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グループでの米づくり「透明な米」プロジェクト

初回投稿から随分と間が空いてしまいました。今回は米づくりに関する記事です。

  1. 自然の力で育った美味しいお米を食べたい

  2. 子供たちに稲作体験をさせたい

  3. いつかは自分の手でお米を作れるようになりたい

そういう方にぜひ読んでいただきたいです。
最初の2つには多くの方が興味を持っているかもしれませんが、3つ目はハードルが高いと感じている方もいるのではないでしょうか?
このプロジェクトのチャレンジは、「食べたい」「体験したい」という気持ちから、最終的に「自分で作れるようになりたい」となるまでスムーズにつなげられることです。
これは出来上がった農業体験プログラムや農業塾ではありません。手探りでも自分でお米を作りたいと考えている人と一緒に取り組めたらと思っています。(もちろん、田植えや稲刈りの体験だけに興味のある方もご相談に応じます)


玉名の米づくり

玉名平野は、藩政時代の土地改良によって優良な水田地帯となり、米作りを生業としてきた場所です。五穀豊穣に感謝する「玉名大俵まつり」が今でも続く、高瀬船着場は年貢米を積み込む場所として栄えていました。
石貫などの里山地域はいわゆる棚田であり、いびつな形の田んぼは機械も入り込みにくい場所が多いです。戦後の農地解放により、地主は田圃を一定数以上保有できなくなり、多くの農地は小分けされて小作人に払い下げられました。そのため、周辺の田んぼのほとんどは狭く、曲線で囲まれた様々な形状になっています。
米づくりで生計を立てることは困難となり、今では多くの家庭が兼業農家で、主に農外収入で生活しています。さらに、奥地の田の多くは雑草が生い茂り、イノシシが掘り返し、管理・耕作していくのも一仕事です。世代交代するに連れて、米の食文化も低迷し、稲作から離れ、耕作放棄地が増加しているのです。

石貫の棚田の風景

里山の田んぼで取れるお米は美味しいです。それは間違いありません。山の恵みと澄んだ水がその源ですが、理由はそれだけではありません。農薬も使わず、一手間かかる環境下で、汗水流して育てて実った米一粒には、作った人にしかわからない格別な味が凝縮されていると私は思います。

グループによる米づくりの始まり

実家の両親は、自分たちが食べる分だけの米は小さな田んぼで十分なため、機械の入りやすく生産に適した広い所有している田んぼは知人に貸して、十数年前から顔馴染みの近所の地主から耕作放棄地を借りて、無肥料・無農薬の米を毎年耕作しています。

無肥料・無農薬の我が家の稲

父がグループでの米づくりを開始したのは、2008年、パーマカルチャーネットワーク九州が、我が家のファームステーション庄屋を拠点に講座を開催したことがきっかけでした。パーマカルチャーとはPermanent(永続的な)とAgriculture(農業)を組合せた造語で、1970年代にオーストラリアで始まった、永続的な農的暮らしのデザイン手法です。(詳しくはパーマカルチャーセンタージャパンのサイトをご覧ください)
縁があって、父はパーマカルチャーネットワーク九州の代表と知り合い、一泊二日の実践講座フィールドとして、我が家の敷地や地元とのコネクションを用いて、協力させていただきました。その後、当時の参加者の方々と関係が深まり、実に10年以上にわたる米づくりにつながったのです。
父の記したブログ(2008年の記録)によると以下のように書かれています。

米作りは大体5月から10月まで、半年間の仕事である。熊本では5月に苗代、6月に田植、10月に稲刈が一般的だが、この他に様々な仕事があることは、他の作物と同じである。
6月には遠くは福岡県から数名の男女に来て頂き、昔ながらの直角定規を使って田植綱を張り、手植えで何日もかかって田植をした。人間は頭で覚えた事柄は忘れるが、体で覚えた感覚は忘れない。私にも50年以上前の田植の感覚が蘇り、皆さんに指導することが出来た。今は機械を使った田植が一般的で、手植えをする人は殆どなくなったが、都会の人々に農業体験をして頂くには、昔ながらの手植えが最高である。
田植から稲刈りまでの期間中は、水管理、草取り、稗取り、畦の草切りなど様々な仕事があるが、これらの仕事は遠隔地の人では困難なので、近場の人と私でやるしかない。

