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《親ペン雑記#4》現代セルフレジ考

 スーパーやコンビニで自ら商品をスキャンしたり会計をしたりする姿、セルフレジもすっかり見慣れた光景になってきた。少し前の日経電子版の記事【セルフレジの利用客6割に スーパーも導入、民間調査】にもその普及拡大の様子が描かれているが、コロナ禍にあって顧客と店員の接触を減らす効果への期待などが背景にあるようだ。



 しかし、このようなセルフレジの潮流は、コロナ禍で加速された側面は否めないにしても、そもそも商品を読み込んで(スキャンして)⇨会計するという時間のかかる旧態依然とした決済プロセス=買い物において最もストレスの大きい部分と言ってもいいプロセスを、抜本的に時短化・省力化・省人化し、売る側にとっても、買う側にとってもストレスフリーな環境を作る、という未来志向の話のはずだ。
 そのあたりのことを、少し古いが日経電子版の記事【セミセルフレジ、セブン全店に 8000店レイアウト刷新】で、社長が次のように語っている――

9月以降、セミセルフレジを全店に入れる。精算はお客様自身が、レジ打ちは従業員がする。無人のセルフレジでは酒類やたばこが売れず、客単価が減少する。セミセルフは年齢確認でき、作業時間も半分程度になる。回転率が上がり、省人化につながる



 決済プロセスのストレスフリー化のキーワードはずばり『時短』、セルフレジ導入によって本当に時短が実現しているかがポイントではなかろうか。
 そこで、筆者がよく行くコンビニのレジもセルフに切り替わり、そこでの自らの体験や他のお客の様子などから様々に気付かされる事があるのでまとめてみることにした。ただし、ここで言うセルフレジとは、商品スキャンから会計までお客が行うフルセルフレジではなく、レジ打ちは従業員が行い精算はお客自身でやるセミセルフレジのケースだ。


(1)袋詰めと会計が別であること

 行きつけの店がセミセルフレジに切り替わって、幾日もしないうちに気付いたのは、決済プロセスには、レジ打ち(商品スキャン)・袋詰め・会計という3つの工程があるという言ってみれば当たり前の現実だ。レジ打ちは店員さんの行う必須の工程で不可避だが、あとの2つの組み合わせ次第では決済プロセスの所要時間に大きな差が出てくる。
 結論から言うと、店員さんがレジ袋などに袋詰めしてくれている間に、お客が同時進行で会計を済ませてしまえば、大きな時短となる。謂わば従業員と顧客の協働による時短である。
 ところが、衛生上の観点から店員がマイバッグに触れること、マイバッグへの袋詰めを禁じていたり、お客が自分でマイバッグに袋詰めするようなケースでは、お客が会計も袋詰めも自分でやることになり、しかも袋詰めをプロの店員さんのようにスムーズに出来る訳でもないので、むしろ大幅な『時長』となってしまうのである。当然、その間にレジ待ちの行列は伸びていく……
 この事からだけでも、必ずしもセミセルフレジで時短が実現する訳ではないことが分かる。


(2)様々な決済手段

 次に気になるのは、現金から電子マネー、バーコード決済など様々な決済手段がある中、所要時間にどのような差が出てくるのだろうかということだ。筆者自身さまざまに試してみ、また、他のお客の様子を観察するなどして見えてきたことを整理してみる。ただし、店の中でストップウォッチで計測する訳にもいかず、どの位の所要時間かというのは、アナログな、かなり感覚的なデータであることをお断りしておく。

決済スピード・・・・・・・・・決済手段

速い・・・・・・・・・電子マネー
(即~1、2秒)     (各社で大差なし)

速い・・・・・・・・・・・・・バーコード決済
(即~数秒)  (ベンダーによって反応速度に差がある)

少し遅い・・・・・・・・・・・・・・・クレジットカード
(1~数秒)(各社大差なく、チップより磁気のスキャンの方が速いか)

遅い・・・・・・・・・・・・・現金
(数秒~数分) (財布から数えて出し入れする手間)

