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毎日新聞の「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」で思うこと その高齢者の主な情報源はテレビと新聞ですよ?

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毎日新聞に「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」という記事が掲載された。筆者が Twitter で見かけたのは 5月18日だったように思う。

同記事は澤田氏の体験談から入っているが、要は、内閣府が毎年10月に行っている「外交に関する世論調査」において、なぜ下図のような結果が出るのかという話である。

グラフを見る限り、60代以上の嫌韓ぶりは否定のしようがない。

その原因として澤田氏は韓国の軍事政権時代(~1987年)のイメージや定年退職後の疎外感などを理由に挙げていたが、筆者はそれらに「結論ありき」の雑さを感じている。

冬のソナタなどの韓流ブームの後でも軍事政権時代のイメージを引きずっているのか? 夫が外で働いて妻が家を守ることの多かった今の60歳以上で、定年後の疎外感は男性にしか当てはまらないのではないか? 再雇用で働いていて職場がある多くの人たちは加味されているのか?

高齢者に嫌韓が多いことは否定しないが、そうなった理由はもっと別のものだろうというのが記事にしようとした動機である。


高齢者ほど親しみを感じない国は韓国以外にもある

平成30年(2018年)の外交に関する世論調査 は、韓国以外にもアメリカ、ロシア、中国、オーストラリア、中南米・カリブ諸国、中東諸国、アフリカ諸国が調査対象となっている(北朝鮮は扱い方が異なるため割愛)。

まずは、毎年必ず調査対象となるアメリカ、ロシア、中国、韓国を並べる。実は、この4カ国はいずれも高齢者ほど「親しみを感じない」が増える傾向を持っているのである。


では、高齢者になると外国を嫌いになるのかというと、そういう訳でもない。下図の通り、その国に関する情報量の影響と思われるが、若者の方でより親近感が悪化する国もある。

嫌韓だけを見ていると、なぜ米露中韓の4カ国で共に高齢者の親近感が悪化するのかが解らない。共通する要因があるのか、ないのか、もう少し分析を進めていこう。



外交に関する世論調査を点数化して、20年分の推移を観察する

外交に関する世論調査」で年代別統計が存在する最古のものは平成11年調査(1999年)となっているため、20年分の推移を見ていく。

ただし、20年分をそのまま並べても変化が解りにくいため、調査結果を点数化した上でグラフにする。具体的には、「親しみを感じる」を +2、「親しみを感じない」を -2 などとし、回答者の比率を掛けた上で合計した値を各年の点数とした。

・親しみを感じる・・・ 2
・どちらかというと親しみを感じる・・・ 1
・わからない・・・ 0
・どちらかというと親しみを感じない・・・ -1
・親しみを感じない・・・ -2


例)平成30年 アメリカ 18~29歳
  ( 2× 41.4%)+( 1× 44.4%)+( 0× 0.6%)+( -1× 9.5%)+( -2× 4.1%) = 1.095


アメリカに対する親近感の推移
アメリカに対する親近感は最低値でも 0.656 で、全年代が高い値で推移している。

目を引く点は、以下の通り。
・アフガニスタン侵攻、イラク戦争中は70歳以上で悪化
・オバマ大統領の時代は、全年代が高めに推移
・トランプ大統領就任後は20代・30代で改善し、その他は悪化


ロシアに対する親近感の推移
ロシアに対する親近感は、-1.0 付近の低い状態が続いている。

目を引く点は、以下の通り。
・各年代が -1.0 付近で入り組んでおり、低い値が定着している
・2011年以降、20代が他の年代よりも高い値を示すようになっている


中国に対する親近感の推移
中国に対する親近感は当初 0.0 付近にあった。しかし、2004年以降は悪化していく傾向にあり、近年は -1.0 付近まで下がっている。

