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【小説】繋 ~SNSがツナグ恋~

ピピピピッ ピピピピッ 

遠くから聞こえてくるアラームの音。

「もうこんな時間…」

まだ眠くて開けきらない目を片目だけ開き、枕元のスマホを手で探しだしアラーム音を消す。
やっと両目をこじ開けてまず最初にすること、それは彼からのLINEチェック。

「おはよう」
「おはよう」
「今日も一日頑張ってね」
「うん、お互い頑張ろう」

こんな何でもないやり取りでも、今日一日のテンションが決まってしまうほど”繋がっている”ことは私にとってすごく大切な事だった。

恋の始まりは、当たり前に繋がれることを喜んだ。離れている時間でもスマホを手に取りLINEを送れば程なく返信が来る。
それに、彼のSNSの中にはいつも私の存在が感じられた。

”彼と私にしか分からない”

そんな写真や動画をアップしてくれる、それがとても嬉しくて、幸せな気持ちでいっぱいになった。

私たちの想い出は“幸せの一コマ“となってシェアされていく。
いいねが付くたびに私達に二人に拍手を送られてるような気がしてとても嬉しかった。
あの頃、二人のSNSは”秘密共有アカ”と化していた。


傍に居なくても、会えなくても、いつも繋がってることで安心できる。
そんな毎日が当たり前に続いてくと思っていた。


そんな私達は互いに仕事が忙しくなり、会うことはおろか、連絡すらもまともに取れない日が増えていく。

彼からのメッセージで始まっていた毎日が、一日空き、三日空き、気が付くと一週間なんて普通に空くようになっていった。
繋がってることが当たり前になってしまうと、繋がれない時間はいとも簡単に彼への不安へ変わっていく。

”会いたい”
 ”声が聴きたい”


たったそれだけのこと。
それが叶わないだけで日増しに不安だけが心の中を埋め尽くしていった。


ある朝、久しぶりにスマホの通知音で目が覚めた。
「もしや」と思い通知を見ると、久しぶりに彼からのLINE。
嬉しい気持ちと、その何倍にも大きく膨らんだ
不安だらけの心は一瞬、アプリを開くのを躊躇った。

思い返せば今まで何度
彼に一方通行なメールをしてきただろう。

”どうして会ってくれないの?”
”なんでLINEくれないの?”


そんなメッセージばかり送る私を彼は一体
どう思っていたのだろう。

そんな事を考えながら恐る恐るアプリを開く。

「仕事で3ヶ月海外に行くことになった」

そう短く書かれていた。
たったそれだけ。

”元気にしてる?”

とすら書かれていない。
絵文字も何もないそっけない文章。

思わず涙が溢れた。

私は彼にどう返信していいのか悩んだ。
ふと、更新されてないだろうと思いつつ
毎日チェックしていたアプリを開いてみた。
するとめずらしく新たに投稿が。

そこに…

私ではない、誰かの隣で笑う彼がいた。

ーーーーー。

涙が溢れこぼれ落ちる。
拭っても拭ってもこぼれ落ちる涙を止めることは
心の中が不安たらけだった私にはできるはずも
ない。

私はこれ以上傷つくのが怖くなって彼にメッセージを送るのをやめた。

”彼がいなくても大丈夫”


私は自分にそう言い聞かせた。
もちろんそれが私の本心ではなかったけれど。

言っていた通り、彼は海外出張へと飛び立った。
それを知ったのも彼のSNS。

もう彼は私の傍にいない。
私は自分なりの楽しみを見つけ、その様子をSNSに投稿するようになった。
少しでも彼の事を考えないでいられる時間が欲しかったから。

するといつの間にか彼が私の投稿を見てくれるようになった。
もちろん私も彼の投稿を見ていた。

”今こんな所で仕事してるんだぁ”

海外に居る彼の様子をSNSでうかがい知る。
「元気でいるんだ」
様子が分かって安心できた。
だから、私も自分の元気な様子を投稿した。
もしもまだ、彼が前と変わらない気持ちで
いてくれていたら、きっと安心してくれるだろう、そう思えたから。

彼を少しでも忘れられる時間が欲しくて始めたことが、いつの間にが
彼を想う時間に変わっていた。

流れゆく時間の中で変わっていく
一人で過ごす時間が
私を
強くも弱くもする

それでも流れ続ける時間の中で
あなたが傍に居るという
当たり前が無くなり
気が付いた事
それは
変わらぬあなたへの想い


”ピピピピッ ピピピピッ” 
遠くから聞こえるアラーム音。
枕元に手を伸ばしスマホのアラームを消す。

「さっき寝たばかりなのに」

昨日はなかなか眠りにつけなかった。

「顏、むくんでないかな?」

出かける用意をしなくちゃ。


眠気覚ましのシャワーを浴びてメイクをする。
女子にとって、メイクや服は魔法のスイッチ。
女子にしかないスイッチが入る。

いつもの何倍もの時間をかけて

「うん!!私いい女」

自分を褒めてみる。



駅へ向かう。




大勢の人々が行き交うこの場所は
大切な何かを見逃してしまいそうな
今の私のようだ。




ふと





後ろから懐かしい匂いと感触が私を包んだ。



「だだいま」



相変わらずのそっけない一言と
ずっと聴きたかった声。



「会いたかった」




見えないし
聞こえない

それでも


信じてたよ




本当はずっと


あなたと繋がっていたんだって。


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