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映画記事

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最近観た劇場映画について好き勝手書いてます
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記事一覧

喜劇の歯車は回る 『イニシェリン島の精霊』評

「2022年シネマベスト10」へ

 幸せとは「仕合せ」とも書き、あるものがあるべきところに収まっている――言うなれば「歯車が噛み合った状態」を指すという。
 主人公パードリック(コリン・ファレル)は、ある日突然、親友のコルム(ブレンダン・グリーソン)から「お前が嫌いになった」と告げられる。
 いつものパブに居づらくなり帰宅すると、客人の相手をした妹から「なんで帰ってくるの」となじられる。
 ひと

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それは歪な罪のかたち 映画『ラム/LAMB』評

『犬王』感想へ

 ふつうの映画に飽きたなら、ちょっと変わった映画が観たいと思ったならば、ここの作品を選んでおけば間違いはないでおなじみの映画製作会社A24。
 本作はA24製作ではなく配給作なのだが、お出しされてきたのはアイスランドを舞台とした、やっぱり風変りな作品でした。

娘を失ったばかりの夫婦の牧場で、飼っていた羊が奇妙な仔を産み落とす。
 夫婦はその仔羊に死んだ娘の名を与え、大切に大

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もっといけ‼ どんどんいけ‼ 消されし者どもの存在証明 映画『犬王』感想

『シン・ウルトラマン』感想へ

 時は室町。日の本がふたつの天を戴いていた時代。
 異形の能楽師・犬王と、琵琶法師・友魚のバディが繰り広げる絢爛豪華な舞台劇。
 そのうねりは人々の熱狂を呼び、やがて将軍・足利義満の知る所となる――

 予告

 圧巻。圧巻である。
 音と光、エモーショナルな歌声にアニメーションの快楽。
 中世日本にロック・ミュージックをブチ込み、謡い上げるは顧みられることなく忘れ

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人外視点のファースト・コンタクト 『シン・ウルトラマン』感想

『オッドタクシー インザウッズ』感想へ

『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン』に続くシン・シリーズ第三弾。
 1966~67年に放送された『ウルトラマン』、いわゆる初代ウルトラマンのリメイクにして総集編。
 今作では庵野秀明は脚本・総監修、その他諸々関わっているものの、監督は樋口真嗣が務めている。

予告

『シン・ウルトラマン』は、公開前から多数の予想、考察、憶測がなされていた作品だ。
 

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存在すら定かではない‟真相” 『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』感想

「2021年シネマランキング ベスト10」へ

 漫才のような会話、周到に仕込まれた伏線、衝撃の展開――おそるべき脚本力と、Youtubeと連動したメディア展開で話題になったTVアニメ、オッドタクシーの劇場版続編。
 オペレーション・オッドタクシー実行の少し前。
 一連の‟事件”に関わった人物たちへのインタビューにより、「真相」に別の角度からの光があてられる。

予告

 オッドタクシーとは、ざっ

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2021年シネマランキング ベスト10

『キャンディマン』感想へ
『2020年シネマ10選』へ

 劇場で鑑賞した映画作品の中から面白かったものを10作選ぶこの企画、今年で3回目となります。早いものですね。
 候補作は全71本。
 昨年は順位をつけずに選出したのですが、やはり日和っていた感が否めません。
 なので今年はちゃんと順位をつけていこうと思います。
 記事を書いている時の気分という説もありますが気にせずに。

第10位

『機動

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合わせ鏡の無間地獄 映画『キャンディマン』感想

『プリンセスプリンシパル 第2章』感想へ

 鏡に向かい、「キャンディマン」と5回唱えると、怪人キャンディマンが現れる――

 本作は1992年に製作された、都市伝説モチーフの同名ホラー、スラッシャー(殺人鬼)映画の直接の続編である。
 1992年版の後に『キャンディマン2』『キャンディマン3』と作られたが、そちらは‟なかったこと”になっている模様。ホラー映画ではよくあることだ。

