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【働く場を考える】オフィス空間の「天井」は、必要か?

建築空間における、物質的な「天井」について、
最近、考えていることを書いてみます。
今回は、建築マニアックなnoteになりますが、
どうぞお付き合いください。

スケルトン天井の人気について、ひとこと言いたい!

スケルトン天井とは、内装の仕上げ作業を行なっていない状態の天井。
コンクリートがむき出しの状態なので配管や配線が丸見えとなる。
イメージは、上の画像のような状態である。

10~15年くらい前より、スケルトン天井が建築界隈で流行ってきた。

リノベーションやコンバージョンによる、
既存建物の有効活用の案件が、建築雑誌上でも増え、
建築家やデザイナーが、積極的に既存の建物の良さを引き出そうと
模索した時期と重なると記憶している。

また、シリコンバレーのスタートアップ企業が、次々とオフィスらしくない、働くシーンに合わせた多様な場をオフィスに作り始めたことも、
影響があるだろう。

オフィスをつくるお客様から「スケルトン天井にしたい」という要望を
いただくことが増えてきた中で、改めて、「スケルトン天井の良さ」を
考えてみたいと思い、記事を書くこととした。

なぜ、スケルトン天井が選ばれているか?

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まず、なぜスケルトン天井が選ばれているかを考えてみる。
いくつかのオフィスリニューアルに関するWEBサイトで調べてみると、
1. 天井が高くなることにより得られる開放感
2. 「オフィスっぽさ」の軽減
3. おしゃれっぽさ

といったことが、うたわれている。

上の3つのメリットについて、それぞれ考察してみたい。

1.天井が高くなることによる開放感。


1つ目のメリットについては、異論はない。
物理的にこれまで「天井内」だった
スペースが「室内」に加わることで、室内側の「天井高さ」
が高くなることにより、「開放感」が得られる
、ということ。
一般的に、天井高さが高ければ高いほど、「開放感」を感じる。

また、「開放感」=「働く場としての魅力の向上」とするならば、
1つの疑問が生まれる。
人は、既存の一般的なオフィス空間の天井高さに
満足していなかった
、ということなのだろうか・・・

確かに、30年以上前のオフィスの天井高は、今より低いことが多い。
日経不動産マーケットによると、
天井高さは10年で100mmずつ高くなっているらしい。
https://xtech.nikkei.com/kn/fa/free/column/20061218/503478/

一般的に、天井高さは、室のプロポーションの問題より、
室の広さが広いほど、天井が高い方が快適とされるため、
最近のメガフロアオフィス化(1フロアのオフィス面積の拡大)を考えると、
30年前よりも、天井が高くなる必然性は、理解できる。
また、業務効率化のための営業所や支店の集約が進んだ影響で、
1つの事業所のオフィス面積は、拡大しているということもあるかもしれない。

2.「オフィスっぽさ」の軽減。

2については、否定される「オフィスっぽさ」とは何か?
という問い
が、まず浮かんでくる。

私が考える「オフィスっぽい」オフィス空間のイメージ画像はこちら。

画像2


このイメージを元に、「オフィスっぽさ」を表す言葉を挙げると・・・
A  均質空間=均質なデスクレイアウト
B  シンプルで無駄を排除した無機質な内装仕上=素材感のバリエーションの少なさ
C フレキシブルなデスクレイアウトに最適化された設備計画
=特に賃貸オフィスでは、テナントに合わせた様々な
 レイアウトにフレキシブルに対応できる建築計画が求められてきた

1・2・3を総括すると、
「オフィスっぽさ」=「均質さ」「無機質さ」「システム化」
と言えるだろう

では、「オフィスっぽくない」とはどんないイメージだろうか?

画像3

過去のオフィスっぽさである、「均質さ」「無機質さ」は消えて、
「多様なデスクレイアウト」、「素材感のある内装仕上」が採用され、
「均質さ」の時代から、「多様性」の時代へ、変化していると言えるだろう。
その結果、「オフィスっぽさ」から、「カフェっぽさ」「リビングっぽさ」など、
より生活空間に近いような、リラックス感のある雰囲気が出ている。

オフィスの中で、天井は、占める面積割合が大きいため、
オフィス全体の印象への影響は大きい。
無機質な白色でユニットシステム化された従来の天井は、
過去のオフィスっぽさの象徴、だったということだ。

一方で、不均質に天井設備が露出したスケルトン天井は、
本来は隠されるべき裏の部分、表層に表すことで、
過去のオフィスっぽさにはなかった「素材感」や「脱均質性」を獲得している。

