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《親ペン雑記#8》プライオリティのクオリティ

 日本経済新聞社と日経BPが共同運営しているライフスタイルサイト『NIKKEI STYLE』の記事【脳を鍛えるコツ3つ 脳トレは筋トレより早く効果あり】はとても興味深い記事で、例えば次の一節などは「なるほど」と思う。

優先順位でToDoリストを作っていても、リモートワークでは仕事と家事がごっちゃに混ざります。優先順位で片付けようとしてもうまくいかず、いちいちやるべきことを考えるたびに脳のメモ帳が浪費されてしまう。シンプルに、時系列でやるべきことのリストを並べて、上から片付けていくほうが脳のメモ帳を浪費しないでしょう


 確かに、複雑に物事の絡み合う現場では、単純に優先順位、プライオリティにだけこだわっていては、優先順位どころか、何一つ課題が解決されないといったことにもなりかねない。
 しかし、ここで注意しなくてはならないのは、だからといって、事前に優先順位をしっかりと確認しておくことの重要性は、いささかも減じる訳ではない、ということだ。優先順位と実行順位は必ずしも一致する必要はないが、優先順位が定まっていない状況は、無目的の行き当たりばったりと同義だからだ。
 いい機会なので、そんな優先順位の質、クオリティを高めるにはどうすれば良いか、身近なところから考えてみることにした。


 この記事に行き当たる少し前、筆者が常々社会の縮図だと思っているコンビニで、次のような一場面に遭遇した。それは、とある年配男性(仮にA氏とする)の仕事ぶりである(ちなみに、勤務時間に融通が利くせいか、コンビニで働くシニアは決して少なくないようだ。コンビニもその誕生からだいぶ経って、もともと働いていた人が高齢化している、ということもあるかも知れない)。
 その日私が買い物に行くと、件のA氏は、レジカウンターの中で背中をかがめて何か作業をしていた。通りすがりに見るともなく目を向けると、カウンター内に置かれている複数のゴミ箱の中身をビニール手袋をした手で一つにまとめている
 これをどう見るか?——


 A氏の目的は明らかにゴミ袋の中身を一つにまとめ、廃棄するゴミ袋の数を削減することである。年配の方らしいというべきか、典型的なMOTTAINAI精神だ。それはそれで素晴らしい、大切な心のありようである。仮にゴミ箱が3つあって、3つ分のゴミを1つのゴミ袋に押し込められたら、廃棄するゴミ袋を2つ削減できることになる……
 しかしだ、このゴミ箱の中身を1つにまとめるという作業、タスクを単純にそれだけで評価できるだろうか?——問題点がいくつか浮かび上がってくるのではないか――

(1)総体的な経費・・・詳細な価格が分からないのであくまで思考実験だが、仮にゴミ袋、ビニール袋が1枚30円、A氏の時給が1200円とする。A氏は、このタスクに接客、レジ打ちを挟んでゆうに10分くらいかかっていたから、このタスクに掛かった経費は、
  捨てるゴミ袋代+掛かった人件費
 =30円+1200円÷60分×10分
 =30円+200円
 =230円
もし、余計なことはせずに、3袋のゴミ袋を3分でゴミ捨て場に持っていっていたら、
 =30円×3袋+20円×3分
 =90円+60円
 =150円
このタスクの一つの盲点は、人件費が思いのほか掛かっているということだ。ゴミ袋代60円を節約できても、総体としては経費がかさんでしまっている(環境負荷低減という視点もあるが、だったら、ゴミ袋を満タンにしやすいゴミ箱の形状、ゴミ箱とゴミ袋の大きさのマッチング、ゴミ袋はある程度満タンになってから回収する、さらにはペーパーレス化といった施策の方が、文字通りプライオリティが高いだろう)。

(2)他にやることがないか・・・しかも、この10分を接客や売場の手直しなどより付加価値の高いタスクに振り向けていたら、その費用対効果の差はさらに広がる

(3)お客の受ける印象・・・ビニール手袋をしているとはいえ、ゴミをさわった手で接客してほしくない、自分の買おうとしている商品をさわってほしくない、というのが正直なところではないか。レジカウンターの中という目立つところで、レジ打ち接客の合間にやるべき作業とは言えない。清潔で明るい店といった大切な店のイメージを損なってしまっているのかも知れない。 


 他にもまだあるかも知れないが、これらはすべて、何に重きを置くかというプライオリティの問題に収斂していく――

〈1〉To Doリストの精度アップ・・・プライオリティのクオリティをあげるには、なによりもまず、To Doリストのモレが少ない、精度が高いことが肝心ではなかろうか。大切な項目が欠落した狭い土俵の中で優先順位をあれこれ言っても始まらない。

〈2〉最終目標の可視化・・・優先順位を決めるには、自分たちの最終目標がどこにあるのか、可視化し共有する必要がある。目的地が複数あって、各人の思惑に齟齬があるようでは、プライオリティーもゴチャゴチャの総花的なものになってしまうだろう。A氏の例でいうなら、彼は、ストアロイヤルティの向上をもっと意識すべきだったかも知れない。 

〈3〉評価尺度の精度アップ・・・プライオリティの達成度を評価するのに、誤った尺度を用いては、正しく進路を定められないだろう。例えば、会社の業績の向上という最優先事項のために、経費節約だけを重点的な評価尺度にして、先行投資に消極的であったらその会社はどうなるであろうか……

〈4〉経路設計・・・冒頭の記事の例ではないが、優先順位と実行順位は必ずしも一致しない。時には優先順位の低いものから取り掛かっていく遠回りの経路設計、工程表も必要になってくるのではないか。

〈5〉修正姿勢・・・時代と現場はものすごい速さで変化していく。常にプライオリティを見直して修正していく姿勢に欠けていては、あっという間に時代遅れのプライオリティとなってしまうだろう。


 今回改めてプライオリティというものを考えて、その奥の深さに気付かされた。そして、大切なことは、このプライオリティという課題が、何も会社、企業人に特有の課題ではない、ということではないか。プライオリティは常に私たちの身近にあるのである



#COMEMO #NIKKEI


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