これからはお客さまに成果を売る

これからはお客さまに成果を売る

 海外で開催された社内トレーニングに参加したときに初めてoutcome based sellingとか、selling customer's outcomeとか、selling outcome to your customerと言う言葉を聞いた。今から10年以上も前の話だ。その時点で外資系で22年も働いていた私だったが、決して自慢できるような英語ネイティブな能力はないので、聞き取ることはできたが、正直いって、どういう意味で使っているのかがわからなかった。辞書を引いてもoutcome sellingと言う成語での意味は出てこないし、直訳すれば「成果を販売する」と言う意味だというのはわかるのだが、そういう日本語としては聞いたことがないから、得意のイマジネーションもさっぱりだ。

だから私が一人つぶやいた言葉は
「成果を売るって、意味わかんないな。お客さまごとに成果の定義が違うんだから、製品やサービスじゃなくて成果を売るって、つまりはコンサルタントでも始めるつもりか? だいじょうぶか?」
 私が長らく働いていた会社は、バイオテクノロジー技術の支援会社で、遺伝子組み換えした大腸菌や酵母を使ったバイオ医薬品の研究開発・製造をする製薬会社がお客さまだった。私も研究者崩れというか、テクノロジーが好きな人間だったので、これまでも確かにお客さま先ではコンサルタントのまねごとのようなことはかなりしている自負はあった。しかし、このトレーニングには、まったく異なるビジネスから混在して参加しているはずなので、研究者相手のビジネスはうちだけだし、どうもそういうコンサルティングをすることで儲ける話でもないらしい。
 スクリーンでは豊富な事例を写真入りで示してくれるが、読み終わらないうちに次へ進むし、お客さまへのインタビュー動画を流しているが、聞き取れても、それが病院のお医者さんだったり、大きなジェットエンジンのエンジニアだったり、バイオ関係者は出てこないので、ますます、訳がわからない。海外研修だって言うから、喜び勇んで参加したけど、お腹はこわすし、なに言ってるか全然わかんないし、あーあ、ハズレを引いちゃったかな、とちょっとガッカリした気分だった。その日はまだ初日で、あと10日はこの100人以上のメンバーと学ぶ羽目になるのかと思うと憂鬱だった。週末にならないと観光にも行けやしない。
↓この写真は100人同時研修のディスカッションフォーラムの一コマ、みんな喉が枯れるまで議論し続ける。

「そっかー、そういうことだったのか!」

 廻りはインド人や中国人や英国人やフランス人やイタリア人やアメリカ人だったが、つい日本語でそう叫んだ。私の日本語が通じるはずもないのに、私の表情を見て私が合点がいった顔をしているのを読み取ったのだろう、皆がcongrats Atsuと言ってはハイタッチしてくれる。グループディスカッションに移ってしばらくして、ようやくoutcome sellingの意味が腹落ちしたときのことだ。

 実はそのちょっと前にグループ討議で部屋を移動して、自己紹介を済ませるやいなや、私は開口一番に「to be honest, I could not undestand the meaning of outcome based selling practically. Tell me about that in detail, please. anyone else?」って恥ずかしげもなく言ってみたのだった。私以外はきっと英語バリバリできるんだろうなー、って思ってたから。そしたら隣のイタリア人が大きくうなずいて握手を求めてくる、あれ、みんなわかってないの? するとフランス人のフランシスがフランス訛りの英語で、たぶんこういうことだと思う、と教えてくれた。 英語でなんと言ったのか覚えていないので、日本語で書くね。

「これまでは製品を売って納品してお金をもらうというビジネスモデルだったけど、それだと製品の機能と品質と価格の勝負になる。もうそこでは差別化できないし、選んでもらえなくなってきている。じゃ、コンサルティングセールスとか、ソリューションセールスというアプローチもあるが、これは単なる営業のスタイルでしかなく、どんなスタイルだろうとも結局は製品やサービスを売るだけなら、もの売りでしかない。お客さまは、そんな営業のスタイルなんかには、もうごまかされないんだ。」わかるわかる、フランス語訛りの英語、わかりやすい。
「お客さまは製品やサービスが欲しいんじゃなくて、究極にはお金を払ってoutcomeを買いたいだけなんだ」そこで、outcomeの定義を聞こうとしたら、イタリア人が質問した。
「tell me the definition of outcome. what's outcome based selling? 」
そうそう、そこなんだよ。
「お客さまの事業目標の達成だよ、それがお客さまにとってのoutcomeなんだ。うちの会社はB2Bモデルだから、製品やサービスを提供して、それを使ってもらって、お客さまが結果を出して事業目標を達成する、そして事業そのものの目的を果たすまでを、我々の共通のゴールにするんだ」そこで皆が口々に議論を始めて騒がしくなった。

 いや、待てよ。確かに日本のチームは『ナンバーワンソリューションプロバイダーになる』なんて言う宣言をずいぶん前にしてて、”これからは製品を売るんじゃなく、ソリューションを提供していく”とは言ってきた。でも、このoutcome based sellingは、もう一歩先へ行っていて、ソリューションを提供してもお客さまが事業目標を達成できないのだとしたら、つまりお客さまの役に立たなければ意味はないと言うことだ。ソリューションを売るだけで、その後にお客さまがソリューションを使いこなして結果を出せなければ、製品を売りつけてそれでおしまい、と言うこれまでの営業スタイルと同じだと言うことだ。何を売ろうが、お客さまの結果につながるようにサポートして、事業目標を達成するまで最期まで見届ける、いやいや見てるだけじゃなくて、手も出して口も出して、結果に責任を持つと言うことか、あれ? これって・・・・・やって来たことだよね?

 今までだって、私個人として、契約して、納品しておしまいじゃなく、お客さまを成功に導く、お客さまの成果を最大化する、今までだって最後まで付き合ってきたじゃん! でも、それは顧客担当者の個別の想いとして勝手にやってきただけで、組織として事業戦略として取り組んできたわけじゃなかった。いや、私以外はそうじゃないという意味じゃなく、みんなも会社に黙って好き勝手にお客さまに入れ込んでいるのは知っている。だって自分の気が済まないから、お客さまが成功するまで『おつきあいしてる』だけで、そこまでを給料もらった仕事だと認識しているかというと、会社はそこまで求めていないって思ってた。だから会社には少し後ろめたい気持ちがあったけど、お客さまの喜ぶ笑顔が見たくて、会社には内緒にして黙って、そこまで時間を使っていたのだった。

 そうか、これからは、おおっぴらにお客さまを最後までサポートできると考えていいんだ。これは事業戦略なんだ! そう思うとつい
「そっかー、そういうことだったのか!」
と日本語で大きな声を出していた。皆がcongrats Atsuと言ってはハイタッチしてくれた。

つづく

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お待ち申し上げております。

これからはお客さまに成果を売る」は、2016年に私が独立したときに一番最初に書いたブログ記事のタイトルでもあり、独立したきっかけでもある。これまで何百回も繰り返してきた言葉であり、このタイトルで外部講演もしてきたが、まだまだこの「outcome based selling」と言う概念は、日本では根付いていないようだ。しかし、添付した動画はまさに「成果を売る」ことをメッセージにしたショートムービー(ブランデッド・ムービーというらしい)で、鳥肌が立ったくらいの見事なデキなのでシェアしたい。


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