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社内向け文字起こしサービス「YOLO」でUXデザインを真剣に考え始めました

こんにちは。メディア研究開発センター(M研)の新美です。
最近ダイエットのためにジムに通い始めましたが、運動を頑張った自分へのご褒美でいつもより食が進み体重が微増しました。

さて、今回は社内向け文字起こしサービス「YOLO」の開発チームでの取り組みを一部ご紹介したいと思います。
YOLOについての詳細は下記の記事をご覧ください。

はじめに

YOLOは2021年1月に社内向け(主なターゲットユーザーは記者)にβ版をリリースしてから約2年が経ち、アップロードされた音声ファイルや動画ファイルも少しずつ蓄積されてきました。
これまでは研究開発組織として研究した成果をサービスに反映させる、いわゆるプロダクトアウトの開発方法を取ってきました。しかし、ユーザーにとってより使いやすいUI/UXを提供するためには、ユーザーのニーズに焦点を当てたサービス開発が必要です。そこでチーム内である疑問が浮上しました。

ユーザーについて、全然分かってなくない?

新しい機能を開発する場合、その機能がユーザーにとって本当に必要なものであるかを理解できていなければ、より良いサービスを提供することはできません。そこで、YOLOを利用しているユーザーの特徴や利用方法、またYOLOを利用していないユーザーはなぜ使っていないのかについて、徹底的に調査することにしました。

そもそもUXデザインとは

UXデザインとは、簡単に言えばユーザーがWebサイトやアプリなどのデジタル製品を使った際に、その使い心地や体験を設計することです。つまり、ユーザーが製品を使いやすく、快適に使えるようにするための設計です。

アメリカのUXデザイナーであるJesse James Garrett 氏によると、UXは次の5つの要素で構成されていると考えられます。

UXデザインの5段階モデル
参照:https://blog.nijibox.jp/article/5elements_of_ux/
  1. 戦略(Strategy):ユーザーニーズとプロダクト目的の設定

  2. 要件(Scope):ユーザーにとって必要なコンテンツ・機能の設計

  3. 構造(Structure):ユーザーが欲しい情報や使いたい機能にたどり着くための全体構造設計

  4. 骨格(Skeleton):ユーザーが理解しやすいインターフェース上の情報設計

  5. 表層(Surface):ユーザーが視覚的に認識するデザイン

UXデザインには、ユーザーのニーズや目的を理解するための調査や分析、情報の整理や構造化、ユーザーインターフェースの設計やプロトタイプ作成、テストなどのプロセスがあります。Jesse James Garrett 氏は著書の「Elements of User Experience」にて、上記戦略〜表層の段階を踏んでいくことをプロダクト開発のガイドラインとしています。

そこで我々はまずユーザーのニーズや要望、満足度、課題などを定量的に把握するために、ユーザーアンケートを実施しました。

ユーザーアンケート実施

まずはYOLOを1度でも利用したことのあるユーザー全員に対してユーザーアンケートを実施しました。項目は下記9項目です。

  1. 現在使っている音声書き起こしツールは何ですか?(複数選択可)

  2. 上記のツールを使っている理由は何ですか?

  3.  YOLOを使った場合、音声認識結果をどのように利用していますか?

  4. どのくらいの頻度でYOLOを利用していますか?

  5. 改善して欲しい機能はありますか?(複数選択可)

  6. 書き起こしツールを使わない場合、1時間分の音声ファイルの書き起こしにかかる時間はおよそどの程度ですか?

  7. YOLOを使う場合、体感で何%ほど書き起こし作業が削減されていますか?

  8.  YOLOの追加機能として興味のある機能はありますか?(複数選択可)

  9. 追加ヒアリングにご協力いただける場合は名前とメールアドレスを教えてください。

1週間の期限を設けて上記アンケートを実施したところ、なんと約60名の方から結果が返ってきました。(社内ユーザーってあたたかい…)
アンケート結果から、定量的なユーザーのニーズやサービスの利用方法が分かってきました。下記はアンケート結果の一部です。

改善してほしい機能一位は圧倒的に「文字起こし精度」でしたが、果たしてユーザーの求める文字起こし精度とはどのようなものなのでしょうか。単純に単語の認識率が悪いことなのか、フィラーと呼ばれる「えー」、「あー」などの意味のない言葉を拾いすぎてしまっていることなのか、アンケート結果からでは判別できないこともあります。

またアンケートではより詳細なユーザーの背景や状況を把握することができないため、続けてユーザーインタビューを実施しました。

いざ、ユーザーインタビューへ!

