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男はプライドの生きものだから(1)

 「相手が誰であれ、真実は謙遜して話すこと。そのときはじめてあなたは誠実な人とみなされる。」 (ラコタ族)


もし真実を言うことが禁じられていたら?

そんな社会に生まれた者は、いつも必死に何かを隠さないといけません。

テレンス・リアルが書いた『男はプライドの生きものだから』はもう絶版です。彼はアメリカのセラピスト。

たいせつにこの本をとっておいたのですが、わたしは”苦しむ”従弟にあげてしまいました。

アマゾンの紹介欄にはこうあります。

「私たちが生きる社会は、困難に揺さぶられる男よりも、目をつぶって傷心のまま歩きつづける男をほめたたえる。

感情豊かで脆い男を好まない伝統は生きつづけている。

多くの男たちが、「意気地なし」の病気を恥じ、助けを求めることを拒んで自殺する。男性は女性の四倍も自殺する率が高い。」

日本でも男は女性の3倍も自殺します。殺人は99%が男性によります。男が罹患する特有の病があると思わざるを得ません。



1.夕暮れのシーン

テレンス・リアル自身、最下層の人たちが集まる街に育ちました。スラム街です。

暴力と麻薬、売春。グループの間に抗争が絶えなかったところでした。

仲間は、みな17歳になるかならないかの内に死んで行きました。彼自身、自分もそう死ぬものだと当然のように思っていた。

彼の父はよく彼をぶったのです。

大きな男で威勢もいい。けっして弱みを見せない男でした。

育つにつれ、テレンスはそんな父にだんだんと何かの隙間を見ます。

あるとき、父に「どうして父さんは僕をよく殴ったのか」と聞き始めます。

父は不機嫌そうに取り合わない。もごもごと言ってはぐらかす・・。父は逃げました。


ある夕暮れのシーンが描かれます。

夕闇の中で、テレンスは、今日こそは逃がすまいと父に迫りました。

「どうして父さんは僕をよく殴ったんだ?」と。

もう彼は父に並ぶ背に成っていたかと思います。

父はやっぱりそれを話すことを拒みます。「オレはそれは話したくない・・」。

しかし、テレンスは許さなかった。「どうして父さんは僕を殴ったんだ?」。

とつぜん、大きな体の父が泣き始めた。

「男は強くなきゃいかん・・。オレは、ただ、お前に強くなって欲しかっただけなんだ・・・」


父は暴力を振るったことは詫びれませんでした。

でも、常に虚勢を張り続けた父親像が崩れた瞬間でした。

父自身もそうやって育てられたのでした。

絶対に強くなければならないと。負けてはならないと。

テレンスはやはり疑問だったのです。

なぜ、争わないとならないのか、なぜ優しさを持ってはいけないんだろう。なぜ、父は母と僕を始終殴るんだろうか。

彼は一番の核心に迫りました。

そこには、虚勢の下に弱さを隠し続けた父がいました。


彼は奨学金を得て、大学で学びます。(仲間の誰もそんな道には進まなかったのです)

