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甘すぎるプリン

 固いプリン。柔らかいプリン。キャラメルソースの絡むプリン。ミルクの味が濃いプリン。
生クリームをのっけて。ぷっちんとお皿に出して。果物と一緒にパフェとして。餡こを添えて和洋折衷に。なにもせずにそのままでも。

 プリン。それは愛しさを形にした甘味。

※※※

 先日、二歳の子どもが風邪で熱を出した。もしかしたら、人生初の高熱だったかもしれない。
 病院に連れていったら喉がひどく赤いということで、なになら栄養価が高く、痛み少なく食べられるかなと悩み。
 一番に頭に浮かんだのは、プリンだった。
昔から、わたしの実家では具合が悪いとプリンを食べさせてもらえた。具合が悪いときに、喉ごしの良いプリンの甘味は、なにより心に元気をくれる。

「ちびさん。病院がんばったから、帰りにプリン買おうか」
「ぷりんー!」
 子どもの歓声を受けながら、帰り道のコンビニに入る。プリン、と一口に言っても、種類はいろいろだ。風邪をひいているのだから、栄養価の高いプリンが良い。原材料をみながら、卵が一番先頭にきているものを選ぶ。値段は他のものよりちょっとお高めだが、栄養食だと思えばまぁ仕方ない。

 車に戻るなり、子どもがまたプリンプリンと騒ぎ出す。おうちに帰ったらね、となだめながら発車する。
 プリンのおかげかは分からないが、子どもの熱はそう長引くこともなく、次の日には食欲も出てきた。

 前に別のノートでも書いたが、我が家では鶏を飼っていてその卵を食卓に出している。「卵たっぷりのプリンは買うと高いなら、作れば良いじゃない!」――ということで、元気になった子どもとプリン作りに挑戦した。

 材料は、卵二つと牛乳200ミリリットル、きび砂糖50グラム。
 「コンコンしたぁい」と言う子どもに卵を渡すと、それなりにそれっぽくボールに割り入れてくれる。ぐちゃっとなっても、どうせ混ぜるものだから良かろうと、二つともお願いすると満足げだ。

 材料を全部入れて、ひたすら子どもが小さなサイズの泡立て器でまぜまぜまぜ。それを離乳食作りに使っていたザルでこすのだが、だんだんと滑らかになっていくさまが、なんだか楽しい。ザルからさらさらと流れていくプリン液を、子どもも覗き込んでよぉく見ている。

 小さい耐熱容器に三等分して、最後は電子レンジで1分ちょっとずつチン。その間、子どもはレンジに向かって「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ!」と魔法をかけてくれる。魔法にかかったプリンは途中、ぷくりと膨らみ、そこでレンジを止めればオッケーだ。

 レンジから出てきたプリンはまだゆるゆるで、きび砂糖で作ったせいで市販のプリンとは違い、陽射しに焼けた健康な小麦色って感じだ。まぁそれもそれ。離乳食を食べている下の子用に、黄卵とミルクで作ったプリンとあわせて冷蔵庫で冷やせば、いよいよ完成だ。

 冷蔵庫にあるプリンを、子どもは「早く食べたい」とうずうず。「家族がそろったら、夕ごはんのデザートに食べよう」となんとか言い聞かせ、待ちに待った晩ごはんタイム。

 「今日はちびさんがデザートを作ったよ!」と切り出すと、「ぷりん、ぷりん!」と騒ぎながら子どもが立ち上がり、台所へ向かっていった。落とさないように慎重に、わたしと子どもの二人で食卓へ運ぶ。

 冷やされたプリンは、できあがりよりも少しかたくなっていて、なかなか良い感じだ。「ちびさんすごいねぇ」と家の人に褒められた子どもは、「うん!」とにこにこ。「いただきます」と一口食べると、頭にまで染み渡るような甘さ。

「美味しいね」
「ちょっと、甘すぎるけどね」

 こそこそと大人二人は喋ったりもするが、子どもは夢中で食べている。

「また作っても良いかもね。今度は、砂糖ちょっと減らして」
 そんなことを言いながら、また一口、甘過ぎるプリンを頬張る。幼い子どもが一生懸命に混ぜて作ったプリンは、幸せの味がした。

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