見出し画像

【エッセイ】記録(まねごと)

 言葉や道具や家や生業について、記憶や文化が薄れる前に書き留めておきたいと思い始めた。確かにそのようなものがあったのだ、というメモでいい。当たり前すぎてそのままにしておくと、いとも簡単に消えてしまいそうだ。そして、失われてから蘇らせることは容易ではない。
 民俗学のまねごと。

・家
 家の裏口にはいわゆるタタキがある。あるいは土間という空間なのかもしれないが、正しい名前は知らない。うちではタタキの部分をニワと呼んでいる。ニワ掃いて、というのは外の庭ではなく、タタキをほうきで掃いて、という意味である。
 また、ニワには地下にムロという貯蔵庫(ただの穴)があり、昔は秋に収穫したいもやら大根やらを冬の間ムロに入れておいた。暖冬の影響か家の造りのせいか、ある時からムロに入れた野菜が腐るようになったので、今ではいもを短期的に入れておく程度だ。普段は木の板でふたをしてある。
 子どもが泣いたりうるさくすると「ムロに入れるぞ」と言って脅かされるのが常である。子どもは暗くて虫が出るムロに閉じ込められる恐怖でさらに騒ぎ出すので、この脅し文句は逆効果であったと今では思う。

・モクシ、引き手
 馬をつなぐために馬の顔にかけるモクシ。金具で留めるのと、縄でできていてゆるくしばって、馬の出し入れのたびに付け外しをするのがある。
 おとなしい親馬は、モクシをしないで、首に引き手を引っかけただけで引っ張ったりする。昔うちでは、馬の引き手で犬の散歩をしていた。

・箕
 切り草を入れて運ぶ。切り草は、一番牧草を細かく切ったものだ。
 切り草をそれぞれの飼い桶に入れる。祖母は飼い桶のことをキツと呼んでいたっけ。
 昔、南関東のナイター競馬でうちの馬が勝ったことがあった。私は夜飼いをつける母について馬屋に行った。母は馬屋のラジオで競馬中継を聞いていて、突然廊下の真ん中で箕を持ったまま飛び跳ねた。「勝った。。。」ジャンプするたびに、箕から切り草がこぼれ落ちる様子が妙に記憶に残っている。

・牧草
 6月から7月ころに一番牧草。8月から9月に二番牧草。
 今はロールで、押すのは大変だけどあとはほとんどトラクターの仕事だ。小さい頃は、コンパクトという形の牧草だった。それをトラックの荷台にテトリスみたいにきっちりと詰めていく。それをまた、レールの機械で馬屋の2階に上げて積み上げる。過酷。
 まわりの家で手伝い合いをするから、終わったあとはみんなでパンとか食べて休憩をした。

・お茶、牛乳
 うちで食後にお茶というと、茶碗で飲むのが常識だ。どこもそうだと思ってたけど、どうも違うらしい。
 昔は、朝ごはんの後に鍋で沸かした(温めた)牛乳を飲むのが習慣だった。これも食後の茶碗に注いだ温めた牛乳にインスタントコーヒーとグラニュー糖を入れて飲む(砂糖を足すなんて今では信じられない)。
 お茶は今も現役だが、牛乳の方はいつからかやらなくなった。あれは何かの儀式だったのかな。

 ぽつりぽつりと思い出すのに、思い出そうとすると何も出てこない。
 思い出したらまた書こう。書かないと、失われてしまうかもしれない。失われても、誰も困りはしないだろうけど。

より素敵な文章となるよう、これからも長く書いていきたいです。ぜひサポートをお願いいたします。