのかもしれない。
湧いてくる不安と、でも話さないでいるのも怯えているみたいで悔しいという気持ちとがぐるぐると胸をかき回していく。
だんだん腹も立ってきて、もう心がグツグツと煮えたぎる。
ワナワナと震える唇、頭痛がしているのか頭の中でズキンズキンと音を立ててる。

一瞬機械から偶然高い音の雑音がピーっと鳴った、その時身体が反射的に反応した。
口が開く。

「僕はキタバ ユースケ、東京に…地球に住んでる!」

大きな声が出た。
今まで出したことのないくらい大きな声。
パパが起きてしまうとかそんなこと全く気にならなくなっていた。
また一瞬の沈黙の後声が聞こえてくる。

「あはハは、おーきナ声だね!やっパり10987K1Dの生命体”ヒト”だったンダね!少シ前にソこと交信をシタっていウ話があって、ソれは嘘ダとか噂二過ぎないッテ言わレてたけド、本当にアった!すゴいスゴい!」

僕はいったい誰と話しているんだ、本当に宇宙人なのか、それとも面白がって僕を騙そうとしている人なのか。
でもとにかく楽しそうなその声の主をどうしても悪人だなんて思えなくて、むしろ年の近い友達くらに思えてしまう。

「僕は…キタバ ユースケ…」
「ウんうん、それハ聞いたヨ、もット色んナこと教えてヨ!」
「野球が好きで…勉強は嫌いで…パパはうっとおしくて…ママに会いたくて…」

次々と言葉が出てくるようになって、想いが溢れてきて、なぜかプールに入ったみたいに目がぼやけてくる。
こんなに僕のことを知りたいなんて言ってくれた人は初めてだ。
もっとも、人ではなく宇宙人なのかもしれないけど。
どんなことを喋っても楽しそうに笑いながら聞いてくれる。
初対面で、しかも顔も正体もわからない相手に変な話なんだけど、それがすごく嬉しかった。
もっともっと話したいって思った。
そうしたら今度は僕も彼のことをもっともっと知りたいと思った。
もう怖くない、震えていた唇もいつものようにスムーズに動く。

「ねえ、じゃあ今度は君のことを教えてよ」
「ウん、僕もソウしたイと思ってたトコろだヨ。でもごメン」

息を少し吸った彼はここまでの楽しそうな雰囲気とは違い真剣に、少し焦ったようにしながらこう言った。

「もウここでお別レみたいダ」

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