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『生きた。描いた。愛した』 三岸節子さんの画業を一望・一宮市三岸節子記念美術館「赤ちゃん&こどもアート鑑賞会」ルポ

 愛知県の一宮市三岸節子記念美術館さんに毎年お招きいただいて、赤ちゃんから小学生とご家族が参加する鑑賞会を実施しています。今年度はコレクション展「花より花らしく」を鑑賞しました。

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 「生きた。描いた。愛した」という鮮烈な言葉は、数年前に放映された、テレビ東京「新美の巨人たち」で耳にしました。近藤サトさんの貫禄あるナレーションも相まって大変印象に残りました。
 鑑賞会の準備に際し、あらためて美術館の「こどもセルフガイド」を読み直したところ、この言葉が掲載されていることに気づきました。学芸員さんに「どなたのお言葉なんですか?」と尋ねたところ、三岸節子さんご本人が残した言葉なんだそうです。
 そうでしたか! エッセーなどにも飾らない魅力を感じていましたが、ご自身をこんなに端的で潔い言葉で表現されるとは、やはり節子さん、カッコイイです。
 
 美術館では、常設のシアタールームで節子さんの生涯を振り返るビデオを観ることができます。節子さんご本人の姿と声、そして作品を前にすると、「生きた。描いた。愛した」という言葉通り、濃密な画家人生が浮き彫りになります。
 
 実は毎年、入口にある節子さんの像の前で「今年も鑑賞会をさせていただきます。子どもたちに節子さんの作品と思いを橋渡しできるよう努めます。どうぞお見守りください」と拝んでしまうんです。そしてビデオも拝見して、節子さんをありありと感じる。それが私の慣わしになっています。

見守ってくださっているような、遠く歩んだ画業を思い起こされているような

 今年の展示タイトル「花より花らしく」も、素敵な言葉だと思いました。見えるものの実体以上に、そのものの持つ本質を表現したいという、節子さんの思いが託されている気がしました。それを鑑賞会でうまく伝えられるかどうか… お子さんたちにも大人の方にも、何か節子さんの息吹や思いを少しでも感じていただけますように。

 そんな思いで臨みまして…
 ご家族もお子さんたちも、皆さんリラックスして参加してくださって、「ここは春の草原かしら?」というような、心が満たされる、優しさが広がる鑑賞会でした。実施する側も参加する側も一期一会なんだけれど一体感がある。

 いつもながら思うのは、学芸員の皆様が、日頃から家族連れの方に思いを寄せていらっしゃること。それこそが現場で優しい空気を作る源で、感謝しきりです。

 美術館の入口には、節子さんの人生にちなんでベネチアのゴンドラが設置されています。乗ることができるんですよ! 楽しそうに記念撮影しているご家族を見かけることもあります。
 お絵描きコーナーもありますし、子どもたちをあたたかく迎えてくださる美術館です。

ゴンドラ。初めて訪れたとき、私も乗っちゃいましたよ♪

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 さて本記事は「ルポ」と銘打っておりますが、実際に子どもたちが話したことを紹介する動画が近日公開されますので、そちらをご視聴いただけましたら幸いです。
 時々、一宮市三岸節子記念美術館HP https://s-migishi.com をチェックしてみてください!

(昨年2022年度(2023.1月実施)の動画はご覧いただけます)
・2023.1月鑑賞会:www.youtube.com/watch?v=D7FUNrWXG3w&list=PLIHL29qDQSJ-1t8hg0hT7IY0dJmoFa0CA&index=2
・ガイダンス動画:https://www.youtube.com/watch?v=rNODe1A5sw0&list=PLIHL29qDQSJ-1t8hg0hT7IY0dJmoFa0CA

 子どもたちのビビッドな見方は、大人の方にも新しい視点を投げかけてくれることがあるので、各地美術館さんと動画や冊子、展覧会の企画などに取り組んでいます。
 鑑賞は人生経験との呼応もあるので、必ずしも示唆に富むものばかりではないですが、なかなかにおもしろいかと。ほっと和むような様子もご紹介しています。

展示室で観て感じたことを、くつろいでお話ができるように、別部屋を用意していただいています

今回、ほほ~と思ったのは、
 4年生 節子さんの夫である三岸好太郎さんの「蝶」(1934年)を観て 
「絵(描かれているもの)が少ないのに、満足する絵」
 と。玄人さんですか~?というコメント!

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 動画でご紹介しなかった作品から少し。

「小さな村」(198年)
 2歳10ヶ月の子がとても恥ずかしがって鑑賞どころではなさそうな様子でしたので、「Mちゃんの好きな色は何色?」と声をかけました。小さい声で「ピンク好き」と。「私もピンク好きだよ~。ほら、ピンク色の絵があるんだよ」と、この作品の前にお連れしました。みるみる目が輝いて、緊張がほぐれていました。
 展示室では、「好き」を探すと楽しいです!

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「自画像」(1925年)は、ぜひ一度ご覧いただきたい作品です。
 節子さん20歳。お腹に子どもがいる時期、画業で立っていく覚悟がみなぎる、射抜くような目。
 全国巡回展に貸出中で、複製画が展示されています。(「春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」)
 その巡回展を東京ステーションギャラリーで観たとき、ずらりと並ぶ「おじさん画家」(失礼な物言いですみません!)の作品の中で異彩を放っていました。発表当時、さぞ驚きと期待を持って迎えられたことでしょう。
 鑑賞会では、2歳の子が「(今回の展示の中で)一番じっと見ていた」という作品です。

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右のほうに見えるのが「さいたさいたさくらがさいた」です!

「さいたさいたさくらがさいた」(1998年)は必見です!!
 圧倒的な存在感を放ち、毎年の鑑賞会で子どもたちに大きなインパクトを与えています。
 そして観る人それぞれに異なる気づきのある作品です。
 この作品について、3月30日(土)に「新美の巨人たち」で放映されるようです。今回は富永愛さんのナレーションなんですね、それも楽しみです!
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 一宮市三岸節子記念美術館「コレクション展「花より花らしく」は、2024年4月14日(日)まで開催中です。

 一宮市三岸節子記念美術館 https://s-migishi.com

(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)

(館内の写真は、一宮市三岸節子記念美術館さんが撮影し、当会へご共有くださった写真を掲載しています。鑑賞会の際、美術館と当会SNS等で掲載する旨を、ご家族にご了解いただいております)

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