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私はあなたが……

【写真で掌編小説】

「私はあなたが……」

私はあなたが嫌いだった。

あなたはいつも暗い顔で、悩み事や辛い事に苛まれているように見えるから。

言葉で繕うばかりで努力もしない。

そんなあなたはきっと誰にも好かれない。

だから、私はあなたが嫌いだ。

会社に向かう途中、新しくオープンした美容室が目に入る。

宣伝なのか技術を磨くためなのか、店先でカットモデルを募集していた。

若い美容師が声をかけてくる。

何となく躊躇う気持ちと、一歩踏み出してみたい気持ちに揺らぐ。

このままだと会社に遅れてしまう。

だけど、私は変えたかった。

美容室に入り、とても新人とは思えない手つきで髪を切っていく。

一つ一つ、あなたが姿を変えていく。

まるで魔法にかかっていくみたいに。

全ての魔法がかかると、鏡の中のあなたはこれまで見てきたどの姿とも違っていた。

柔らかく笑い、美容師にお礼を言う。

あなたを見ながら、会社にはなんて言い訳をすれば良いのだろう、と考える。

きっと上司にとやかく言われるだろう。

それでも、鏡の中で笑っているあなた。

私はあなたが少し好きになれた気がする。

少し、だけどね。

終わり


写真から掌編小説でした!

十五作目です!鏡を見ると見飽きるほど見た自分にがっかりしたりしてしまいます。それでも、そんな自分も好きになってあげたいです。私だけでも私を好きでいたいから。

素敵な写真をありがとうございました。

また、お会いできることを楽しみにしています♪

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