見出し画像

『受け入れられし者』と『招かざる者』~社会と課題を共有する企業~

 最近の日経電子版に対照的な2つの記事が出ました。【アップルがCES会場の広告に込めた意味】と【アマゾン、「還元」で社会と溝 NY「第2本社」撤回】です。


 個々の企業の問題はさておき、一般論として、社会から受け入れられるか否かは、その企業にとって、企業の使命・目的・方法(経営手法など)の正当性、企業の存在意義と密接に関連する最重要事項であるはずです。企業の存在意義が、社会課題・生活課題へのソリューションの供給にあるとするなら、必然的に、社会と課題を共有することは大前提となります。企業が、自ら社会課題(公害・個人情報漏洩など)を作ってしまう、自らが社会課題となってしまう事など、そもそもあってはならない事なのです。

 例えば、上記のアップルの事例では、『個人情報保護』という最もホットな社会課題の一つに対して、企業が自らポリシーを持って取り組む姿勢、自らが社会課題となってしまわないよう細心の注意を払う様子が読み取れます。


 これから先、5G(第5世代移動通信システム)の整備が進み、あらゆるモノがインターネットと繋がるIoTが本格的、爆発的に拡がると、クラウド上に今まで以上に膨大なビッグデータが蓄積されていくことになります。AIを使ったその解析が、数々の社会課題に対して威力を発揮する事は明らかですが、その反面で、同じように蓄積されていく個人データをどのように管理するかという問題がある事は言うまでもありません。この点に関する、アップルの個人データ保護の商品デザイン思想には、注目すべきものがあると思います――


(1)『ID・パスワードを入力しないサービス』
   というデザイン

 地図アプリやWebブラウザーを使う時にIDやパスワードの入力がないデザインになっており、個人を特定しない。
⇒『個人情報を最小限しか取得しない』というデザイン思想


(2)『追跡防止機能を備えたサービス』
   というデザイン

 クラウド上で個人情報にランダムな値を付与し、しかも、付与する情報を15分毎に変えていく為、ユーザーの動きを追跡できない。
⇒『ユーザーの動きを追いかけるような広告表示等でユーザーを不愉快に
 させない』というデザイン思想


(3)『ユーザーのデーターを端末の外に出さない
   サービス』というデザイン

 例えば写真アプリには、被写体に何が写っているか判断し、自動的にタグ付けする機能があるが、その処理をクラウド上で行うのではなく、iPhone内部に搭載したAI処理機能で実行する。
『個人情報をクラウド上に送らず、端末の機能を強化して、端末内部で
 処理する』というデザイン思想


 このような、個人情報を集めない・追わない・(クラウドに)送らないという『3ない思想』に基づく商品デザインは、個人情報保護のデザイン思想のスタンダードと言ってもよいのではないでしょうか。

▶個人情報保護の『3ない思想』

(1)個人情報を(最低限しか)集めない

(2)個人情報を追わない

(3)個人情報をクラウドに送らない


 社会と課題を共有し(この場合は個人情報保護)、その解、ソリューションを明快なデザイン思想で自らの商品に落としこむ企業こそが、『受け入れられし者』という称号にふさわしいのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?