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雑記|読書感想文 「華氏451度」(1953年/レイ・ブラッドベリ) 

昨日、映画感想文でトリュフォーの「華氏451」を投稿しました。
改めて原作を読み直して見ると、小説は小説として好きな部分があったので、映画感想とは別にまとめてみます。


①昇火隊長ベイティーについて

昇火隊長のベイティーは、主人公モンターグの上官にあたる人物として登場します。本を焼くという昇火士の任務に誇りを感じている、軍人のような人間です。

「…火とはなんぞや?謎だ。科学者は摩擦がどうのこうの分子がどうのこうのとご託を並べるが、あいつらにもほんとうのところはわからんのさ。その真の美は、責任や因果関係を破壊してしまうところにある。問題が重くなりすぎたら、炉にぶちこめばいい。…」

「華氏451度」(早川書房)P194〜195

モンターグに本の所持に関する疑惑がもたれるようになってからは、嫌味を言って脅し、最終的にはモンターグを逮捕しようとします。しかし、モンターグは火炎放射器でベイティー隊長を殺害してしまいます。モンターグは、その時はベイティーを憎んでいたことは間違いないでしょう。

「いつもいってたよな、問題と向き合うな、燃やしてしまえって。おれは両方ともやってのけたぞ。さよなら、隊長。」

「華氏451度」(早川書房)P204

しかしその直後、ベイティーはわざとモンターグに殺されたのだ、と気付くのです。

ベイティーは死にたがっていた。
泣きながら、モンターグはそう確信した。ベイティーは死にたがっていた。あいつはただあそこに突っ立っていた、本気で身を守ろうともせず、突っ立って、ジョークを飛ばし、チクチクとおれをつついていた。

「華氏451度」(早川書房)P206

さて、ベイティーがなぜ死にたがっていたのか、その理由は明らかにされてはいませんが、個人的にはこうではないかと思っています。
ベイティーの発言には数多くの本の引用が含まれていました。モンターグに嫌味を言う時にも、シェイクスピアなど様々な本の一部が散りばめられている。それはなぜか。彼もまた、本を愛する人だったからなのではないでしょうか。
モンターグのように、任務を通じて本の素晴らしさを知るようになってしまった。しかし、昇火士として生きていく上では公に本を読むことはできない。隠し通すしかない。そうするうちに、これ以上矛盾を抱えたまま生きていくことが辛くなり、一生を終えるきっかけを探していた・・・・

定かではありませんが、モンターグとベイティーの関係には何か深いものがあるように感じました。ベイティーは殺される直前、モンターグのことをたった1回、ファーストネームで「ガイ」と呼びかけます。きっと、モンターグに対して何かしらの意図があったのだと思います。
2人の人間ドラマも、この小説の好きなポイントです。


②誰かが亡くなる時に思うこと

本筋とはあまり関係ないのですが、書物人間のグレンジャーとの会話でこのようなものがあります。

「わたしの祖父は、わたしが子どもの頃に亡くなったんだが、彫刻家でね。…その祖父が亡くなったときに、ふいに気がついたんだ。ぼくはおじいちゃんのために泣いているんじゃない、おじいちゃんがしてくれたことのために泣いているんだ、とね。…」

「華氏451度」(早川書房)P259

私は12歳の時に父親を亡くしており、このグレンジャーの気持ちが本当によくわかります。
子供の頃はよく家族旅行で釣りやキャンプに行きましたが、父が亡くなった時に最初に思ったのは、「ああ、もうキャンプには行けないのかもしれない」ということでした。我ながら薄情なのかもしれませんが、父親という人そのものではなく、その出来事がなくなることに対して悲しみを感じました。
グレンジャーはこうも言っています。

「人は死ぬとき、なにかを残していかねばならない、と祖父はいっていた。本でも、絵でも、家でも、自作の塀でも、手づくりの靴でもいい。草花を植えた庭でもいい。なにか、死んだときに魂の行き場所になるような、なんらかのかたちで手をかけたものを残すのだ。そうすれば、誰かがお前が植えた樹や花を見れば、お前はそこにいることになる。・・・」

「華氏451度」(早川書房)P261

きっと、その人がしてくれたこと、その人と一緒にしたことを思い出すということは、その人を思い出していることにもなる。そう思って、私は少しだけ気持ちが和らぐような気がしました。
自分も、死んだ後に誰かに思い出してもらえるような存在になりたいと思います。

小説も映画もそれぞれの良さがあり、ふとした時に思い出して見たくなる作品です。

▼映画感想「華氏451」はこちら。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ではまた。


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