彼はこの世のカラクリを知り、そして同じような文化遺伝に苦しむ者たちを助けようとセラピストの道に進みます。

そして、カウンセリングを繰り返す中で自分が学んだことをこうしてわたしたちに届けたのでした。



2.いくじなし。。

そう。

男性はプライドに邪魔され、人に弱みを見せたり相談したりといったことが依然として難しいのです。

従弟は、次々と祖母、父、母を虐めて行ったけれど、また、それぞれの葬式の際には、号泣したのでした。

彼は怒りに任せて親たちを否定していった。と同時に、愛してもいたのだと思う。

早くから仲間とナナハンを飛ばし、粋がってました。男のように気の強い母と、まったく大人しい父。。

愛を表現することを知らない、彼も”強い男”だったと思います。


従弟は、最後に母も虐めてしまいました。

勉強が苦手だった彼はきっとこの本は読んではくれなかったのです。

彼は、今でも、自分がずっと”苦しんでいる”ということをけっしてわたしには認めないでしょう。

これは、従弟とわたしが負うた血の、そして男たちが苦しむ物語です。


わたしたちの国でも3万人以上が毎年、自殺しています。

先進国の中で、日本と韓国は群を抜いて自殺率が高いです。ドイツ、フランス、ロシアも高い。

ほとんどは40代から50代の男性です。

ほとんどは経済的なことです。

でも、同じ苦難にあったからといってみんな自殺するわけもないのです。

死ぬほど心が疲れ果てた人が多い国々といえます。


長い間、何代にもわたって感情を抑圧してきたため、自分が何を感じているのかさえ分からなくなった男性は少なくないとテレンス・リアルはいいます。

ずっと男は自然に立ち向かい、戦いをかいくぐらねばなりませんでした。

それは、あなたが想像する以上にむかしから。

徴兵制、義務教育、大量生産のための勤労・・・。近代は男たちにさらに強制が加わりました。

それは良いも悪いも無く、嫌だということが許されないリアルでした。

この世界は、特に男たちに感情の抑圧を課してきたでしょう。

だから、ささいなことでも沽券にかかわるのが男で、何でも言い放つのが男で、滅多なことでは自分の感情を言わない(言えない)のが男なのです。

ぼくは寂しかったんだぁとか、辛いんだぁとか言うことを禁じ、内面の柔らかは絶対に隠す。

もし、それが知れてしまうと思うと屈辱に狂い死にしそうになる。。。

誠実さなんかくそくらえ。恥は、絶対にあってはならないこと。



ようやく、「にんげんだもの」と言ってもいい風潮となりました。

セクシャリティの違いを表明する人も増えました。

令和となり、女性も多く働く戦士となってきた。

でも、男性、男の子に期待される強い男性像がいかに自分たちの心を傷つけているか、気が付いていない人も依然として多いのです。

パンデミックや戦争、不況と失業。やはり21世紀も懲りずに繰り返されていて、戦士たちはそこから逃げれない。

この70年ほどは、たまたま日本に戦争が無かった稀なる時期だったに過ぎません。

柔らかなこころのヒダを隠して、意を決しなければならないことも確かに存在し続けています。

オレ、が泣いていては家族が死ぬのです。

やはり、今も男は強く無いといけない。

わたしは、「いいじゃないですかねぇ、ばかにされたっていいんですよね、出来損ないとなめられたって。ねぇ・・」とは安易には言えないのです。

多様性尊重の前に、先ず自分の家族が生き延びねばならないからです。

破綻?

ええ、それはいずれにしろ虚勢という偽りは破綻します。病に罹った男は、死を持って贖(あがな)うでしょう。


人間関係を豊かにできない、コミュニケーションの仕方がよく分からないという男性は多いとおもいます。

その根っこに、「いくじなし」と言われまいとする機構が依然として居座ってる。

だから、「にんげんだもの」と言う前に、せめて「男はプライドの生き物だから」と声高に表明するところから始めたい。

この本は画期的なものでしたが、その体験は著者、テレンス・リアル自身の生い立ちに裏打ちされています。

あなたの街の図書館なら見つけられるかもしれません。。



P.S.

ウツ、自殺、子や妻への虐待、麻薬への逃避、短絡的な殺人、蔑み、閉じこもり・・・。

いろんな現象が現れますが、どれも他者の評価を気にする根っこから湧き出していると思います。

男たちは、すごく何かに怖がっている。

ほんとの自分の声と世間体との間に板挟みになる。

その解決は、ウツ、自殺、子や妻への虐待、麻薬への逃避、短絡的な殺人、蔑み、閉じこもり・・・

文化遺伝として歴代の子に渡されて来ました。


あなたも、今もこの男子の病に蝕まれているのかもしれません。苦しいのかもしれない。

でも、どうぞ、自分の代でこれを叩き切って欲しいのです。

あなたの血はあなたしか変えれない。

あなたが、その終わりまで弱気な、ビビリな、何者にもなれなかった男だったとしても、しかし、命を掛けるに値することでしょう。

けっきょく、あなたが死ぬとき、誰もあなたを尊敬もせず、すごい人だったといって銅像も立てないのです。

でも、誰にも気づかれなかったとしても、あなたの妻に、あなたの子孫たちに、笑い微笑み、困難に立ち向かう勇気を植え付けることもできるのです。


テレンス・リアルは父のようやくの告白を聞いた後、自分の人生を自分の足で歩き始めました。

彼はたまたまではなかったのです。

理不尽なこの世界に怒り、仲間を救いたいって思ったのです。

わたしたちも、自身の責任において自分の代で忌まわしいこの文化遺伝を終わらることが可能です。

それは責務というよりも、あなたの生きる希望となる。

次世代のさらなる先を想うことはあなたに勇気を与えるでしょう。

そして、妻とふたたび歩き出すでしょう。

いいのです。わたしたち男は命繋ぎの踏み台で。

もともと、わたしたちは、来た時何者でも無かったんですから。

ねぇ、そう思いません?

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