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経済成長の基本軸を揺るがす労働市場の悪化(2) = 成長を支えてきた女性就業者に離職集中 =

 新型コロナ・ウイルス拡大は世界的にもサービス業を直撃している。リーマンショック後サービス産業の拡大で成長を維持してきた日本においては、成長軸が脅かされていると同時にこのサービス業を支えてきた女性就業者に雇用不安が集中している。

 ここではこの実態を眺めて頂き、新型コロナ・ウイルス感染拡大に対する政府の施策が「画竜点睛を欠く」ものであるかを明らかにしたい。経済成長の基軸が崩壊すれば、人口減、少子・高齢社会の進展の下、感染終焉後の日本においても、大きな後遺症を長期にわたって引きずる可能性が高い。

〇 リーマンショック後の日本を支えたのは女性

 図1は男女別就業者(季節調整済み)を月次ベースで07年1月から前月比増減を累積したものである。一目してリーマンショック後の就業者は女性の増加によって成り立っていることが分かります。

就業者[2914]

図1. 就業者の推移(季節調整済み、07年1月以降累積、万人)

 時間の経過に従って簡単に就業者の推移を眺めてみましょう。07年7月までは男女とも増加基調を続けてきましたが、その後男性を中心に減少し、男性の落ち込みは13年末まで続き、07年1月の水準にまで戻るのは昨年19年10月である。しかし、今年3月には再び07年1月の水準を下回り始め、10月時点では07年1月の水準を46万人下回る状態にある。

 他方、女性就業者は13年年初から07年1月の水準を継続的に切り上げていく展開となっている。ピークを打つのは昨年10月で、07年1月の水準を352万人上回る水準であった。その後減少に転じ今年7月のピークから79万人低い273万人の水準で底を打ち、10月時点では底から31万人高い304万人の水準となっている。

 ちなみに、この姿は図2の労働参加率(労働力人口/経済人口)の推移に明確に表れている。人口減、少子・高齢社会の進展の下で、女性の労働参加率は13年以降それまでの48%程度の水準から上昇を続け、昨年末には53.9%でピークを打っている。この間6%ポイント程度の上昇を記録している。

労働参加率[2910]

図2. 労働参加率の推移(季節調整済み、労働力人口/経済人口、%)

 他方、男性の労働参加率は14年初めに70%まで低下を続けた後、17年秋口から上昇に転じている。しかし、その上昇幅は小さく、10月時点でも71.6%であり、上昇幅は1%程度である。

 このようにリーマンショック後の日本を支えてきたのは女性就業者の増加によるものであるということを確認した上で、最近の労働市場の動きを眺めていこう。

〇 女性雇用者の改善見られず、10月には男女自営業者が急減

 表1、表2は男女別で眺めた労働市場の推移である。労働市場の見方はレポート(1)でお示ししたので、ここではポイントを絞って話を進めたい。

表1. 男性 : 労働市場の推移(四半期、前年比増減、万人)

経済人口(男性)[2912]

表2. 女性 : 労働市場の推移(四半期、前年比増減、万人)

経済人口(女性)[2911]

 雇用者の推移から眺めていこう。男性の雇用者は今年4-6月期、7-9月期と前年比で30万人程度の減少を示す一方、女性雇用者は男性より10万人以上上回る減少を示している。同時期、自営営業者については、男性が7-9月期に前年比プラスに転じる一方、女性は小幅な減少を続けている。

 結果、就業者としては、同時期、男性が前年比37万人減から27万人減へと減少幅を縮小させる一方、女性は同40万人減から50万人減へと落ち込み幅を拡大している。

 10月について眺めると、雇用者は男女とも前年比での落ち込み幅が縮小、改善幅は男性の方が大きい。但し、自営業者は男女とも前年比で大幅な下落に転じている。とくに男性自営業者が7-9月期のプラスから一転して女性を上回る大きな落ち込みを示している。

 10月の自営業者の姿は政府が打ち出してきた中小企業支援策が現実に行き届いておらず、かつ息切れしてきている姿である。政策支援を打ち出すだけでなく、その実行状態を常に確認、検証していく体制が必須である。国は「デジタル化」を推進するというが、それは電子システムの構築ということではなく、データ情報とその分析を常に行なえる検証可能な体制を構築することである。その為にも関係データの整備と公開が必須である。

 この結果10月の男性就業者は前年比で46万人減と単月ではあるが7-9月期より20万人程度大きい落ち込みを示し、女性も7-9月期より若干下落幅が縮小したとはいえ男性とほぼ同程度の47万人減に止まっている。

〇 女性の労働市場からの大幅退出続く

 4-6月期の就業者の急減の裏側で男性失業者は急増したが、女性失業者の増加幅は小幅であった。すなわち、女性の方が労働市場から退出をさせられた人々が多いことを意味している。これは男性の非労働力人口がこの時期16万人増であったのに対し、女性の非労働力人口は男性より11万人多い27万人に急増していることに表れている。

 7-9月期には男性就業者が前年比で前期より10万人落ち込み幅が縮小する中で、失業者は前期より4万人増加幅が拡大している。結果男性の非労働力人口は前年比で2万人減と前期の同16万人増から一転してマイナスに転じている。

 他方、女性就業者は男性と違い4-6月期大きな減少を示す中で、失業者は4-6月期前年比7万人増に止まり、非労働力人口は男性より11万人多い27万の増加となっている。春先からの新型コロナ・ウイルス感染急拡大でパート勤務が多い女性雇用者が失業保険対象者にもなれず、市場から退出させられた姿である。

 7-9月期も女性就業者の落ち込みが前期より前年比10万人増加する中、女性失業者も前年比20万人に急増した。これはパート従業員のみならず失業保険を受け取れる雇用形態まで離職の圧力が高まってきたことを意味している。それでも女性の非労働力人口は前年比で24万人と高止まりしており、パート従業員の解雇が止まっていないことを示唆している。

 10月においては、男性就業者が再度大きく下落する中で、失業者も急増したことで、非労働力人口は前年と同じ水準に戻っている。他方、女性就業者の大幅減少が継続する中で、失業者の増加は7-9月期より減少、結果的に非労働力人口は22万人増加し、7-9月期以降増加幅は縮小傾向にあるものの依然として高い増加水準を続けている。

===>次のレポートでは、年明け後の日本がこれまでの経済不況ではなく、新型コロナ・ウイルス感染拡大による社会経済活動の停滞であり、その中で起こっているに対して政府の施策が「画竜点睛を欠く」ものである証左をお示しする。

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