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月夜の想い出

 小学生の頃、今日はお月見だ!と学校から帰った後、すすきを取りに出かけた。あてがあったのかなかったのか、野原を分け入っていけば、どこでも、いい感じのススキがあると信じていた。

 そして、いつもは行ったことのない、奥へ奥へと探検した。

 理想のススキを求めて(⋈◍>◡<◍)。✧♡

 そして、ついにいい感じのススキの一群を見つけた!
「やったー!」
 掴んで引っこ抜こうとしたが、切れない。

 そうか、こいつらを持ち帰るにはハサミが必要だったのか!

 ススキを取る段になって気が付いたがもう、遅い。

 持って帰ろうとしも切れないススキをどれだけ持って帰れたのか?

 全く覚えていないが、とにかく、見つけるのにも、見つけた後も手こずって、いつもとは全く違う遅い時間に家に帰るハメになった。

 どんどん日が暮れてくる。やばい、叱られる。
 お母さんがまだ仕事から帰ってきてなきゃいいけど。

 案の定、玄関に、母は仁王立ちになり、
 ゲンコツを構えていた。

 ゲンコツを食らって、泣きながら、どこかに向かって走った。 
 それはいったい、家の外だったのか?ナカだったのか?

 あとから考えると、どこかで遊びほうけていたわけでもなく、家でのお月見のために、ススキを取りに行ったという、どこか殊勝な理由である。
 遅く帰っただけで、ゲンコツ食らうのも、最もだけれど、
 お母さん、理由を聞いてからでもよくない?

 そんな質問を母に向かってしたのは、母と対等に話せるようになった大学生時代。

 母は言った。

「うちにはお父さんがいないからね、両方を1人でやる必要があったの。
 優しい母親と、怖い父親をね。1人2役でさ。」

 そう言って、けらけら笑った。
 本当は陽気な母のこと、かなり無理して怖い母を演じていたに違いない。
 そうか、子供だから、ケロッと騙されてた。

 ゲンコツを構えたお母さんは、本当に、恐怖だった。