親父のつぶやきブログ(現在閉鎖)

私は、東京から帰省したタイミングで父からそのような活動の話を聞き、純粋に東京の友人たちを誘って田植えや稲刈りをやったら楽しいのではないかと考えました。同僚に話をしたら興味を示し、二泊三日の米づくり体験旅行「庄屋の旅」が実現しました。

「庄屋の旅」2011年10月 稲刈りで指導する父の様子

初回は2009年10月の稲刈りでした。その年はグループの方々との田を手伝う形から始めました。その体験旅行の噂は広まり、翌年から東京グループの田んぼを1枚、父が地主と交渉して増やすことになりました。6月の田植え、10月の稲刈りイベントは恒例行事となり、2012年10月まで3年半(全7回)、同僚や友人の総勢27名が参加しました。取れた米は参加者で分け、一部の同僚たちとは東京で新米を食す収穫パーティも楽しんだものです。
しかし、このスタイルには一つ問題がありました。私が友人らと楽しんだのは田植え、稲刈りのみ。その裏には見えない努力が隠されていました。父がブログで述べている通り、田んぼの整備、水の管理、草刈り、稗(ヒエ)取り、その全てを夏の暑い盛りにも両親が汗を流して行なっていました。それは両親が食べる分以外の田んぼで、売りに出すわけでもない、完全なるボランティア作業でした。

透明性のある米づくり

私の独身時代の”遊び事”で始めた「庄屋の旅」も、結婚後は家庭と仕事の忙しさにより、そして何より両親の体力的にも長くは続きませんでした。そして、10年の月日が過ぎました。
新型コロナの蔓延も終息に向かい、2022年に久しぶりに石貫に帰省をした際、まだグループでの米づくりは継続していたことを知りました。メンバーは当時から入れ替わりはあったものの、2011年の東日本大震災以降、関東から移住してきた人たちも参加して、我が家を含めた7世帯で行われていました。各世帯1枚ずつ棚田を分ける形で借りて作っています。ちなみに、その一部の地主は私の小学校からの同級生のものでした。そのグループの田んぼとは離れた場所に、実家自宅の近くに、両親の借りている細長い田んぼはあります。
グループの世帯は皆さん、平日は本業をしながら、家族で一年食べる分だけを作られています。失礼ながら、元々は皆さん素人です。米づくりの基本からトラクター操作まで、父に教わったそうです。今となっては完全に自立して行われています。

グループメンバーの方々と(苗代作業にて)

玉名市内の近隣から来られている方もいれば、福岡からお越しの方もいます。トラクターや脱穀機などの必要な道具は我が家のもの使っていただき、修理や燃料、消耗品などの出費は年間で取りまとめて、全員で折半します。LINEグループで連絡を取り合い、人手のいる作業は日程を決めて、週末を中心に集まれる日に実施します。水の管理や草刈りなどは、状況に応じて、来れる人が他の人の田んぼの様子も見て対応します。一人で1枚の田んぼを全て面倒を見るのは大変でも、複数人で協力しながら、まとめて面倒を見れば、負担も少なく、実施できます。
両親の衰えから今後のことも考え始め、もう一度、父が”裏”作業で行なっていた一連の米づくりを学ぶことから始めてみようと考えました。そして2023年、私は福岡の友人を誘い、グループの方々との1年間の米づくりに参加するとともに、その一部始終を記録することにしました。

詳細な記録は、いずれ読みやすい形にしたいと考えていますが、とりあえず簡易的に主な流れを記載します。

1. 水路整備(2月〜4月)

作業量:半日2人以上の作業を複数回
作業内容:埋まってしまったり、崩れてしまった水の出入りや畦(あぜ)を作り直す。

一昨年まで水の入りが悪かった箇所を水路の高さや向きを調整しました

2. 塩水選別(4月中旬)

