見出し画像

海とステーキ

去年の夏、「JR相模線に乗りたい」と長男が言った。理由を聞くと「まだ乗ったことがないから」とのこと。

相模線は橋本ー茅ヶ崎間を走る電車で、長男の希望は「新宿から京王線にのって橋本まで行って、それから相模線に乗りたい」で、京王線も相模線も停車駅の全駅制覇くらい乗る勢いである。夏休みだしいいかと兄弟と私の3人電車の日帰り旅に出かけた。

私は茅ヶ崎に行ったことがなかった。そして橋本にも。降りたことのある駅や知っている駅を過ぎて知らない駅名ばかりになってくると、ドキドキしてきてしまうのはどうしてだろう。

子どもたちは楽しそうに車窓の景色を眺め、ラムネを口に入れ、停車するたびに車内からデジカメで駅を撮影している。どうしてそんなに余裕あるの?といつもいつも思ってしまう。お母さん、実はドキドキしているんだよ…というのを悟られないように、水筒のお茶を一口飲む。

電車で2時間半くらいかけて茅ヶ崎の駅に着いた。せっかく茅ヶ崎に来たのだから海を見て行かない?と提案すると、いいね!と賛同する兄弟。駅から海までは歩けるみたいよ、”サザンビーチ”っていうのがあるからそこまで歩いてみようかということになった。

炎天下のお昼近く、出来るだけ日影を見つけて水分をとりながらサザンビーチを目指して歩いた。お腹空いたね、海岸の方に行けばどこかいいところあるかな?という私たちの目に飛びこんできたステーキガストの看板。兄弟、大喜びで肉、肉と即決!

二人ともステーキガストは夫と入ったことがあると言う。お母さん、初めてなんだ、へぇーこんな風になっているのね、サラダバーがあって…と言っている間にお店のスタッフさんが注文を聞きにきた。

「あの、小学生の子ってどのくらいの分量を食べるものでしょうか?」と聞いてしまった。「そうですねー、結構召し上がるお子さまですと、このくらいの分量は…」メニューを指しながら丁寧に話してくれるスタッフさん。ありがとうございます、ステーキなんて普段食べないのでよくわからなくてと恐縮する私。

という大人たちのやりとりを聞きもせず、「おれはこれにする」「ぼくはこれ」と躊躇なく決める兄弟。え?そんなに食べられるの?多くない?これから海行って、帰りはまた2時間くらいは電車乗るよ、おなか平気?とドキドキしてしまう。「平気、平気」「ぜんぜん大丈夫」それなら私はライスとサラダ、スープにする、万が一食べきれなくなったらお母さんが食べるね、と注文した。

結果、二人ともペロリとたいらげた。ジュウジュウいう熱い鉄板の上で、普段は食べない(しつこいけど事実)ステーキをそれはもう美味しそうに。付け合わせの野菜も全部美味しいと残さなかった。私は鉄板に残ったソースをライスに絡めていただいた。それもとても美味しかった。

満腹になってサザンビーチの砂浜を歩いた。いつの間にこんなに食べるようになったのだろう。兄は好き嫌いが多く、どちらかというと小食だったのに、あんなに大きな肉の塊を食べられるようになったのか。弟は肉より魚好きだったはず。肉を出すと箸が進まないことがあったけど、ステーキはやはり特別なのかな。気分上がるよね。

「海に足の先だけ浸けるならいいよ。着替えは持って来ていないから服を濡らさないようにね」と伝えるも、ぜったい濡らすだろうな…という母の勘は当たる。きゃあきゃあ言いながらズボンやTシャツを濡らしていく二人を見ながら、こんなに大きくなったのだなぁとしみじみ感じた。

きっとこれから、もっとたくさん肉を食べるようになるのだろう。そしていつかは、服を濡らさずに海岸で遊んだりできるようになるのだろう。こんな風に親子で乗りたい電車に乗って海を見に来るなんてこと、いつかはしなくなると思うと、ちょっと寂しくなって、砂浜に流れてくるサザンの音楽の相乗効果もあって、二人に気づかれないように鼻をすすった。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?