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スペンサーのナポリタン

ぼくの愛読書にロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズがある。

 レイモンド・チャンドラーなどのハードボイルド研究で博士号も持つアメリカのハードボイルド作家ロバート・B・パーカーの生み出した、マサチューセッツ州ボストンを舞台に活躍する私立探偵。
 1937年生まれでファーストネームは不詳ですが、名前の綴りが"Spencer"ではなく16世紀のイギリス詩人エドマンド・スペンサーと同じ"Spenser"であることを誇りに思っているのだそうです。元々は検事局に勤務していましたが、上司に反撥して検事局を辞め探偵になったといいます。
 その風貌は185センチ91キロのがっしりとした体格で、毎日5マイルのジョギングを欠かさず、以前はボクサーもしていて何度も鼻を折ったといいます。
このように見た目はいわば典型的なタフガイ探偵ですが、その一方でダンテからF.スコット・フィッツジェラルドに至るまで数多くの書物に親しみ、彫刻やジャズを好むなど趣味人でもあり、また映画女優のピンナップコレクションにも熱中するなど、人間味に溢れる一面も持ちあわせています。
 長年の恋人としてスーザン・シルヴァマンがいますが、彼女は料理が苦手なため料理をするのはもっぱら彼の方であり、時には自分で凝った料理を作ることもあります。もっとも普段はチーズバーガーやステーキ&ポテトをよく食べる生活を送っています。
 その他にレギュラーメンバーとして、冷静沈着に仕事をこなす黒人の相棒ホークが登場し、彼の仕事の手助けをしています。

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中学、高校、大学と、まるでなにかに憑かれたみたいに本を読んだけれど、好みみたいなのができていて、こういったハードボイルド小説はよく手にとっていた。
しかし魅力的な主人公という意味では、この「スペンサー」に勝るものはなかった。
探偵小説にありがちな謎解きという要素よりも、登場人物それぞれの人間性や心理描写にスポットが当たる。

中でも名作として取り上げられることが多いのが「初秋」である。

離婚からお互いを傷つけるだけの為に親権を争う両親。母親からポールを取り戻して欲しいという依頼を受けたスペンサーは、心を閉ざしてしまって何事にも興味を示さない少年ポールに出会う。親権を争う親から彼を引き離し、自立させるためにポールに様々な「生きるために学ぶべきこと」をスペンサー流に教え始める。ボクシング、ジョギング、大工仕事……。
「自立とは、頼る相手を両親からおれに変えることではない。自分を頼りにすることを覚えるんだ」と15歳のポールに告げるスペンサー。
それは来る冬に立ち向かうために踏み入れる秋の入り口だった。

この季節になると、ふと手に取ってみる本だ。
この本には「なにか」がいつもあって、読むたびに「なにか」を感じて冬を生き延びている気がする。
そんな、ぼくのなくてはならない本だ。

スペンサーの料理

これはロバート・B・パーカーの著作ではないが、面白く読んだ。
スペンサーは料理をよくする。
その料理は特別なメニューではなく、平均的アメリカ人の味覚に沿うごく普通のものだ。

このスペンサーが料理をするシーンに触発されたのも結婚後また料理を始めた一因であった。
特に変わったものを作る必要はなくて、自分が食ってきたもの、食いたいと思うものを作る。
至極当たり前で、それまでもやっていたことを、またするようになっただけだ。
ちなみにスペンサーはナポリタンを作らない。
ナポリタンは日本食だ。

スパゲッティ

スパゲッティは身近で、しかも簡単な料理だ。
茹でて、いい頃合いで湯からあげて、好みのソースと絡める。シンプルな料理だ。
しかし旨いスパゲッティを作ることができるのは、おそらく人生の中で自慢できる事のひとつになる。シンプルなものにはごまかしが効かないからだ。

いいか、自分がコントロールできない事柄についてくよくよ考えたって、なんの益にもならないんだ。

スペンサーがポールに言った言葉を、また噛み締めてスパゲッティを茹でている。

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