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2022年度 第15回GA文庫大賞 研究

私は川崎中と申します。かわさきあたりと読みます。
10年ほど前にライトノベルの新人賞を受賞したことがあります。

ただその後は一切結果が出ず、商業出版とは無縁の人生を送っています。
noteでは、あの時なぜ受賞できたかの検証と、その時のやり方を言語化すれば改めて受賞できるのかの挑戦を行っていきます。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

現在第17回GA文庫大賞に挑戦すべく、まず受賞作研究を行っています。
GAに応募する経緯はこちら。

今回は2022年度、第15回 GA文庫大賞について見ていきたいと思います。
受賞作品は次の5作品です。

透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。(志馬なにがし)
ドラゴンズロアの魔法使い〜竜に育てられた女の子〜(鏑木ハルカ)
不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で(零雫)
嘘つきリップは恋で崩れる(織島かのこ)
異端な彼らの機密教室1 一流ボディガードの左遷先は問題児が集う学園でした(泰山北斗)

全体感想

全性別対象レーベル!?

事前の想像と違いました!
何が違うかといえば、全体的な作品の感性です。もっと男性向けに作られたレーベルなのかと勝手に想像していました!

でも実際には、『透明な夜〜』と『嘘つきリップ〜』は女性的嗜好の強い作品のように感じます。また、『ドラゴンズロア〜』は中性的なので、本当に男女半々の読者をとりに行っている感じなのか。

ただ、『ドラゴンズロア〜』以外はメインが男性視点のため、一応少年読者を想定しているものとは思いますが、ううむ、作品の根底にはやはり女性的嗜好、感性を強く感じます。あるいは単純に編集部に女性(的感性の方)が多いのか、その辺りは判断できませんが。。

恋愛系とそれ以外では、男性主人公の書き方が変わる

『透明な夜〜』と『嘘つきリップ〜』はどちらも恋愛系ですが、主人公の男性はどちらも地味目奥手系です。どちらかといえばヒロインや周りのキャラが動いてくれて、恋愛が進行していきます。逆に、女性を地味にするとより少女漫画味が増すことでしょう。もっとも『嘘つきリップ〜』のヒロインは元々地味なため、かなり少女漫画味がありました。

一方『不死探偵〜』『異端な彼ら〜』は主人公が有能で、自信が垣間見えます。

基本的には楽しみ方を明確に。しかし……

例えば恋愛ものであれば、『男女が仲良くなる過程』をメインに描き、それ以外の部分はなるべく書かないイメージでした。『ドラゴンズロア〜』『異端な彼ら〜』はバトルとそれに関わることを格好良く書いており、記述をそこに集中することで楽しみ方を明確にしています。

『不死探偵〜』のみが例外で、ミステリ、アクション、ボーイミーツガール、SF、コメディ、微エロと要素が多く、様々な読み味を内包した作品でした。

細かく説明が必要な部分は省け。楽しめる部分を書け

『不死探偵〜』にはSF要素が出てきますが、その深追いはしません。『ドラゴンズロア〜』はハイファンタジーですが、現代日本人の私が読んでも違和感のないくらいの価値観の設定に抑えられています。『異端な彼ら〜』は少年少女が政府機関の戦闘員なのは考えられないですが、そこに対するくどい説明はされません。『透明な夜に〜』は、差別問題や盲目の不便さなどはいくらでも書けそうなものですが、あえて厳しすぎる部分は書いていないのだと思います。
とにかく、どこに焦点を合わせて読者を楽しませるのかが重要で、それこそがラノベなのだと思いました。

作品別感想

透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。(志馬なにがし)

【セールスポイント】盲目のヒロイン

主人公は巻き込まれ型だが、お節介な友人を挟むことでヒロインとの仲がスムーズに進展。前半から目的が提示され、後半非常に納得感がある。感動的。

各出来事の解像度が高く、だからこそ心にくるものがある。盲目はともかく、その他ヒロインの要素に目新しさはないが、だからこそ普遍的であり感動する。普遍的なものをちゃんと書いてちゃんと感動できる筆力。盲目で独自性をだし、内容は王道。かなり世界の綺麗な部分をクローズアップして書いており、それが作品を読みやすくし、ラノベらしくしている。

ドラゴンズロアの魔法使い〜竜に育てられた女の子〜(鏑木ハルカ)

【セールスポイント】最強家族
ハイファンタジーだが、価値観などなどは現代読者にかなり伝わりやすい筆致。主人公一家が最強なので爽快感がある。非常にストレスレスな作品。

主人公と周りに実力差があるため、ほぼ緊張感はないが、それこそが爽快感を産んでいる理由だと思われる。また、主人公と家族の強さを発揮するシーンがほぼほぼ全ての見せ場になってくるため、楽しみ方のわかりやすい作品。主人公はドラゴンの両親だけに育てられているのに、人間世界にやってきてから文化のギャップ等はほぼほぼ(強さ関連以外)感じていない。そういう意味でも、見せ方の決まっている作品。ボーイミーツガール要素が一切ないのが時代を感じる。

不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で(零雫)

【セールスポイント】ヒロインが不死のミステリ
ミステリ、アクション、ボーイミーツガール、SF、コメディ、微エロ、非常に要素が多い作品。大ネタも面白いし、謎解きが笑える(いい意味で)。

主人公がひ弱や奥手系ではなく、バイクに乗りアクションも行う様は微ハードボイルド。文章は微妙にメタっぽい書き方も多く、要素が多いことも含めて『基本に忠実』とは真逆の作品。作者がいろいろなものを書けることの証明にも思える。事件にすごくラノベっぽい要素があって笑ってしまう部分がある。ただこれは、自分が客観的に読んだからでもある。ラノベは、どちらかというと主人公に感情移入させて、主人公視点で読み進めるものかと思っていたので、これもまた私が勝手にラノベの基本と思っていたものと違うように感じる。

嘘つきリップは恋で崩れる(織島かのこ)

【セールスポイント】大学デビューの不器用ヒロイン
少女漫画ライクで、特に中盤はヒロインを主人公だと見た方が感情移入しやすい。不器用な二人が徐々に仲良くなり、各々の問題を乗り越えることに感動。

序盤、ヒロイン側の問題は開示されるも、主人公はよくわからない存在なので、読み方がよくわからなかったが、中盤からは面白く読めた。二人は隣に住んでおり、秘密を共有しているという関係で、同居ものっぽい読みあじがある。
ほぼ全てのイベントが、主人公とヒロインの関係に関するそれなので、焦点の定まった作品。少女漫画と違いお互いの関係を壊し得る強いライバルがいないので、安心して読める。

異端な彼らの機密教室1 一流ボディガードの左遷先は問題児が集う学園でした(泰山北斗)

【セールスポイント】機密組織での戦略&アクション
銃アクションやバトルが格好良く、厨二心をくすぐる。主人公の性格は変わっているが納得感があり、すごく興味が惹かれる。

一応ファンタジーではないが、ファンタジックな作品。この年齢の少年少女たちの特殊部隊だとか、強さだとか、ありえないと思うがそれを許容できるのがラノベのいいところ。
主人公の価値観がズレており、端的に言えば人らしくない。それが、人間性を少しずつ取り戻すさまは本当に興味を惹かれる。
厨二で格好良く、違った個性の女の子が沢山登場し、楽しい作品。


いやーそれにしても、事前に思っていたGA文庫のイメージと違ったので、本当に受賞作を読むことは大事だよねって当たり前のことを再確認しましたね。。


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