新しい置き場

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俳句沼/俳句は難しくないよの話

俳句が好きだ。とてもおもしろい。愛おしい。頬ずりしたくなる。 出会いは大学の授業だ。俳句論とかじゃなくて、がっつり句会をやるものを受けていた。毎週、2、3の俳句を持ち寄り点数をつけ感想を言って最後に作者名を発表する。先生は現役の俳人で、ホワイトボードとかプリントとかテストとかレポートとかそんなまどろっこしい片仮名は存在しなく、真に句会をすることがその授業の(そして単位の)すべてだった。そんなストロングスタイルの空間になんかおもろそうという理由だけでひとり飛び込んでしまった私は

    • ちょっくら

      悲しいときはひたすらに悲しくて、あんまり言葉が出てこない。 煙草が吸える喫茶店にいる。さっき恋人にその旨をふざけた言い方で伝えたので、予測変換には「喫茶店にいるます」と出てくる。そんなことはよくて。 頭上には埃を被ったライトがある。広くて丸いテーブルを、ヘッドホンをつけ首を小さく振りながらリズムを取っているイカした髪型ボーイと、大きなスマホに大きなキーホルダーをつけた大きめ帽子ガールと囲むように座っている。なんだか手汗が止まらない。店内の温度調節は上々だ。目の前にはコーヒー

      • すきぴとの心中をやめにした話

        言葉という得体の知れないものに命を賭して肉薄したい。近頃の私は、その欲求で死にそうになっていた。 こんなに愛しているのに、どうして私の書く文章はつまらないの?悪い大人にひっかかったヒロインの顔をして鼻を啜りながら、許さないんだから、とハンカチを握りしめる。狭窄した視野が捉えたのは凡庸で極端な単語だった。 私、言葉と心中したい。それを生涯の目標としたい。 この間、生まれてからの時間のほとんどで敬愛している作家さんの、未読だった本を読んだ。お花屋さんに憧れる女の子の話と、亡く

        • ガンガン流れるMUSIC

          今日から1週間ちょっと恋人に会えない。 恋人だって、うける。 この先、天変地異が起きないに限った話だけど、1ヶ月前に、24年の人生で初めてまともに恋人ができた。天変地異とはその甚大さに関係なく簡単に起こるので、未だに恐々としている。 私の恋人はまともなので、1ヶ月記念に驚く私に、「1ヶ月なんてそりゃ続くやろ」と言った。私はやべーやつなので、こいつやべーな、と思った。 30日だ。30日間。31日間かもしれない、そこはよくわからない。よくわからない日数間、私たちは恋人という

        俳句沼/俳句は難しくないよの話

          ごらん

          ごらん、あれが 私を騙した馬鹿もその新しい恋人も幸せにならないなら、いらない、いらないと喚く赤子の涙の中で、 神様、許されるのならどうか私を不正解にしてくださいと縋りつき懇願している君の瞳で、 勝手に決めつけられて震える心の片隅で、 愛も勇気もうざったかった人が潰した蝿の最後の血雫で、 敵対せずに手を取り合うことがどれほどの奇跡かまだ知らなかった少女の爪の先で、 奪えなかった音楽のメゾフォルテの曲線で、 喘ぐことと、乾くことしかできなかった剥離性口唇炎の細胞で、

          ごらん

          たぶん、祈るほど

          前のアカウントのやつをお引っ越し。  実家が幾つかあって、父のいる離島の方の家では、大晦日の昼と夜は“お祈り”をしてからご飯を食べるのがルールだった。父は真言宗の僧侶なのだ。とはいえいわゆる立派な寺院ではなく、子供部屋の隣と、玄関を入ってすぐの仏間に仏様がいるだけの普通の民家に住んでいた。そこにご飯の乗った御膳をお供えし、父が20分ほど何やら唱えたり指を曲げたりして、私たちは後ろでひたすら手を合わせる、それから仏様の御下がりを頂く、というシステムだ。  私は仏教徒ではないけ

          たぶん、祈るほど

          おういつ

          *前のアカウントで書いたものをお引っ越し  待ち合わせ。ドトール。壁沿いの席に座ると、正面のカウンターに女の子。イヤホンを耳に、真剣な表情でテキストを読んでいる。ケーキセットをトレイに乗せた女性がその横を通りがかり、机上の鞄に体をぶつけた。ピタゴラ式にコーヒーが倒され、水浸しになる。女性はそれに気付かず着席し、いただきますをする。女の子の信じられないという顔。暫し放心のあと、スマホや文房具を雑に救出し、時間をかけてうんざりしてから、レジへ向かう。布巾を借りてきて、目の前でケ

          おういつ

          拝啓 前時代おじさん

          *前のアカウントで書いたやつのお引っ越し ドラマあるある今から言うよ。  「若手女優演じる新入社員の主人公が、ニヤついた中年の男の上司に酷いことを言われる」。ジェンダーとか育休とか、現代社会が持っていてアップデートしなければならない、不平等で独善的な旧式の価値観のこと。そんな偏見を叩きつけられ、ひとり涙を呑む女の子。このニヤついた男の上司は、大抵、登場から30分くらいあとに、ドラマツルギーを乗り越えた女の子に圧倒されて終わる。  私は彼のことをこっそり、「前時代おじさん」

          拝啓 前時代おじさん