 ここで電子マネーとはnanaco・PASMO・Suicaなど、バーコード決済とはLINE Pay ・楽天ペイ・ PayPayなどで、クレジットカードも含め若干の反応速度(スキャンしてから完了のチャイムが鳴るまでの時間)の差があるものの、大きな差はない。むしろ、バーコード決済のバーコードを出すのに手間取ったり、その場でチャージする必要が出てきた場合などに時短を妨げる大きなリスクがあると言えそうだ。そうなると、決済の所要時間はあっという間に分単位に膨れ上がってしまう……
 だが、やはり、というべきか、セミセルフレジにおける最大の問題は『現金』にありそうだ。


(3)現金決済のリスク

 現金、キャッシュはあくまでアナログな『モノ』なので、財布からの出し入れ、枚数の勘定などにどうしても物理的な時間がかかる。しかも、一枚一枚の紙幣・硬貨の個体差、扱う人間の個人差によって大きな時間差が生じてくる。折れ曲がったり、ちぎれかけた古い紙幣をセルフレジの投入口に差し入れてしまったり(一度レジが止まってしまう場面に遭遇したが、慌てる店員さん、焦るお客さんと、強い印象が残った)、誤って何かのトークンやクリップなど異物を硬貨の投入口に入れてしまったり、あるいは、人によってサクサクと済ませてしまう場合もあれば、随分と金勘定に時間のかかってしまう場合もあるだろう。
 ちょっと考えただけでも、セミセルフレジの現金決済には実に様々な『時長化』リスクがありそうだ――

▶セミセルフレジの現金決済における『時長化』リスク

① 投入するお金の勘定に時間がかかる。

② 特に、50円、100円、1000円などピッタリのお釣りをもらおうとする場合。とっさの引き算が苦手な人は多いのでは……

③ 買い物ついでに1万円札をくずしておこうなど、両替目的が絡むとき。

④ 電子マネーなどのチャージをレジで行おうとすると現金がいるという皮肉。

⑤ 自分の後ろに並んでいる行列が気になって慌ててしまったり、冬なら寒さで手が滑ってしまったりで、お金を床に取り落としてしまう。

⑥ 強い折癖のついた紙幣を投入してしまったり、斜めに投入してしまったり、硬貨と一緒に投入してしまったりで、お金がレジの中で詰まってしまって復旧に多大な時間がかかる。

⑦ ⑥のケースでも、既にレシートが排出されていれば、他のところから現金を用立ててきて釣銭をやり取りして、お客が帰った後でレジを復旧すればよさそうに思うが、レシートがなければ、お客の言いなり(いくらいくら投入した、例えば万札を入れた等)でお釣りを渡してしまってよいものだろうか?セルフレジでなければ、店員さんがお客からお金を預かるので、基本的にいくら投入したか分からない、という問題は生じないと考えられる……いずれにしても、ひとたびレジが止まってしまったら、そのレジはしばらく使えなくなる。当然、その復旧作業に店員さんが一人取られる。

⑧ 実際にやってみれば分かるが、そもそも紙幣を投入口に差し入れるのが意外と難しい。少し大げさだがある程度慣れてコツをつかむ必要がある。お金を扱い慣れた店員さんのようにはなかなかいかない。

                               等々 



 こうして見てくると、セミセルフレジは、決済プロセスのストレスフリーという観点からは、まだまだ発展途上のセルフレジであり、必ずしも時短と結び付かない場合もあることが分かる。そして、その大きなネックとなっているのが、その良し悪しは別としてキャッシュによる決済、根強い現金主義であることは明らかだ。
 現金決済には、アナログな故に様々なコストがかかる。時間的なコスト、ロスはもとより、現金を取り扱うための人件費、盗難対策費、デジタルのように履歴が自動で残らないのでデータを手入力しなくてはならない、等々……
 また、先述した電子マネーのチャージに時間がかかったり、スマホにバーコード決済の画面を出すのに時間がかかったり、といった問題は、オートチャージやプログラムの更新などで、デジタル的に改善しうるが、アナログな現金ではそうはいかない。

 皮肉なのは、コンビニのセミセルフレジにとってキャッシュレス化が時短のカギを握っている一方で、今や全国のコンビニがATMの併設された、現金を出し入れできる、まさに現金主義の牙城となっていることだ。
 セミセルフレジ、セルフレジの進化、日本のキャッシュレス化の進展からは目が離せない。



#日経COMEMO #NIKKEI

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