 新進気鋭の黒

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出揃う役者、仕掛けられた爆弾 映画『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第2章』感想

『シン・エヴァ』感想へ
『第1章』感想へ

 19世紀末ロンドンで繰り広げられる美少女スパイアクション第二弾。
 共和国にて開発された新兵器‟ケイバーライト爆弾”3発が何者かに盗み出され、王国に運び込まれた。
 一方、王国では第3王位継承権者リチャード王子が帰国。凱旋パレードの最中、銃撃されるという事件が起きた。
 ふたつの事件に関連があると睨んだコントロールは、チーム白鳩に新たな任務を課す――

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アスカ派の私がアヤナミレイ(仮称)に惹かれたワケ 映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』感想

『プリンセス・プリンシパル 第1章』感想へ

 公開からずいぶん時間が経ってしまったけれども、さすがに本作に関しては何かしら書いて残しておかねばならないと思う。
 というのも、半ばを終えた時点で「あのエヴァが終わった」ことは、日本のアニメ界、映画界含めてもっとも重大な事件のひとつであるからだ。
 長く続いたシリーズが、きちんとしたかたちで完結するというのは紛れもない偉業であり、庵野監督や制作陣のみ

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世紀末ロンドン、少女たちの行き着く先は⁉ 映画『プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章』感想

「2020年シネマベスト10」へ

 時は19世紀末。壁により東西に分かたれたロンドンは、各国スパイの暗躍する舞台となっていた。
 革命扇動事件の影響で王国でのスパイ狩りが激化する中、共和国のスパイ組織「コントロール」に属するチーム‟白鳩”は、王国宮廷内のモグラこと‟ビショップ”との接触を命じられる。
 二重スパイの疑いのかかるビショップは、白鳩のアンジェ、プリンセスと深い関わりのある人物であった

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2020年シネマ10選

『ミッシングリンク』感想へ

 今年はコロナ禍により映画館の休館が相次ぎ、公開延期やネット配信のみとなった作品も多数ありました。
 そんな苦境にあっても話題作、傑作と呼べる作品には事欠かなかったと思います。
 正直、この中から10本選び、あまつさえ順位をつけるなどめんど……もといおこがましい。
 というわけで、2年目にして早くも主旨が変わってしまいますが、あえて順位をつけずに10作品を選出すること

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友の残した足跡を追って 映画『ミッシング・リンク』感想

『ウルフズ・コール』感想へ

 ‟世界最高峰”――この手の言葉は、わりかし安易に使われることも多いので、話半分に受け止めるという人も多いんではないかと思っている。
 しかし、掛け値なしにこの言葉にふさわしい、素晴らしい作品を数々世に送り出してきた映画制作スタジオも存在するんです。
 それが、スタジオ・ライカです。
 ライカが手がけるのは、ストップ・モーション・アニメ。
 人形を少しづつ動かして撮影

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狼の声の正体とは? 映画『ウルフズ・コール』感想

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』感想へ

 フランスの潜水艦モノという以上の情報を入れずに鑑賞したらめちゃくちゃ良かったです。
 昨年には『ハンターキラー 潜航せよ』という傑作もあったし、ひょっとしたらキてるのかも知れないです、潜水艦映画。
 フランス海軍所属の主人公シャンテレッド、通称‟靴下”君(フランソワ・シヴィル)は「黄金の耳」の異名を持つ天才ソナー手。
 あるとき、ソマリア沖で所属不明

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細部に宿る神を聴け 劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』感想

『ワンハリ』感想へ

 2018年のテレビシリーズ開始直後から、その圧倒的な作画クオリティが話題になり(「作画カロリー」という言葉を私は本作で知りました)、シリーズ終盤にさしかかる辺りには「泣けるアニメ」としての地位を確固たるものにした京都アニメーション(以下、京アニ)作品。
 原作はKAエスマ文庫より刊行された暁佳奈の同名小説。
 本作は二本目の劇場版にしてシリーズの完結編となります。
 京アニ

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