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虫苦手レベルが半端ない

去年の暮れに洗濯機が新しくなってから、洗濯ばかりしている。
食洗機も使う回数が増えた。
手間をかけないで、ものがきれいになるのはとても嬉しい。
相変わらず掃除が好きじゃないのは、掃除機を買い換えてないからだろうか。
いや、根本的な問題だと思う。
だから、まだ掃除機は買い換えない。

ベランダで洗濯物を取り込むときには、念入りにはたく。
花粉症の習いもあるが、もし虫がついていたら怖いから。
たとえ益虫と呼ばれるものであっても、我が家では虫の立ち入りを全面禁止している。
なので、どんな短い瞬間でもこまめに網戸を閉める。

骨折して片手を吊っていた年末、家事代行を頼んだことがあるが、窓掃除をお願いしたら、不要なときでも網戸を開けっ放しにするのでヒヤヒヤした。
「網戸、閉めてくださいね」と言ったにもかかわらず。

普通の人は、私がどれだけ虫を恐れているか想像がつかないのだと思う。
もう頼まない。
昨今は暖冬なので、警戒は年中無休。

死骸も嫌だ。
死骸にするのも嫌なので、万一侵入されたら、殺虫剤を撒いたり、武器を取って戦うのではなく、ひたすら逃亡する。
だから、ことによったら私がこの家を出ていかなくちゃならない。
これから老人になっていくというのに住まいを失う。
一生に関わる大問題だ。

あれは、まだ夫がいた頃だ。

ふと見ると、ベランダに干したはずのシーツがなかった。
ぎょっ!
嫌な予感。

下を見ると、我が愛用のシーツが、天女の忘れ物のように階下の植え込みに落ちていた。
そんな優雅なものではないけれど。

我が家は、マンションの最上階で、地上に大した風が吹いていないときでも、ベランダ付近には独自の強風警報が発令されている。
我が家を訪問する風の指先は、予想外に器用で、ビニールヒモで結わかれた物干し竿の結び目など、朝飯前のようにほどいてしまう。

だが、そのときは、まだその事実に気づいていなかった。

「大変だ!」
夫を急かし、ふたりで階下に下りる。

それは、1階の集会室の庭に落ちていた。
私が竿を拾い上げている間、シーツを回収したのは夫である。
普段、布団を干したり、シーツを扱ったことのない男である。

部屋に戻り、竿を戻した。
ビニールヒモには失望したので、以降はパジャマのズボン用に買ってあるゴムひもで強く結わいた。
これだと、ゴムの力で竿を抑えてくれる。
この失敗から学んだ教訓。

シーツは、夫の手によって、再び洗濯機の中に投入された。
よしよし、これでひと安心。

洗いあがった。
再びベランダに干すべく、まず部屋でシーツを広げる。

「ぎょえ~!」

シーツは、水玉模様に染まっていた。
その色は、蛍光ペンの黄緑色である。
その後、漂白剤を使用して幾度も洗濯してみたが、色は若干薄くなるだけだった。

しかし、その理由はわからない。
これは、なんだ?

翌日も、穏やかな晴れだった。
掃除日和だ。
ときどきは私もこのようにまっとうな主婦になる。

洗濯機のある洗面所を掃除するべく、マットをはずして歩いたら、ふいに足の指先にピトッと何かが触れた。

冷たい。
ぶにゅぷにゅしている。
ゴムか?

かがんで、目を凝らした。
わからない。

親指と人差し指で、つまみあげてみた。
薄い黄緑色だった。

やっぱりゴムか?
なんの?

瞬間、夫に疑惑を感じたが、使用後であればそんなモノがここに落ちているはずはないとすぐに思い当たる。

さらに顔を近づけてみた。

目が合った!

本当にショックを受けたとき、人は悲鳴などあげられないものである。
息を飲んで、腰が抜けた。

つまんでいたものを放し、感触の残る指先を洗いたいと思うのだが、うまく歩けない。
その日、どのようにこれを始末し、健全な夕食にこぎつけたか、私の記憶はない。

時は9月。
なにゆえに、その季節にそのようなモノが生息していたか、いまだ不思議である。
とうに蝶になっているはずではないか。
ピーターパンのようにオトナになるのがイヤで、子供の姿のままでいたかったのだろうか。
このような終末が来ることを予想だにせずに。

哀れである。
気の毒ではあるが、私だって被害者だ。
虫苦手のレベルが、みんなと違うのだ。
手に残った感触を払拭するのに、長い年月を要した。

あれから風の強い日は、外に洗濯物を干さない。
干した際は、取り込むときに細心の注意を払う。
払いすぎて、ベランダの床に落としてしまったこともある。
何やってんだか、私。

今日は、パンツにトンボがとまっていたが、手のひらで風を起こしたら穏便に去ってくれた。
タオルに小さなテントウムシみたいなのが、必死につかまっている。
パタパタしても逃げてくれない。
爪ではじいて死なれたら嫌だ。
そもそも爪が触れるのも避けたい。
洗濯ばさみの先っちょで、虫本体ではなく、隣あたりの繊維ループをうりうりしたら、ちょっと動いたので、この機を逃さず、再度パタパタしたら飛んで行った。
やれやれ。

これ、旅先ではここまで神経質にならない。
だから野山や花畑には行ける。
要は、我が家への侵入が嫌なのだ。
私の生活空間の中で姿を見たくないし、どこかにこっそり生息されるのも、それはそれで落ち着かない。

そういえば昔、ドイツの田舎の丘の上にあるビアカフェで地ビールを飲んでいたら、大きなハエがジョッキの飲み口にとまった。
手で払ったら、ヤツは驚いて、あろうことかジョッキの内側に落ちた。
ありえん!

虫も足を滑らすのである。
滑り止めの毛みたいなのに覆われているくせに!

読んでいただきありがとうございますm(__)m