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アナンドプール(インド)2018


Anandpur Sahib アナンドプールサーヒフ

 インドのパンジャブ州、アナンドプールサーヒフ(以下アナンドプール)はシク教徒にとってとても重要な聖地の一つ。アムリトサルと双璧をなす一大聖地。総本山であるアムリトサルに主役は奪われているが、シク教最大の寺院はこのアナンドプールにあるTakht Sri Keshgarh Sahibなのである。シク教徒にとってシク教の歴史は戦争の歴史でもあり、アムリトサルは宗教上の中心であることに対し、アナンドプールはどちらかといえば軍事上の中心というイメージが私にはある。アムリトサルの水上で輝く黄金寺院が聖なる寺院そのものにしか見えないが、Takht Sri Keshgarh Sahibはどちらからといえばその巨大さも相まって要塞ごとく見え、高さも結構あるため周囲を威圧している。第10代教祖であるグル・ゴービンド・シング(Guru Gobind Singh)はアナンドプールでカールサー(Khalsa)と呼ばれる軍隊を創設した。そのためか二ハング(Nihang)と呼ばれるシク教の戦士の方が他のエリアに比べ多く住んでいる。そしてアナンドプールに足を運ぶとすぐにわかるのだが、ここはグルドワラ(Gurudwar)と呼ばれるシク教の寺院だらけの宗教都市なのである。一部ではあるが主な建物をちょっと紹介したい。

 

 

Qila Anandgarh Sahib キーラ アナンドガール サーヒフ

 入り口の大きいゲートというか門が象徴的に立派でいかにも要塞的な雰囲気が出ている。実際にここは10代グルであるグル・ゴービンド・シング(Guru Gobind Singh)が作らせた五つの要塞のメイン要塞であり、街の中心となるGurudwar Keshgarh Sahib を守るように隣に建てられている。また五つの要塞は地下道で結ばれているという。のちにこの要塞から街の名前がアナンドプール(Anandpur) と呼ばれることになった。


Gurudwara Takht Sri Kesgarh Sahib グルドワラ タクト スリ ケスガル サーヒフ

 通称ケスガルと呼ばれる街のメイングルドワラであり世界最大のグルドワラ。名称にTakhtが付いていて、シク教で Five Takht 呼ばれる重要なグルドワラの一つである。(パンジャブ州にはその内の三つAmritsar, Anadpur, Bhatindaがある、後二つはPatnaとNanded)余談だが昔はどこでもチャパティを手作業で焼いていて10年ほど前に見たその作業風景を再び見ようと思っていたら、どうやら今は機械化されてしまったとのこと。


Gurdwara Sisganj Sahib  グルドワラ シスガンジ サーヒフ

 9代目のグル・テーグ・バハードゥルはデリーでアウラングゼーブによって首を刎ねられ、その首はここまで運ばれそして火葬された。この時、嘆き悲しむ大勢の人々の前で息子であり後に10代目グルとなるゴービンド・シングは最初の説法を行った。この時彼はまだ9歳だったという。この時の憎しみが一生彼について回ったのかもしれないが、後に軍事組織カールサーを創設しムガル帝国に立ち向かった。なお彼は4人の息子を得たが4人ともムガル帝国に殺された。ゴービンド・シングにとって、そしてシク教徒にとって9代目と将来の11代目を失ったことはあまりにも大きな悲劇であるに違いない。


Gurudwara Bhora Sahib グルドワラ ボーラ サーヒフ

 ここで9代目のグル・テーグ・バハードゥルが苦行をしていて、10代目のグル・ゴービンド・シングの子供たちの生まれた所でもある。色々歴史上の場所を目にして感じることは、ゴービンド・シング関連の施設が多く、シク教徒にとってこの10代目は歴代グルの中でも特別な存在のように思われる。特に二ハング(Nihang)にとってはかなり重要な存在であり、インド各地を巡礼する二ハング達は基本的にはグル・ゴービンド・シングゆかりの地を回るという。これには彼がカールサーと呼ばれる軍を創設したことが関係あるのかもしれない。


Gurudwara Patal Puri Sahib グルドワラ パタール プーリ サーヒフ

 この建物はアナンドプール郊外に聖なるサトラジ(Setluj)川に面して建てられている。他のグルドワラと異なり、特筆すべきは火葬後の遺灰を川に流す場所なのである。北インドの多くのシク教徒の遺灰がここで流される。流されるところ(一応撮影は禁止されている)の上流側では沐浴場となっていて鎖につかまりながら沐浴(沐浴というより水浴びして楽しんでいるようにも見えるが)している。ところでシク教徒の男性は身に着ける五つのうちの一つに短刀(Kirpan)がある。写真の赤いターバンの男性は沐浴するときも身から離さないようにターバンに短刀を巻き付けている。もちろんこのようなケースは厳格な人であって衣類と一緒に身から離している人も多い。


 アナンドプールで様々な歴史上のグルドワラを訪れながら感じたのは、シク教は本来無差別で平和的宗教であり他宗教者にも当たり前のように食事をふるまうのに、ムガル帝国の弾圧でかなり好戦的な色彩を帯びるようになったのではないかと。ムガルのアウラングゼーブが帝位に着く前は比較的他宗教も特に問題なく受け入れられていて共存していた。特にアクバル時代は融和政策を打ち出していたという。しかしアウラングゼーブの時代になると他宗教は弾圧され、モスリムに改宗しなければすぐに首を刎ねられた。アウラングゼーブは強力な軍事力を背景に領土を最大に広げたが、シクだけでなくマラーター王国など多くの反乱がおこり、領土内では常にどこかで戦闘状態となり晩年のアウラングゼーブの頭痛の種であったらしい。。

 これを今の時代、他宗教を弾圧するISなどの組織があるが、やはりどうしても相手を排除する考えしかないと常に殺し合いが起こってしまうし、排除する側が排除させることもありえる。歴史は繰り返されるともいうが、弾圧が生み出すものは戦争である。昔においては完全に弾圧して滅亡させてしまったケースも色々あるだろうけど、今の時代に同じことをやっていくには情報化時代でもあり周囲の軍事支援などもあることから無謀でもあるし破壊力も規模も大きくなりやすい。

 やはり平和な世界を作り出すには当たり前だが他宗教の価値観などを尊重する姿勢が必要であるし、近年においては黄金寺院事件(別名ブルースター作戦、シク教分離独立派を一掃するために軍が黄金寺院に突入し数百人もの犠牲)を指示してシク教の怒りを買ったインディラ・ガンディー首相は自身が暗殺されるという結末を迎えたというケースもある。シク教は教義的に宗教上だけでなく様々な差別をなくし、諸宗教の本質は一つであるとし、他宗教を排除しない姿勢をとっている。宗教上の対立が世界規模で大きくなってる印象を受ける現在においては、シク教の教えというは一つの解なのかもしれない。



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