身体症状症 概説とサテライト型包括的医療の提言④-心身症の参照より-

心身症というものについて一考し、ここからみえてくるこころとからだ、更には身体症状症の方の苦悩を推察します。
心身症とは、まさにこころがからだという場で展開してゆくような疾病の一群で、精神科でも扱いますが、むしろ内科や心療内科が得意な領域です。
「身体疾患の中で、その発症や経過に心理・社会的 因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義されます。
*心身症 東京大学大学院 ストレス防御・心身医学 熊野宏昭http://hikumano.umin.ac.jp/PSD.pdf

なにかしらの身体的基盤・脆弱性(遺伝的要因や体質)があり、ストレスがかかった中で、持病が重くなったり再燃を繰り返すこと場合、「心身症」と呼びます。あくまでも身体疾患であり、その症状の程度にこころの影響が大であるものをいい、精神疾患の身体症状(こころの病気によりからだの症状が出ているもの)は除外します。
病名というよりも、治療の在り方に関する概念だと捉えていただくと解かりやすいです。

例えば、各種アレルギー、高血圧、起立性低血圧、胃炎や胃潰瘍、過敏性腸症候群、喘息、糖尿病、高血圧など、疾患自体は急性に誰にでも起きうるものなのですが、これが長引いたり繰り返されたりする中で、ストレスと、患者本人の認知やコーピング(ものの考え方や対処方法)がうまくいっていないという時に、心身症として扱う、といった具合です。
主に心療内科や心身医学での心理療法を行う心理職が治療にあたりますし、心療内科は漢方治療を扱うことも多い診療科です。

ここで、心療内科と精神科の違いについて説明をさせていただきます。
日本の医療では、その医師の初期研修と専攻が何科であっても、診療科を標榜する際に、何科を名乗ってもよいという規則があります。
昔は、心療内科というものはなく、主に内科の先生が経験則を集積して、先述したような心理的な問題に気づき、からだと同時にこころをみる、という内科医療の「在り方としての“心療内科”」を提言されました。この取り組みにより、日本の医療の中に心療内科という診療科が誕生し、精神科の知見も取り入れ、独自の発展をしてきました。これをここでは狭義の心療内科、と呼びます。このような心療内科では自律訓練法、系統的脱感作といった、行動をすることによってこころを安定させるリラクゼーション法という心理技法を重要な手技にしてきた経緯があります。そのため近年興隆し活発に行われている認知行動療法に非常に親和性があり、認知行動療法を主とするような精神科と近接するようになってきました。

現在では、メンタルヘルス関連の診療所・クリニックは「精神科・心療内科」あるいはどちらかを標榜していますが、医師のご来歴をみれば、より精神科寄りであるのか、より内科寄りであるのか見当がたてやすくなりますので、参考になさってみてください。
どちらであっても心身症の一次対応は一定以上に可能です。

心身症とは、まさしく現象学的にからだの不調がこころの場になっている身体疾患です。該当する疾患はどれも「子どもの時から胃腸が弱くて、、、(慢性胃炎、胃潰瘍、過敏性腸症候群)」「先祖代々血圧が高くて、、、(本態性高血圧)」「風邪をひくと長引きやすかったが、〇才の時に風邪の病み上がりにめまいがして、、、(メニエール病)」といった具合に、疾患それ自体は急性、一時的にはたいていの方が思い至る不調です。
内科や耳鼻科、場合によっては整形外科で診断がつき、服薬も含めて治療をし、多くの人は一過性の不調として治癒、あるいは症状がコントロールされます。
しかし、「多忙の中、若干心配性な人が胃炎になり、不調があることで更に気が高ぶり食欲が落ち、更に悩みごとを増やすことになり、調子が悪いのでマイナス思考が強まり、そうこうしていたら昨日も忙しく、心配事やイライラした件を思い出し、胃が痛くなってきて服薬してもなかなか治らず・・・」と示すと、心身症といわれている方の体験を追体験しやすくなるかと思います。
心身症の場合には、時に一歩一歩とゆっくり進むものであったとしても、まずはからだの不調の診断がつき、治療方法もあり、心療内科学としては様々な補助的治療(各種心理療法)や漢方薬の併用、時には精神科薬の使用、といった様々な方法がある程度確立しています。
その点においては、患者さんは受診さえしてしまえば「引き受けてもらえる」「治療方法もいくつもある」「不調がコントロールできる」という治療ルートに乗りやすくあり、必ずしも心療内科に受診せずとも、内科や耳鼻科、整形外科などの各科の医師が行動療法的、認知行動療法的な助言を、知識によって、あるいは経験則の集積として行っていることも多々あります。
日本古来の生薬や漢方薬の市販品も数多くあり、(〇〇漢方胃腸薬や、〇〇の母、など)、これらも心身症の場合には一定以上に有効で、受診の前にひとまず試してみるのは全く悪くなかろうと思われます。多くは、不調箇所の抗炎症と、末端の血流を良くして回復を促進する、という内容です。