作業量:数時間2人以上の作業
作業内容:一昨年前の稲から良好な生育の望める充実した種子を選別するため、塩水の中に入れて、沈んだ実入りのよいもだけを選別する。

卵を浮かべて塩水濃度を確認し、浮いた種子を取り除きます

3. 田おこし(4月〜5月)

作業量:半日2人以上の作業を複数回
作業内容:トラクターで田んぼを耕し、柔らかくする。

土の塊が細かくなるまで、乾いた時期と水を入れてからと、何度か田おこしします

4. 苗代(4月下旬)

作業量:1日10名程度の作業
作業内容:苗を栽培するための田んぼ、苗床(なえどこ)を作り、選別した種籾を育苗箱 (いくびょうばこ)に均一にまいたものを並べる。

種籾を均一に巻くための道具
代かきした苗床に並べて置きます

5. 代かき・田植え(5月下旬〜6月上旬) ※体験イベント

作業量:1〜2日できるだけ大人数の作業
作業内容:田んぼに水を入れ、土を砕いて、均平にしていく作業を代かき(しろかき)と言い、その上で田植えをおこなう。

トンボを使って、高い箇所を平らにします
機械も使いますが、せっかくの体験なので手植えもします

6. 水管理(6月)

作業量:1人以上の現地確認を複数回
作業内容:田植え後の数週間は特に水の管理が重要になります。苗が沈み過ぎない、乾かないように、常にヒタヒタの状態になるよう毎日チェックが必要。また、イノシシの被害に遭うこともあり、電気柵の設置などを行なう。

山の餌が減ったためか、以前に増して、イノシシが民家近くまで降りてくるようになりました

7. 草刈り(7月〜9月)

作業量:半日2人以上の作業を複数回
作業内容:7月頃になると、とにかく草との戦いが始まる。草が生い茂ると、苗の育ちが悪くなり、暑い時期は1〜2週間で雑草は数十センチに伸びるので定期的な草刈りが必要。

8. 稲刈り(10月上旬)※体験イベント

作業量:1日できるだけ大人数
作業内容:刈った稲を紐で縛り、竹を組み立て稲架掛け(はさがけ)を行ない天日干しする。

体験参加者に手伝っていただきました

9. 脱穀(10月中旬)

作業量:半日5人以上
作業内容:乾いた稲を脱穀機を使って、稲穂と藁(わら)に分ける。

稲架掛けの近くまで脱穀機を運んで作業します

10. 収穫祭(11月)

収穫を祝い、全員で新米を楽しむランチ!

コミュニティスペース庄屋にて、みんなで新米おにぎりを食べます

リソースや知見をオープンに共有

また今年2024年も米づくりが始まっています。新たに1枚、この透明な米プロジェクト用に田んぼを借りました。グループの方との苗代用の田んぼとしても使います。
私が東京にいる時も遠隔からリアルタイムでカメラ映像を通して、田んぼの状態を確認できるように定点カメラを設置してみました。ITを駆使してDX化にもチャレンジ!

水の入り具合や草が伸びているかなど、現地に行かなくてもグループでシェアできます

「透明な米」プロジェクトでは、耕作放棄地を積極的に活用し、石貫の里山で作られる美味しい米の食文化を残すために、新しいスタイルの方法を探索します。

  • 初心者でも、個人でも、田んぼを持っていなくても、無肥料・無農薬の米づくりを始められようしたいと思います。

  • グループでの米作りに必要な道具、場所は可能な限り共有します。

  • 田んぼを貸していただくための地主との交渉は、私たちが仲介します。

  • 知見を獲得したら、いずれは独り立ちして本格的に個人で初めても良いし、グループで継続してもいいです。

そういったことに興味のある方、そして石貫の定期的に通える方を募ります!
是非、仕事を続けながらでも無理なく、協力し合って米づくりを続けられる方法を一緒に考えていきましょう。


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