やみくもにインタビューを開始する前に、アンケート結果をもとにインタビュースクリプトを作成しました。そこで意識した項目は下記4つです。

  1. 目的の明確化

  2. アンケート結果を踏まえたオープンエンド型の質問項目の設計

  3. ネガティブな意見も聞き出す

  4. 一貫性を保つ

まずインタビューの目的をチーム内ですり合わせ、目的に合わせた質問項目を設計していきました。質問項目は「どのように感じましたか?」などのオープンエンド型の質問を用いることで、自由に話してもらえることを心がけて設計しました。
加えてインタビューの中では「なぜ?」を繰り返すことで、ユーザーの潜在的な課題を見つけることに努めました。

肯定的な意見だけでなく、ネガティブな意見も積極的に聞き出しました。YOLOを利用して音声認識精度が悪いと感じたファイルは何か、なぜ悪いと感じたかを聞くことで、もっともアンケート結果の中でユーザーのニーズが高かった音声認識精度の向上につながる改善点が見えてきます。

そして後々分析しやすくするために、質問項目に一貫性を保つことを心がけて設計しました。インタビューは実施した後の分析が命!
上記の注意点を踏まえて、作成したインタビュースクリプトをインタビューごとに内容を見直しながら実施していきました。

UXデザインにおけるユーザーインタビューの重要性

ユーザーインタビューは、商品やサービスに対する意見をユーザーから直接ヒアリングするUXリサーチ手法です。アンケートのように統計的な数値でデータを収集する定量調査に対して、対象者のニーズや課題を深堀することができる定性調査の代表的な手法と言えます。

何のためにどのタイミングで誰にインタビューをするべきか?

Q.何のため?
ユーザーインタビューの目的は情報収集、課題発見、価値検証などが挙げられます。インタビューを始める前に、プロダクトにおける明確なインタビューの目的やゴールを定めることがユーザーインタビューの第一歩です!

Q.どのタイミング?
ユーザーインタビューは、プロダクト開発や機能実装のための調査〜利用後の評価まで幅広い段階で使える汎用性の高い手法と言えます。
今回は既存サービスのリニューアルに向けてユーザーのニーズを反映した方向性を検討するための「検証型」のインタビューを実施しました。他にも新しい商品やサービスを開発する際に、どんな場面でどのようなユーザーニーズがあるのかを調査するためには「探索型」のインタビューが効果的でしょう。

参照:https://tech.beatrust.com/entry/user-interview-tips

Q.誰に?
ユーザーインタビューのターゲットは、大きく3種類に分類できます。

  1. ターゲットユーザー

  2. 既存ユーザー

  3. 潜在的なユーザー

サービスを設計する際に想定するターゲットユーザーからニーズや課題を把握することで、ターゲットユーザーに合ったデザインを構築することができます。
そして既存のユーザーのフィードバックを収集することによって、サービスの改善点を把握することができます。また利用方法や頻度についてなど、より詳細な情報を得ることができます。
最後にまだサービスを利用していない潜在的なユーザーにもインタビューすることが望ましいと考えられます。なぜ利用しないのか、他にどのようなサービスを利用しているのかを把握することで、新たなニーズや課題の発見につながります。
そのためユーザーの選定もユーザーインタビューを成功させる重要なキーとなるでしょう。

アンケートやインタビューを振り返ってみて

ユーザーアンケート、ユーザーインタビューを終えてチーム内で振り返ってみて話題になったことをいくつかご紹介します。

  1. ユーザー自身が感じている課題が根本的な課題とは限らない

  2. 記者が使う独特な用語と我々開発者の認識の違い

  3. ユーザー1人に対してさまざまなパターンのユースケースが存在する

まずアンケート結果をもとにユーザーに直接インタビューをしてみて感じたことは、ユーザー自身が課題であると感じていることが根本的な課題であるとは限らない、ということでした。例えば文字起こし精度を向上して欲しいユーザーが圧倒的に多かったのですが、実際に聞いてみるとそれ以外の機能(検索やテキスト編集など)を単純に使ったことがない、つまりその他の機能への誘導がうまくいっていないことが分かりました。

次にメインユーザーである記者が使う独特な用語があり、我々開発者の認識と齟齬があることも今回のインタビューを通して分かりました。例えば「完起こし」というワードを語尾まで一言一句違わぬ文字起こしのことを指すユーザーもいれば、ある程度読みやすい形に整形したものを指すユーザーもいます。他にも「メモ」というワードは我々開発者は取材をしながら記入する備忘録を指していると思っていましたが、実際は記事にする一歩手前の整形された下書きのようなものを指していることが分かりました。

そしてユーザーインタビューを始める前はユーザーごとにペルソナを定義して分析していこうと考えていましたが、ユーザー1人をとってもさまざまなパターンのユースケースが存在することも分かりました。文字起こしが必要な取材といっても、取材対象者と関係性を丁寧に築いて何度も重ねる取材と会見取材では文字起こしをするタイミングや文字起こし結果の使い方が全く異なることが分かりました。

ユーザーアンケートやユーザーインタビューを経て、我々開発者はユーザーについて「どこが分かっていないのか」が分かったことが大きな収穫であったと感じています。

今後の進め方

今回はYOLO開発チームでのUXの5段階モデルにおける、「戦略」にあたるユーザーアンケート、ユーザーインタビューの取り組みについてご紹介しました。
現在はインタビュー結果をもとにユーザーごとのプロフィールシートを作成し、分析するための材料を揃えています。今後それぞれの分析材料をもとにカスタマージャーニーマップの作成や要件の見直し、モックアップの作成等順次行なっていく予定です。(ご紹介する機会があればまた次の機会で…?)

ユーザーアンケートやユーザーインタビューを通して、今まで漠然としか把握できていなかったユーザーの行動や背景、潜在的な課題を知ることができました。
今後の開発指針の一つとして、これからもリサーチし続けていきます!
(メディア研究開発センター・新美茜)