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今日のあしげい(2023年8月6日〜10日)

北海道は知床・斜里町で開催中の「葦の芸術原野祭(通称:あしげい)」
会期中の様子をレポートしていきます!
前回の記事(2023年8月2日〜5日)はこちら▽


8月6日のこと

この日は、朝から「物見台 特別公開ツアー」が行われました。会場となっている旧役場庁舎は築93年(1930年・昭和5年設立)の歴史ある建造物です。旧役場庁舎時代から立ち入り禁止になっていた物見台は、戦時中に増設されたと言われています。
ツアーをガイドするのは、斜里町立知床博物館の阿部さん・旧図書館時代の司書を務めていた登美子さんのお二人。軽やかな会話と共に、土地の歴史とこの建物が過ごしてきた時間を確かめるように隅々まで見てまわります。最後には、知床連山やオホーツク海が見渡せる物見台に一人ずつ上がり、この建物が斜里という町で何を見てきたのか、この場所から何が見えるのかをそれぞれが見渡しました。

「物見台 特別公開ツアー」の様子

午後は、松本さんのライブ『独白と番』が"川村邸〜北暦の原野"にて開催。このライブはあしげい一年目から旧役場庁舎で行われてきた演目です。
今日はきもちのいい雨が降る中、"川村邸〜北暦の原野"の柿落としとして行われました。森に囲まれた新築の建物で鳴る雨音や木々が揺れる音などの環境音と混ざり合いながら、銅鑼(どら)や波紋音(はもん)が奏でる音色に耳を澄ませます。建物自体が鳴っているかのように、この場所に建っていることを感じさせるライブに、喜一さん(代表・この家の持ち主)は終演後、終始ニコニコしていました。

『独白と番』上演中の様子

8月7日〜8日のこと

この二日間は休館日でした。
7日は会期最後の三日間で上演される『葦の波 part2』のクリエイションでした。会場となる旧役場庁舎に集まり、知床でそれぞれが撮った写真や綴った日記をもとにシーンを立ち上げていきます。
『葦の波』はあしげい参加者によって、あしげいをドキュメントするようにつくられます。part2では、昨年の上演を踏襲しつつも、新しい参加者による表現、今年起こった出来事を取り込んだ時間へとアップデートします。
この日は、昨年の上演で"斜里小学校"の校歌を歌ったよしこさんがクリエションに参加しました。斜里で引っ越しをした日、文通や日記を捨てる選択をしたこと、そのやりとりをしていた人のことを強く思い出したことをもとにシーンが作られ、旧庁舎を叩き音を鳴らしながら存在を確認するような時間は、その日の参加者の胸を強く打ちました。

『葦の波』シーンを上演する様子
『葦の波』上演したシーンを見て感想を話す様子

『葦の波 part1』のダイジェスト映像がこちらからご覧になれます!

8月9日のこと

休館日を挟んで2週目がスタートしました。昨日まで冷え込んだのが嘘のように、湿気を含んだぬるい強風が吹く日となりました。「おもいでうろうろプロジェクト」は現在No.60ほどまで集まり、少しずつ本棚が賑わってきました。会場では「思い出の品」としてお預かりしたレコードがかかっています。

午後は、斜里高校の佐藤さんが会場に訪れてくれました。彼女は、先日斜里高校で実施したWS『だれかのどこか』に参加してくれました。『だれかのどこか』は参加者が町に出かけ撮影した1分間の映像を繋ぎ合わせることで、人々の暮らしと風景を複数の視点で切り取る映像作品をつくるもので、会場で展示もされています。会場の展示を隅々まで見て実行委員と話した彼女は「心が感じたことない状態になった」と話してくれました。

記念写真を撮る今野さん・佐藤さん・橋本さん(左から順)

夜は、バストリオ『黒と白と幽霊たち』の上演が旧庁舎にて行われました。この演目は毎年8月に上演されており、ここ3年はあしげいのプログラムとして実施されています。今年は8/9、長崎に原爆が落ちた日に一回きりの上演でした。
上演では、争いやその中で死ぬこと/殺されること/生きようとすることが力強い言葉で紡がれ、舞台上に現れる水・紙・音・線・草木・光・鈴と結びつきながら幾重にもイメージを変えて、想像力に働きかけるものとなりました。日が傾く時、庁舎に射す夕日が、幻想的な影を作り出しました。

『黒と白と幽霊たち』上演中の様子
『黒と白と幽霊たち』舞台写真

8月10日のこと

今日は、朝から"おはなししゃぼん玉"と絵本作家のあかしのぶこさんによる紙芝居が行われました。
"おはなししゃぼん玉"は斜里で活動する読み聞かせサークルです。「はらぺこあおむし」の読み聞かせを行った後、一人ひとりが斜里の町についてのお話をしてくれました。いなくなってしまったエゾオオカミのこと、斜里川で打ち上がる花火の美しさ、町の随所に流れる川の不思議、斜里の駅の待合場所とあしげいの会場の雰囲気が近いこと。この町で生きてきたからこそ捉えられる町の気配や風土の話に、こどもだけでなく大人も耳を傾けました。
あかしのぶこさんによる紙芝居「しれとこのみずならがおしえてくれたこと」は、みずならのうろ(木の幹にぽっかりと空いた穴)に入り込んだ若いヒグマが、みずならの声を聞くお話です。みずならの木が見てきた長い長い時間で、どのような動物が集まり、どのようなことが起こったかをお話ししてくれます。かわいらしい絵とファンタジックなストーリーの中に、知床という土地がもつ雄大な自然のサイクルを感じさせる、素敵な紙芝居でした。この紙芝居は、会場の2階でも展示されています。

あかしのぶこ『しれとこのみずならがおしえてくれたこと』の様子

午後からは、渡辺悦子さんによる『語り継ぐ女の歴史』の朗読ラジオが行われました。『語り継ぐ女の歴史』は知床の地を開拓する時期の様子を、斜里町に住む女性たちへの取材や残された手記から歴史として記録した冊子です。
昨年から続くこの企画、本日は第2巻の朗読を行っていただきました。「知床」と聞いたときの晴れ渡るような自然の雄大さや豊かさだけでなく、そこには確かに開拓を行った手が、遠くない昔にあったことを感じさせます。昼下がりの旧庁舎に、悦子さんの染み渡るような声が届きました。

『語り継ぐ女の歴史』朗読の様子

次回、三連休の様子は、8月から斜里の地域おこし協力隊として移住してきた、小泉柊介さんによるレポートです。お楽しみに!

(文:中條玲)


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昨年大好評だった「あしげい手ぬぐい」のほか、今年の新グッズ「あしげいTシャツ」、野外対応の「ステッカー」など多数の商品を取り扱っております!
葦の芸術原野祭は、有志による継続的な開催を目指しております。グッズの売り上げ・カンパは大切な継続資金となります。会場に足を運べない方も、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

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