見出し画像

吐き出す

鍋に張られた水に浮かぶカップスープの袋とそのそばにいる父を冷ややかな目で見つめる私。

部屋のベッドで横になっていると、台所の方から炊飯ジャーのご飯を何度も何度もよそう音と食器棚を開けたり閉めたりする音がした。時計を見ると、20:10。入院する前の父の夕食時間がちょうどこの位の時間だった。その前に何をどれだけ食べてようと、時間になるとご飯を食べるスイッチが入るらしい。

今日は父の初めてのデイサービス体験の日だった。昨日のお昼、父と久々に言い合って、不穏な空気が流れた。案外すぐに私の気持ちは落ち着き、ご飯もう作らへんから!と言ってしまったが、何もなかったかのように、お昼ご飯を用意し持っていったら、父も何もなかったかのように、ありがとうと言った。

その後、機嫌良くいてくれた父は、昨日いったんは行かへんと行ったデイサービスにも、今朝気持ちよく率先して準備し、9時過ぎの迎えと共に笑顔で出かけていった。

デイサービスのメインの目的は、お風呂に入れてもらうこととリハビリだ。といってもそれは私にとっての目的であり、父にとっては気乗りのしないことだろう。

最初にお風呂の話をした時は、痩せてしまったし裸になるのが恥ずかしいと言っていた父もしょうがないと思ったのかお風呂の話に特に嫌がる様子はなくなった。行く前に、父が持って行くものないんか?と聞くので、お風呂入るからバスタオルとかは持ってくでと言った時にも特に反応はなかったので、入ってくれるものと安心していた。

3時過ぎにスタッフの方に付き添われ帰宅した父。スタッフさんが、申し訳なさそうに、お風呂には入られなかったですと言う。

やっぱり入らんかったか。
せっかくのお風呂のチャンスが。

父は去年12月なかばに入院し、先月退院する約ひと月以上の入院期間中お風呂には入ってなかったらしい(身体を拭いてはもらっている)。そうでなくても普段入るのは2週間に1度で、少なくとも2ヶ月以上はお風呂に入っていない。

退院後、大きな粗相があったときに、下半身だけシャワー浴びよとお願いして、2度お尻から下だけ洗った。2ヶ月以上お風呂に入ってなくても案外きれいなのは、冬のおかげだろうか。

デイサービスから帰ってきた父に、どうやった?と聞くと、はははと乾いた笑いをする。楽しくなかった?と聞くと、楽しくなかったことはないでと言うものの、やっと解放され家に帰れたのを喜んでるような感じを受けた。

ご飯はどうやった?と聞くと、食べると答える。いやいや、そうじゃなく、お昼ご飯食べてきたやろ?と言うと、ああ、少なかったなーと言うから、お腹空いてるん?と聞くと空いてると言う。ほんじゃ食べる?と聞くと、食べると答えるから、少なめにご飯をよそい、おかずと一緒に部屋に持っていった。それを見た父が少ないなあと言うから、お昼食べてきたんやろ?と言うと思い出し、そやったそやったと言う。

なんだかなーと思いながら、自分の部屋に戻り、本を読んだりしていたが、エアコンがもったいないので、電気毛布にくるまり布団の中で本を読むことにした。横になると眠くなるもので、気づいたら眠っていた。

そして、目を覚ましたのが、冒頭の父が台所で何かしてる時だった。時刻は20:10。夕飯の用意をしていなかった私。でも、夕方にまあまあ普通の食事をしていたはずだ。父が入院後優しい気持ちになったりしたが、今日はまた父への苛立ちがやってきた。どんだけ食べるねん!

部屋の中からそーっと台所の様子をうかがう私。なかなか自分の部屋に戻る様子がない。しびれを切らし、部屋から出る。出たらすぐそこは台所で、コンロの火を点けようとする父がいた。最近、コンロの調子が悪くなかなか点かない。そんなことより、父は火にかけていることを忘れてちょいちょい空焚きするので、使わないようお願いしていた。そんなことはすっかり忘れてるのだ。

ガスコンロの調子が悪いことを伝え、鍋の中を見ると、カップスープの袋が水に浮かんでいた。こんなんしても飲まれへんで。やるから。とイライラしながら父に言う。父はそんな私のイライラには気づかぬ様子で、頼むわと笑いながら自分の部屋へ戻っていった。

父の部屋に行くと、なぜかカレー皿によそわれたご飯がある。もしかして、カップスープの袋をレトルトカレーの袋と間違えたんではなかろうか?今はないけど、前は常備していたレトルトカレーの置き場所にカップスープを置いてたのだ。両方とも袋が銀色で似ている。サイズ全然ちゃうけど笑。絶対そうや。だから袋を温めようとしてたんや笑。謎解けた。

カレーはなかったけど、ちょうど、ご飯にかけて混ぜてチンしたらドリアになるというレトルトを買ってたので、それをかけて出そうとレトルトの袋を開けてご飯へかけた。さすが安かっただけあり、なんの具も入ってない、ケチャップとミートソースのあいのこみたいなソースやった。かなりな量のご飯をよそってた父。ソースをご飯に混ぜようとスプーンでかき混ぜるもなかなか混ざらへん。

そして、私が壊れた瞬間がやってきた。

素手でおもっきりぐにゃーっとどろどろのごはんを握っては放し、握っては放し、こねくりまわした。服の袖口がオレンジになった。ご飯が飛び散った。床に落ちたご飯を拾って食べ、手についたどろどろのご飯をなめた。袖口を水で濡らし、食器洗剤をかけて、びちょびちょになりながら洗った。

ぶちーんと切れてしまったのだ。
このときの私の形相は恐ろしいものやったと思う。

あー私、かなり溜まってたんや。

全然気づいてなかった。
ストレスってこんなにも気づかんもんなんやろか。

気が触れたような自分の行動に、自分の心の状態を知ることとなった。

どろどろにこねくりまわしたオレンジ色のご飯をチンしてもっていった。他にもあったおかずを出す気にはならんかった。

なんやこれ?と言う父に、カレーしたかったんやろ?カレーはないから、ちゃうのんかけたと答える。食べたくなかったら食べるなと心の中で思う。

食べてどう言うんか見たかったから、口に入れるのを待ってたけど、熱いからもうちょっと待つと言うので、父の部屋を出た。その後食器を下げにいったら、キレイに平らげられたあとの皿があり、父はベッドに横になっていた。

「美味しかったわ。ちゃんと味あったわ」やって。あんなオレンジで味ないことないやろ。

明日は、ケアマネさんがまた来てくれる。
今日のデイサービスでの父の様子を聞いて、今後またどうするか話をしにきてくれる。

頼れる人には大いに頼ろう。

悪夢を見たあとに、悪魔な自分が現れた笑。
(悪夢の記事を今日あげてます)

この記事が参加している募集

今こんな気分

サポートとってもありがたいです♡♡♡ おかげで生きてゆけます〜〜〜!!!