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生長しつづける「絵描き」の絵 ―佐藤直樹《そこで生えている。2013-2021》―

東京ビエンナーレ2020/2021に《そこで生えている。2013-2021》を出展する佐藤直樹さんからお話をうかがった。雑誌のアートディレクターなどデザイナーとして活躍され、多摩美術大学ではグラフィックデザインを教えている佐藤さんが2013年から描きはじめたのが《そこで生えている。》だ。3×6板(横91センチ×縦182センチ)のベニヤ板を横へ横へと連ねながら植物や石などの自然物を木炭で描く。7年を経てその横幅は220メートル。そしてこの「長い絵」は佐藤さんの手によっていまも「生長」しつづけている。

佐藤さんいわく、この絵はアートでもデザインでもない。クライアントのために共同でデザインを生み出すことから離れて「たががはずれた」ように自分の絵を描きはじめた。ただ「絵画作品を完成させるという感じではない」という。佐藤さんの著書に所収されている小崎哲哉氏との対談では、アウトサイダーアート、ボタニカルアート、実存、遊びというこの絵に対する小崎氏の例示に対し否定的であるが、「アートではない」ということには強く肯定する。一方、椹木野衣氏の「これは絵ではない」という言葉には肩を落とす。アーティストでもデザイナーでもなく、その手前の絵を描くことの初源に「絵描き」として向きあっているのだ。

2017年の著書から今回のインタビュー、その後の小金沢智氏との対談動画をつうじて、この絵に対する佐藤さんの「変化」を私は感じる。それは「展示」「見られること」への意欲だ。佐藤さんは「描いているときは、見られることはまったく想定していない」という。一方で、全長220メートルの《そこで生えている。》はひとつの空間にならべて人に見てもらうことを見込んでいる。そうすれば「美術」だけで完結しないものにつながるはずだ、と東京ビエンナーレへの期待を述べている。この絵の展示にふさわしい場所は屋外ではなく都市のなかの屋内空間だと断言する。

私はまだこの絵を見ていない。絵描き・佐藤直樹の追い求める絵の初源を東京ビエンナーレでぜひ感じてみたい。

渡抜貴史


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