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若冲は日本画のバラエティパック

日本画って、ちょっと地味でとっつきにくい印象はありませんか?

しかし、一口に日本画といってもその表現は実にさまざま。
一見地味なモノクロ水墨画、カラフルな絵巻物、金銀を使ったド派手な屏風絵などなど…

そうした日本画の多様性を堪能するのに、ぴったりな絵師がいます。

かの有名な、伊藤 若冲です。

若冲は江戸時代の絵師で、昨今大変な人気を博しています。
緻密な動植物の絵が有名ですが、それだけではもったいない!
他にも面白い作品がたくさんあるんです!
今回は、多様な表現技法を使いこなした若冲の魅力を余すことなく紹介します。

彩色画

目の覚めるような鮮やかさ

やはり若冲といえば、コレを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

『紫陽花双鶏図』
雄鶏が雌鶏に求愛する場面です。
鮮やかな紫陽花、バラ、ツツジが、文字どおり花を添えています。


ぱっと目を引くのが、発色の美しさです。
特に鶏の赤、紫陽花の青・白の鮮やかなこと! 
展示室にこんな絵があったら、真っ先に目がいくでしょう。
若冲の作品にはしばしば最高級の絵の具が使われており、今日現在まで美しい色を保っています。

さらに色彩を際立たせるため、裏から色が塗られていることもあります。
「裏彩色」という技法です。
(支持体が絹なので、絹の隙間から裏地の色が見えます。)
表から見たときの色合いを強調したり、変化させたりする効果があります。

『老松白鳳図』
ハート形の尾羽も印象的ですが、羽根の美しい白さが目を引きます。
白い羽根には、胡粉や黄土を下地にした裏彩色がほどこされています。


脅威の緻密さ

ご覧のとおり、描写がとにかく細かいです。
細かすぎます。

『向日葵雄鶏図 』


『南天雄鶏図』


羽根の一枚一枚、トサカの質感、花びらや実の色と形、葉の色の微妙な変化などなど
いずれの作品も何一つ取りこぼしがありません。

どこを見てもすごいのですが、特に驚くのは羽根の描写です。
模様の種類が身体の部位毎に異なっています!

信じがたい緻密さ、それがゆえのものすごい迫力です。

なのに抜け感もある

細やかな描写に目を奪われがちですが、それだけではありません。
よく見ると、背景などが大胆に省略されたものもあります。

『老松白鶏図』
鶏は真に迫っていますが、よく見ると背景の松はかなり簡略化されています。
放射線状の黒い線の上に、緑の絵具を丸く置いただけです。


『芦鵞図』
鵞鳥のリアルさは相変わらずですが、後ろの芦は墨一色。
しかも、筆を一振りしただけのようなシンプルな筆運びです。


こうした細かさとラフさの使い分けも、若冲作品の見どころの1つです。
画面にメリハリがあり、どこに目を凝らしても新しい発見があります。

金がまぶしい襖絵

さらに派手な作品も!

日本では古来から、絵画などに金銀の装飾が使われてきました。

長谷川等伯『楓図』


若冲も例に漏れず、金箔をふんだんに使用した襖絵を作成しています。

『仙人掌群鶏図』
10羽のニワトリと7羽のヒヨコがバランス良く配置されています。
背景は金一面。緑のサボテン、青い岩、赤いトサカが金色によく合っています。


鶏のポーズはまるで歌舞伎役者のよう!
若冲らしい華やかな鶏たちが、派手な金地によく映えています。
日本美術らしい豪奢な作品です。

水墨画

華やかな作品ばかりではありません。
モノクロームの水墨画も面白いんです!
色は墨一色ですが、その表現は多彩です。

大胆すぎる筆運び


『鶏図』
走り書きのような尾羽が目を引きます。
一方、胴体の羽根のふわふわした質感はしっかりと表現されています。


同じ鶏といえど、先ほどの彩色画とは全く印象が違います。
尾羽の筆致はあまりにも勢いがよく、この部分だけ見たら何を描いているか分からないほどです。
これはこれで動きが感じられて魅力的です。

『鯰・双鶏図』一部
しなだれるススキと、水中を泳ぐ鯰が描かれています。
ススキも鯰も、黒く塗りつぶしたような大胆な筆致です。


この鯰!墨の固まりをこぼしたかのよう!
それでいて、鯰のかたちは的確に表されています。

『鶴図押絵貼屏風』一部
(左隻第5扇・右隻第2扇)
六曲一双の屏風です。それぞれの画面に様々なポーズをした鶴が描かれています。
若冲は鶴を題材とした作品をたくさん手がけました。


輪郭線には何の迷いも感じられません。
胴体も足も、潔いほどシンプルな線で表されています。
ここまでデフォルメされているのに、鶴の動きは真に迫っており、鶴が目の前にいるかのように感じられます。

いずれの作品にしても、このシンプルさでこれほど生き生きとした表現がなされているのは、驚くべきことです

オリジナルの技法

若冲は、水墨画で独自の技法を生み出しています。

『鯉魚図』
鯉の姿を真横からとらえ、大胆に切り取っています。
画面から鯉が飛び出してきたたかのよう!躍動感たっぷりの作品です。


鯉の鱗には「筋目書き」という技法が使われています。
滲みやすい紙の上に淡い墨を置き、墨が浸透しない部分の境界線に白い筋目を残す技法です。
若冲が独自に生み出したといわれています。

『鶴図押絵貼屏風』一部(左隻第2扇)
羽根が筋目描きで描かれています。


若冲は10代で画塾に入ったものの、厳しい教えに馴染めず、画塾を辞めて独学で絵を習得しました。
試行錯誤の日々だったからこそ、固定概念に囚われない新たな技術が習得できたのでしょう。

ユーモアも忘れない

若冲の絵は遊び心も満載です。

『果蔬涅槃図』
ここには、なんと88種類もの野菜がいます!
ちなみに若冲の生家は青物問屋です。


「涅槃図」とは、ブッダが亡くなる場面を描いた絵のこと。
中央に入滅するブッダ、その周囲に嘆き悲しむブッダの弟子、そのそばに沙羅双樹の樹が描かれるのが定石です。

『果蔬涅槃図』では
 ・二股大根を横たわるブッダに
 ・周りの野菜たちをブッダの弟子に
 ・トウモロコシの茎を娑羅双樹に
見立てています。

ユーモラスなだけではありません。
墨の濃淡のアクセントが絶妙で、モノクロとは思えないくらい画面が生き生きしています。
それぞれの野菜の特徴がしっかりと描き分けられているのもすごいところです。

変わり種

ここで、変わり種を紹介します。

『鳥獣花木図屏風』右隻
『鳥獣花木図屏風』左隻


タイルや布にも見えますが、そうではありません。
紙に方眼を描いているのです
(「枡目描き」という技法で、これも若冲が生み出したといわれています。)

方眼の大きさはわずか約1センチ四方。
その数、なんと85,000個以上です!!
しかも、一つの方眼の中で色の変化を付けています。

拡大図
1センチ四方の小さな四角の中に、三重の四角が描かれています!
信じがたい細かさです。


恐ろしいのは、これをすべてフリーハンドで描いていることです。

2月12日まで出光美術館で展示しているので、是非直接見てください。
(すごすぎて言葉を失いました。)


どれを見ても楽しい!

あらゆる種類の絵画を網羅した若冲。
その表現は幅広く、同じ人が描いたと思えないほど!
どの作品を見ても新鮮な驚きがあります。
何を見ても、誰が見ても楽しめるのが若冲の魅力です。

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