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ホルスタイン太もも

正月、実家で家族と話しているときに、
「足が太いんだよねー」
という話になった。

妹は、
「えー?そう?そんなイメージないけど?」
と言ったけど、
私の足へのコンプレックスは、昨日今日始まったことではない。
小学校一年生の頃からだ。

小学校一年生なんて、自分の体型がどうだとか、
そういうのは全然興味がないというか、別に気にしていない年齢だと思うでしょ?

それは違う。
少なくとも私は違った。

自意識が芽生え始めて、集団生活が始まり、
人生の中で、初めて“人と比べる”という経験をする。
あの子の服が可愛いな、とか。
あの子の家はお金持ちなんだな?とか。
だってグランドピアノがあるからね。とか。
そうか、うちには普通のピアノしかないもんな。とか。

人と比べ、自分がその人より劣っているか、優っているかを意識し始める。
「人は人、自分は自分」
と教わるけど、心の中で、
誰かを羨ましく思ったり、逆に誰かのことを気の毒に思ったこともあったかも。
そうやって、自分と、他人の境界線を少しずつ作り始める。
小学生って案外大人だよね。
私にとっての、その第一歩が、
小学校一年生の運動会の練習の時だった。



その日は、運動会の全体練習をしていて、
走ったり、踊ったりではなく、グラウンドに全クラスが集められて
開会式の並び方とか、準備運動の時の並び方とかを練習する日だった。

私は、Tシャツに短パン姿で、真面目に授業を受けていた。
真面目に受けてはいるんだけど、ボーッとしちゃうのが、小学生。
先生の話も長いし、自分が活躍できる場はなさそうだし、
その辺の砂をいじりながら、体育座りをして、自分のふくらはぎを眺めていた。
見慣れた私のふくらはぎ。少し日焼けしているように見えるけど、これは地黒だ。
元々の色が日焼け肌。
「子供は日焼けしているくらいがいいよね!」
と誰かが言ったから、日焼け色の肌が誇らしかった。

私くらい、日焼けしている子は他にもいるだろうか?と、周りを見渡した。

まずは隣の子。私より白い。
そんで逆の隣の子。やっぱり白い。
斜め前の子。まぁ、普通。
その前に座ってる子。まぁまぁ日焼け。
やっぱり私が1番日焼けしていて、いい色だ。
と、ニンマリしたのだけど、
肌の色以外のところが気になった。

“あれ?みんなの足、私の足の形と全然違わない?”

ということだ。

私のふくらはぎは、膨らんでいる。
前々から、ふくらはぎというのは
牛のお腹に似ているなぁ、と思っていたのだ。
よく日焼けした、ホルスタイン太もも。
左右に振ると、牛のお腹の部分がだるんだるんと揺れる。

ところが、周りの女の子の足は、
全然牛じゃない。
それどころか、キリンの首のようにまっすぐだ。

あれ?
と、思った。
私と同じような、
牛のお腹の形をしたふくらはぎの女子は
果たしているだろうか?と、
肌の色を確認した時のように、
左、右、斜め前、斜め前の前、を確かめてみる。

いない。
みんなの足は、私より白くて、細い。
ホルスタイン太ももの女子は誰1人としていない!!!
これは、大変な衝撃だった。

いやでも確かに、疑わしいことはあった。
幼稚園の頃、幼馴染のあっちゃんとプールに出かけた時に、誰かが写真を撮ってくれた。
現像した写真には、私とあっちゃんが並んでいたのだけど、
それをみた誰かが、
「あやかちゃんの足は逞しくて立派ね!あっちゃんなんて棒みたい!」
と、言ったのだ。
それをそのまんま、褒め言葉として受け止めたし、実際褒め言葉だったと思うのだけど、
その時気がつくべきだった…!!!

それに、母も悪い。
「あやちゃんの足はお父さんに似て、長くて真っ直ぐでいいわぁ」
なんて言って、足をやたらと褒めてくれたりしてたから、そうなんだと思っていた。
母は、いつでも私のことを褒めすぎなのだ。

正直もう、運動会の練習なんて、どうでもいい。
今すぐ短パンを辞めたい。
今すぐ脱ぎ捨てて、長ズボンを履きたい。
どうして、今まで恥ずかしげもなく、足をだしていたのか!
顔を真っ赤にして、悔やんだ。

大袈裟じゃなくて、
小1の私にとっては、そのくらいショッキングな出来事だったのだ。

で、それ以降私は、足を、ほとんど見せずにこの年までやってきた。

どんなにダイエットをしても、絶対に細くならない私の足は、
いまだに、
左右に振るとだるんだるんと揺れる、
ホルスタイン太ももだ。


と、いう話を、
熱く妹に語ったところ、

「へぇぇ、よく覚えてんね」

で、話が終わった。

いや、そうなのよ。
人にとって、私の足の太さなんて、私が気にしているほどのことではないのだ。

実際に、小学生の頃の私の写真を見たって、別に太いとは思わない。
何をそんなに悩んでいたのだろう?と、思うし、
大丈夫だって!短パン履けって!
と、慰めて抱きしめてあげたい。


だけど、この時自分に根付いてしまった
“私の足は他の人より太い”
というコンプレックスが呪縛みたいに、いまだに私を悩ませている。


そんな話をしていると、そこに母がやってきた。
何を言うのかと思いきや、

「あやかの足は、お父さんに似て長くてまっすぐだけどねぇ」

だった。

母は心底そう思っているのだ。
30年前の私の太ももも、
30年後の私の太ももも、
母にとっては、可愛い娘の太ももなのだ。
その証拠に、いつだって、わたしを、私の足を、褒めてくれたじゃないか。


変わらずコンプレックスを抱き続ける私と、
私の足をやたらと褒めてくれる母が、
なんだか、やたらと可笑しかった。

「私さ、足だけは細いんだよね」

と言いながら自慢げに足を出した妹を小突いた。

私も、長くてまっすぐなホルスタイン太ももを、もっと愛でてあげてもいいのかもしれない。

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