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絵描きの夢日記語り 5 〜無機質な涙〜



無機質な涙


夢から醒める前にそのさなぎに伝えて
言葉の魔力をあたしから奪わないで
瓶に詰めて持っていかないでと


あのね
あなたが久しぶりに夢の中にいたから
無機質な歯みたいなとこで胡座あぐらかいてさ
灰色の大きな蛹を抱えてるから

夢の中だって知ってる
あたしを緩やかに締め出したあなただもの
鍵もかけないほどあたしを信用して
扉を開けたままのあの部屋から
あたしを追い出したあなただもの

だから言ってしまうわ
魂の質量分湿ってる蛹を何故?
何故あなたが抱えてるの?
あなたには関係ないことなのよ

動けない蛹灰色
あたしから言葉を釣りあげないで
空気に触れたら錆びてしまう
脳味噌に刻む言葉のストック
蛹の形成で溶けてしまったのね多分

夢だから言ってしまおう秘密
夢だから聴こえないかな真実

あなたには専ら関係ないことなのよ
でもあなたがその蛹を抱えてるから
……ね
言ってしまうわ


その人は無機質な言葉が好きだった
無機質に見えるものを信用していた
だから余計な飾りは要らない
だからおっぱいは小さい方が良いと言った
質量に変換できる魂は物質なのに
神に祈る君は馬鹿だなと言った
奇跡を信じる君は馬鹿だなと言った
でもあたしはその人がwetだと知っていた

その人とゲームをした
「愛してる」
なんて感情的な言葉をまるで使わない
物質的言葉と動作を示す言葉だけで
「愛してる」を表現する会話を繋いだ

犬歯でHeinekenの蓋を開け
細い喉に中身を流し込んで
空瓶にその言葉たちを詰め込んで
風速5m/s
パラグライダーで空から海に落とすの

海底に沈んだ瓶から
その言葉たちが泡に変質して溶け出すの
溶け出した瞬間その境目は誰にもわからない
グラデーションの妙
空高く昇った言葉入りの粒は
雨になってここに戻ってくる
そんな永遠
ちっとも無機質じゃない

無機質であるように生きたかったのよね
感情に流されないように
誰よりも人恋しかったくせに
なのにその人のまわりは華やかだった
でも無機質を好んだの
その人が死んだの
無機質な詩をたくさん遺して
どう? 死んでみて無機質になれたの?
いいえ
全く感想を訊いてみたいものね
無機質どころか
真っ向逆さま蛹になったじゃない
有機の塊

その人のことがずっと前に好きだった
灰色の醜い蛹なんて予想外
だけど
一度は好きになったその人のこと
ちゃんと憶えておこうと思ったの

誰かにずっと言いたかった
誰かにきいてほしかったの多分
あなたが偶々たまたま夢の中で
灰色の湿った蛹を抱えていたから
涙も零さず言ってみただけ多分

寂しいから
次の世界は多分ないから
あたしを追い出したあなただけど
一度は好きになったあなただから

多分その人よりもね

だから言ってみただけ

多分



だから


無機質な涙

M 8号 油彩ほか


画像は、今年の9月に上野の東京都美術館に出品予定の未発表作品の一部です。
テーマは「怪物シリーズ」の部分になります。

展覧会、ご興味ある方は観にいらしてくださいまし〜♡

とはいえ……お盆の夏休み中に概ね仕上げる予定が、大変な咽頭炎に見舞われて、すっかり寝盆休みになってしまいました(泣)
見事に筆を持ちませんで、大工仕事も全く進捗せず……クスン
ラストスパートがんばるぞぉ!
(まあ、ひろ生の作品の場合、どこが終わりとかほぼなくて、自分が納得するかどうかの基準になるので、何とかなるのであります 笑)



招待券ございますので、もしもご興味ある方は御一報くださいまし♡



言葉を降らせようぞ


夢語りシリーズです
夢よ夢なのよ笑



いつもありがと〜



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