【対談】福祉は他者の人生に伴走する仕事ーこれからの福祉を考える
1人目は大学時代から子どもの居場所支援にかかわり続け、現在は発達障害を持つ子どもたちに関わる仕事をしているはるさん(仮名)です。
気持ちが通じ合った瞬間に嬉しさを感じて
ーー発達障害を持つ子どもたちに携わる仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
大学生の時にしていたNPO法人でのボランティア活動で、発達障害を持っていて、他者とうまく関係を築いていけない子どもに出会ったんです。
発達障害の知識がなかったので、その子のことが理解できなかった。なので、こういうことで苦しむ子に携わりたいと思いました。向き合うのが苦しく、泣いたこともあったけれど、それを諦めたくないと思っていて。
ーー苦しさを感じる中で、どうして発達障害を持つ子どもたちに携わる仕事をしたいと思ったのですか?
その子と気持ちが通じ合った瞬間に喜びを感じていました。理解できないことも多い中で、私がその子のことを理解しようとしている気持ちが通じているから、向こうも私のことを好きになってくれることが多く、それがとても嬉しかった。
人と関わることは自分と違う考えや価値観に触れること
ーー今話してくれた中で、「自分と違う」という言葉がキーワードだと思いました。「自分と違う」ことをどう捉えていますか?
「自分と他者はみんな違う」と思っています。発達障害を持っていること、貧困家庭出身であること、違う国に住んでいること。それは私にはあまり関係なくて、同じ環境で育った人でも考え方は異なると思うんです。人と関わることは自分と違う考えや価値観に触れることですね。
ーー違いに触れたときには様々な感情が芽生えると思うのですが、はるさんはどう感じますか?
「おもしろい」と感じますね。その子が自分とは違う世界の捉え方をしていると分かった時は、とても興味を惹かれるし、「なんかいいな」と思います。
理解できない言動にイライラを感じたり、落ち込んだりすることもあるけれど、言動の背景を知ると納得できるので、そこを理解したいんです。違いがある中で「一緒にいる時間が楽しい」瞬間はとても多くて。
ーー全てを理解し合えなくても、「一緒に時を過ごす」喜びがあるんですね。子どもと一緒に過ごす中で、特にどんな瞬間が好きですか?
子どもが、学校や人生の悩みを話してくれる時ですね。自分がアドバイスをあげられるわけではないけれど、モヤモヤを話すこと自体がとても大切だと思うので、親や学校の先生、友達にも話せない気持ちを自分にシェアしてくれたときはすごく嬉しいです。
単純に子供と遊んでいる時間、お互い好きなことを共有する時間が楽しいんです。最近だと、小さい子とごっこ遊びをしたり、中学生の子とお互いをいじりあったりした時間が楽しかったですね。(笑) 福祉はネガティブなイメージが強い中で、ポジティブな瞬間も多いんです。
目の前の子どもに向き合い続けたい
ーー子どもたちと関わる中で得た気付きや学びはありますか?
発達障害の程度や個性は均一ではなく、1人1人違うことに気付きました。同じ障害を持っている2人の子でも困りごとや個性は異なっているので、障害と一括りにできなくなった。発達障害を持っていることはその子の一部でしかないんです。
ーー福祉は様々な社会的背景を持つ人と出会う場なので、個人はいろいろな要素があって複雑だということに気付ける場なんですね。
ーー子どもたちと関わっていく中での難しさや葛藤はありますか?
自分とは異なる経験の中から生まれた苦しみを抱いている子どもたちに、「自分が何ができるか」という視点で考えると苦しい。「自分がやってあげられることがある」と考えるのは傲慢だと感じます。無力感は福祉の仕事を長くしていても消えないと思うけれど、それが悪いとは思わなくて。
福祉は様々な機関が連携し合って成り立っているんです。間接的に必要な支援に繋ぐ仕事もあれば、実際に子どもと日常を過ごす支援もある。子どもと一緒に日常を過ごしていく、人生の道のりを共に歩いていく。それが私のしたいことです。
給料が低いことで自分の仕事に誇りを持てなくなった時期があった
ーー福祉の仕事をしていく中で、社会に生きる1人として違和感を感じたり、モヤモヤしたりすることはありますか?
お金の面での不安がとても大きいです。旅に行く、猫を飼う、本をたくさん読む。自分のやりたいことを叶えながら生きていくためには、今の仕事をずっと続けていく選択はできない。自分や家族が病気になったり、子どもを産みたいと願ったり。将来を考えると、いくら好きな仕事でも、続けていくのは難しいです。
ーーここでしか話せないと伝えてくれたと思うののですが、どうして周りの人たちには言いにくいんでしょうか。
大学を出たら給料が高いところに就職する。みんながそう願う中で、私のように給料が低い仕事を選ぶ人はあまり多くはなくて。なので、私の悩みを話してもみんな困ってしまう。私自身も、感じなくていいはずの恥ずかしさを感じたり、自分を下に見てしまい、苦しくなってしまうんです。
ーーはるさんが今言ってくれたことは、福祉業界の社会的地位が低く捉えられていることに繋がると思っているんです。
福祉の仕事はお金と働きが見合っていない。給料が低いことで自分の仕事に誇りを持てなくなった時期もあって。私は自分の仕事が好きで、友達に仕事の話をしたりもする。でも、私の仕事はあまり世の中に認知されていないんです。
ーー組織の中で働いていて感じる違和感やもやもやはありますか?
株式会社なので、行政と違って利益を出すことを大切にしている。なので、数字を求められるんです。本当に必要な支援に結びつかないと感じることもあるので、もやもやしますね。
福祉を主体として会社を運営していくことが大変だからこそ数字が求められるんだと思います。福祉は行政からの支援金で主に事業を行っているのですが、行政からの支援金は基本的に少ない。なので、数を取らないと従業員も雇えず人手不足で、ボーナスもあげることができず、離職してしまう人も多い。福祉という業界で会社を続けていくことの大変さを感じています。
福祉の仕事を長く続けていける社会に
ーーこんな社会になっていったら、働く人も支援をうける人も、ひとりひとりが幸福に生きていくことができる。そんな視点で、はるさんが描くものを教えてください。
福祉の仕事を長く続けていける社会になってほしいですね。続けていくためには自分を大切にできて、生活の基盤を作っていけることが必要です。
福祉のことをもっとみんなに知ってほしいんです。福祉は他者の人生に伴走する仕事。人と深く関わって、一緒に生きていくことって本当に素敵なことだと思うんです。
福祉は「他者の人生に伴走し、人の深い部分に触れる」仕事。そんな認識が少しでも広まればいいと思います。
(聞き手:彩)
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