見出し画像

今年度おバカ映画大賞受賞『ムーンフォール』レビュー(と、直近の備忘録みたいなもの

皆さま、連日30度を超す暑い盛りでございますが、どのように過ごされておりますでしょうか。私は元々暑いのが苦手なのと、コロナがおっかなくてあまり外に出てません。現在千葉県に住んでおりますが毎日恐ろしい数の感染者が出ております。お隣の東京はそれをさらに上回る数で。取り合えず手前の命ファーストということで、クーラーの効いたお部屋で籠城して毎日を送っています。

まぁそんな中とてもじゃありませんがのんきに映画館に行こうとは思えず、7月には見たいなぁと思っていたものが全く見れておりません。マイティソーの新作もパズ・ラーマンのプレスリー伝記映画も、評判のタイ発ホラー『女神の継承』(プロデューサーはコクソンのナ・ホンジン)とか目白押しだったのですがねぇ。辛いです。映画館から離れてみて思ったのは、私にとって映画館でみる映画というのは、辛い現実から一時的に逃れるための側面もあったなぁと思います。もちろん単純に「好き」だから見に行くのが一番の理由なんですけどね。

しかしコロナに限らず、ニュースなんか見ると、この国はお先真っ暗なんじゃないですかねぇ……と思わざるを得ません。この間の参議院もその結果に私、けっこうがっかりしてましたし。元首相暗殺なんてそれこそ映画みたいな出来事もありましたし。最近、現実と虚構の境目が無くなってきてませんかね。

私個人のお話で恐縮ですがこの春、一身上の理由で仕事を辞めてしまい、今は求職活動中ですが、そっちもあまり芳しくありません笑。今は今で実はそれなりに充実してますが、なんだかんだ言って辛いです笑。秋になるまでにあるていど決めておかないといけなかったりもして、地味にプレッシャーがあります。今の部屋も契約が切れちゃうんで。物価上昇もなかなか私の生活に響いております。税金なんかも高いですよねぇ。

日々色んな不幸がリアルタイムで起こって、じわじわと何かが四方から押し迫ってくるような日々ですが、私には映画はかかせません。栄養剤みたいなものなんでね。幸いなことに今はシネフィルには大変良い時代で、サブスクの配信サービスがある。そのおかげで、なんとかもっている気がするのです。自分の気力とか、希望みたいなもの。楽しく生きてられるのも映画のおかげなのです。

さて、ここからが本題です。そんな折に見たローランド・エメリッヒの新作『ムーンフォール』ですが、私の期待を裏切らず、やたら規模のデカいとんでもバカ映画でした。取り合えず「デカいもの出しておけばいいじゃない」の精神で彼の映画に登場するのは箱舟だろうと侵略者の宇宙船だろうと、地球を破壊する厄災だろうと何事もスーパーサイズになりがちです。で、本作ではいよいよ月そのものが地球に落ちてくる始末です。ムジュラの仮面じゃないんだから。で、何故か月の軌道がある日突然狂って徐々に地球に近づいてくる訳ですが、それだけで地上はてんやわんや。津波は来るわ地殻変動は起きるはで人類はあっという間に滅亡寸前に。ま、このあたりのディザスター映画としての迫力は、『デイアフタートゥモロー』とか『2012』で履修済みなので目新しさはさほどありません。寧ろ物足りねぇなもっと壊せやとこちらが感じてしまう始末で、どうもエメリッヒによって自分のだいじな感覚が狂わされてしまった気がします。

で、肝心の月本体ですが、まぁ普通に考えれば天体がまるごと落ちてきたらいくらなんでも人類に成すすべはないでしょう。しかし、ただ月が落ちてくるのをで指をくわえて待っているだけではラースフォントリアーの鬱映画みたいに暗くなってしまうだけです。よって本作には、随分変な言い回しですが人類が活躍するための逃げ道的な解決策が用意されています。なにしろ、エメリッヒ映画に共通するのは「人類ってすげーんだぜ」的な人間賛歌のメッセージなんで。トリアーの「人間とかクソ」みたいな真逆の諦観はお呼びじゃない訳です。そもそも彼は人類滅亡のドキュメンタリーを撮るつもりは毛頭ない訳ですから。どんな人にも理解できる娯楽作品な訳ですから。あまりに楽観的な純粋な人類への信頼と希望に心を打たれます。今日日声にしたら小学生にも鼻で笑われそうですが、それが良い所なのです。そんなこんなで人類は最後の希望を託したシャトルを月に打ち上げます。なお、このシャトルの発射シークエンスは、エメリッヒの好きな困難に立ち向かう勇気と知恵と熱意に溢れ、作り手の想像力を極限にまで働かせたに違いないと確信させるほどの素晴らしい考証とアイディアに詰め込まれており、皮肉抜きで屈指の名シーンだと断言します(ワンピースの空島編とか言っちゃいけない)。スペクタクルも桁違い、ここはまじ映画館で見たかったですね。

問題の、先に書いたエメリッヒの用意した「逃げ道」なのですが、これがまたとんだ噴飯ものので、Qアノンの月バージョンというか、いやいくらなんでも陰謀論者でもめったに口にしないような無茶苦茶さとスケールで、まっとうな大人ならまず笑いを誘われます。逆に、この映画を見て「実は月って○○だったんや!」と脳みそをアハつかせる人も恐らくおらんだろうと思います。エメリッヒってエリア81の宇宙人研究を堂々と描いたり、中国の奥地で巨大船を作らせてたり陰謀論的なお話を作ってますけど、あまりに大味すぎて陰謀論者も距離をとってる感じがします。ただ本作における彼の「アイディア」は既存作品とは明らかに一線を画しており、今日日SF作家でもこんな原稿書いて編集部に見せたら一発でリジェクトされるか、問答無用で脳病院にぶち込まれるのではないか、というギリギリ感です。そういう子供の思いつきみたいなものを画にして、ぼくたちに堂々と惜しげもなく見せてくれるエメリッヒって、どこか頭がいかれてると思います。後半になればなるほど画のおバカ加減が増していきますが、登場人物たちはあくまでまじめなので一層笑いを引き立てます。

2022年の特撮の技術力で、メリエスの月世界旅行みたいなものを作ってしまうエメリッヒにも、それにばんばんお金出しちゃうスポンサーにも脱帽しちゃいます。描かれるブロマンスとか家族ドラマは結構重厚で思い返すと感動したような気もするのですが、いかんせん印象は薄いです。「そんなのあったかしら?」と私達の記憶も奪いつくすほどの大法螺与太話というのは、本当に珍しくなってしまったな、と思います。今日のSFはリアリティ重視で社会的なものが尊ばれる傾向がありますが、エメリッヒはそんな世間に中指を立てる代わりに、まるで嘲笑うのかのごとくシャトルの天辺にとあるメッセージを記します。この人はつくづく頭がいかれていると思います。

恰も我々へのファンサービスかのように、最後にはエメリッヒの大大大好きな自己犠牲、特攻も勿論用意されております。『インディペンデンス・デイ』や『デイアフタートゥモロー』のスペクタクルや大法螺に心を奪われたすべての映画小僧たちが求めるものが、この『ムーンフォール』にはみっちみちに詰まってます。それ故にどこか既視感に溢れている気はするものの、かなり満足感が高かったです。なんだかんだ笑えたし、元気ももらえたし。エメリッヒよりもバカな真似をするクリエーターは数こそ少ないもののいないことはないのですが、確か今年は何も発表しないはずなので、少し早いですが、今年度のおバカ映画大賞はこの映画にあげようかなと思います。



この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?