3.オシャレっぽさ。

3については、感覚的な観点でまとめづらいのだけど、
「オシャレ」「かっこいい」って何?という問い、を立ててみる。
この問いは、2.「オフィスっぽさ」から脱却した
理由にもつながっていると考えている。

かつては、オフィスには、オシャレっぽさは求められていなかっただろう。
設計事務所やデザイン事務所など、営業戦略としてデザイン性が求められる
一部の業種を除き、オフィスは、実用的で、飽きが来ない普遍的なデザインで
十分だったはずだ。

そんな中で、オシャレっぽさが求められ始めたのは、
GoogleやFacebookなどの、時代の最先端を走っていたシリコンバレー企業が、
リラックスした雰囲気でこそ、インフォーマルなコミュニケーションが生まれ、
創造的な仕事ができるはず
だ、と唱え、
多様な働き方を許容するオフィスがかっこいい、という、
新しい価値観を生み出したからではないだろうか。

「オシャレっぽいオフィス」とは、西海岸のスタープアップ企業に似たオフィス
であり、もう一歩踏み込んでGoogleなどの働き方の理念を取り入れたオフィス、
かもしれない。そのオフィスの天井は、
いずれにせよ、「スケルトン天井=オシャレ、カッコいい」のイコールの間には、
単に表層的なデザインの問題だけでなく、働き方やライフスタイルまで含めた
オシャレっぽさが人気、というように解釈できるのではだろうか。

4.オフィスの変化=働き方の変化

オフィスは、人々が働くための器だとすると、
オフィスの変化とは、内容物である、「働き方の変化」。

例えば、30年前は、パソコンやメールなどのツールが発達しておらず、
オフィスで働く人たちは、集中して行う定型的な作業に多くの時間が
割かれていたのではないだろうか。

時代は移り変わり、様々なツールや通信手段を使いこなすようになった
2020年では、多くの「作業」「定型業務」は、
かつてより効率的に実施できるようになった。

その結果、オフィスで働く人に求められることが、
「創造的な仕事」に変化した。

自席でのデスクワークが多かった時代には、広くて快適な自席のスペースと
十分な収納スペースを確保すればよかったけれど、
アイデアを考えたり、同僚と議論したり、社外とコラボレーションするためには、
自席以外のシーンに適した場所が必要となった。

そして、リラックスしながら議論する場所、リフレッシュする場所、
キッチンでコーヒーを待ちながらヨコのつながりを作る場所、
などの様々な場所が必要となり、その場所の性格に合わせて、
オフィスでありながら、リビングっぽい場所、カフェっぽい場所、
キッチンっぽい場所、アウトドアっぽい場所など、
従来の均質・無機質なオフィスとは異なるインテリアが求められたのだ。

これからの時代に求められていることは、
創造的な発想を生み出すための場所をつくる。ということ。

スケルトン天井は、カッコ悪いか?という、
インテリアデザイン的なテーマからスタートした考察だが、
表層的なデザイン論に収束することなく、働き方の本質を捉えて、
オフィスはデザインするものである。

同時に、オフィスは企業のアイデンティティを表すメディアでもあるので、
「カッコいい」「オシャレ」ということが、機能になりうる場合もある。

最終的なデザインのアウトプットは同じであっても、
事例毎の与条件による検討プロセスを踏まえた、
適切な文脈の中で、デザインは選ばれるものであってほしい。

結論 : 「スケルトン天井」は必要か?

創造的な働き方の場を作るツールとして、必要な場合もある。

本来、天井というのは、室内の空間のプロポーションを規定する表層。
以下のような複数の条件を総合して、仕様を決定すべき部材である。
・機能(吸音・遮音・遮熱)
・室の形状・プロポーション
・デザイン
・工期
・コスト

与条件から、オフィスのコンセプト、ゾーニング、レイアウトなどを決め、
選択肢の1つとして、スケルトン天井とする
メリット(圧迫感が解消される、エントランスに開放感が欲しい、事業上オシャレっぽさの演出が必要など)、デメリット(工期が伸びる、原状回復費用がかかる、空調効率が悪いなど)を比較した上で、
メリットが勝るならば、選んでもよいんじゃないかと思う。

スケルトン天井はカッコよく見えるかもしれないけれど、
表層だけで選ぶものではない。

<参考>
オフィスデザインとは?働き方改革で見直されるオフィスデザインを解説。
https://hitoba-office.com/office_column/office_design.html

株式会社オカムラ CMF Color × Material × Finish
https://www.okamura.co.jp/product/cmf/index.html


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