このような心身症を参照すると、身体症状症の方の苦悩が理解しやすいかと思われます。
不調が起きて受診をしても、はっきりしないが症状がある、という中で、「わからない」「検査をしても異常がない」、場合によっては「からだに異常はない」と言われ、しかし具合は悪くこころも弱まっている中で、もし精神科の受診のすすめがあったとしても、「からだに異常がないからメンタルヘルス科に行け、精神科か心療内科だ」というメッセージに感じられた場合には、戸惑われるのももっともです。
内容それ自体は間違いではないのですが、精神科や狭義においての心療内科それぞれの特徴が必ずしも身体科の医師に共有されているわけではなく、また精神科では脳内バースト状態として身体症状症を扱い、また不調が起きていることによって増強されてしまった思考(認知、感情、行動)の問題をみる、という身体症状症の治療方法もまた、必ずしも身体科の医療職に共有されているわけではありません。

こんにちでは、「誰もがメンタルヘルス疾患患者になりうること」を否定する人は少ないかと思います。「メンツで強がって悪化させているくらいなら、あれ?と思ったら受診してしまって意見を聴いてみる」という患者さんや、であるならば投薬はせずに何度かの受診での問診や助言で経過をみる、という医師など進歩的な方が増えているのも事実ですが、依然としてメンタルヘルス科に対して医療職・患者さんともに誤解が多いのも、また事実です。
このような医療職-患者さん双方の誤解がまた身体症状症の方の専門加療と回復を遅らせる一因となります。

数々の治療法がすでにある程度確立され、一般身体科の医師にも方法論が相当程度共有されている心身症も、こじらせてゆくと身体症状症化することがありえます。
身体症状症の特徴に、不調への過剰な注意、というものがあるのですが、これは心身症にも通じるところであるためです。
生き物は全身に神経が行き渡った生き物で、破壊と再生を繰り返しながら生きています。とても注意をこらしてゆくと、からだのどこかしらにささいな痛みや違和感があるのは当たり前なのですが、心身症の方や身体症状症の方は、脳が高ぶり、不調に気づきやすく、注意をむけやすく、従って不調を感じやすくなっています。
本来は「もともと線がほそく首肩腰が凝りやすいのだが、肩凝りが多く、疲れたところに悩み事が重なって頸肩腕症候群になった(心身症)」だった方が、「からだの痛さに振り回され、その苦痛や心配もあり無理をしてしまい、そうこういっていたら頭痛がしてきて、ある日ありえない頭痛で起きだすのがしんどくなり、寝ていても頭が痛く寝ていること自体で体が凝って疲れてしまい、そうこうしていたら胃腸のあたりが重だるいような感じになって、胸もふさがれるし、からだの検査をしても今一つ原因がわからず、鎮痛薬を飲み、胃薬を飲み、気持ちも沈み、仕事や学校に行くのがどうにもしんどくなってきて、、、」となってくると、身体症状症です。

なにごとも、しばらく休養モードで生活して回復しない不調は、早く治療をした方が治りも回復の程度も早いのはもっともであり、医療職に対しても、患者さんに対しても、からだの治療や回復における精神科、心療内科の役割を伝え続ける必要がある所以です。

*参考文献
一般社団法人 日本心身医学会 ホームページ
http://www.shinshin-igaku.com/about/about.html

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