目を引く点は、以下の通り。
・2012年以降、年代による拡散が大きくなっている
・2011年以降、20代が他の年代よりも高い値を示すようになっている


韓国に対する親近感の推移
韓国に対する親近感は、年代による拡散が見られるものの、0.0 付近から 0.3 付近へと改善していく傾向にあった。しかし、全年代で悪化した2012年以降は、-0.4 付近で推移するようになっている。

目を引く点は、以下の通り。
・米露中に比べて年代による拡散が大きい
・60代・70歳以上は他の年代よりも低い値が続いている
・2012年以降、20代が他の年代よりも高い値を示すようになっている



高齢者は、和を乱すことへの反発が強い傾向

アメリカに対する親近感の推移が典型だが、高齢者では「和を乱すことへの反発」が強いように見える。


同時多発テロは許せないにしてもそこからアフガニスタン侵攻に向かったことや、大量破壊兵器を持っていると疑いをかけてイラク戦争を始めたことに対して、70歳以上は反発している。報復でも、大義名分があったとしても、戦うことを容認しなかったのだ。

その高齢者の米国に対する親近感は、「核なき世界」を訴えたオバマ大統領の時代では改善を見せる。

しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領に代わると、60代・70歳以上は反発を強めている。

こうした「和を乱すことへの反発」は、プーチン大統領の時代が長く続いているロシアでも見られるし、尖閣諸島を問題にしようとする中国でも見られるし、竹島や旭日旗、いわゆる従軍慰安婦、徴用工を問題にしようとする韓国でも見られる。

澤田氏は定年退職後の疎外感を要因に挙げていたが、筆者は、そこはあまり関係がないと思っている。高齢者だからなのか、日本の高齢者だからなのかは不明だが、和を乱すことへの反発が表れやすい年代なのだろう。



ゆとり教育とネットが、米露中韓をポジティブに見られるようにした可能性

アメリカでは他の年代も改善する時期と重なっていて目立ちにくいが、アメリカに対する親近感の点数の最高値は2012年の20代である。一方、露中韓では、2011年・2012年から20代が突出して高い値を出すようなっている。

この最近の20代の動きは、他の年代に埋もれることもあったかつての20代とは明らかに異なる。


1987年生まれが、2012年で25歳になった
最近の20代が米露中韓に対してポジティブな見方をしている要因について、筆者は2つの仮説を立てている。

1つ目は、ゆとり教育だ。ゆとり教育が始まった1987年生まれが2012年で25歳になるため、2012年で20代の半数がゆとり世代となる。半数ともなれば、その影響も表に出やすくなるはずだ。

2つ目がネットで、彼らはデジタルネイティブ世代にあたる。特に1986年生まれ以降は、携帯電話によるインターネット利用が一般化した時代を生きており、ソーシャルメディアの成長など、情報の取得方法も変化してきた。

教育の成果か、ネットの影響か、いずれにせよ若者は米露中韓に対してポジティブに捉える傾向を持っている。


米露中韓をポジティブに見る姿勢が良いかどうかは不明
米露中韓をポジティブに見ている姿勢に対して、筆者は「若い感性は素晴らしい」と賞賛するつもりはない。

なぜなら、国際政治は国益を第一に考える各国が押し合い圧し合いする場所であり、そのポジティブがプラスに働くかどうかは分からないからだ。

確かに、他の年代よりも中国や韓国に対するネガティブが和らぐことは、中国や韓国との問題を終結し易くするかもしれない。しかし、我を通す力が強いトランプ大統領やプーチン大統領に対してもポジティブな訳で、誰にとってプラスになるかは不明である。

新しい感性を見せる今の20代、30代が外交に影響を持てるようになるには、もう10年ほど時間が掛かるはずだ。その間に彼らが変化していく可能性もある訳で、筆者は「おもしろい世代が出てきた」という感想にとどめている。



米露中韓をネガティブに見る高齢者の主な情報源は、テレビと新聞

前項で、ネットが米露中韓をポジティブに見られるようにした可能性を指摘した。「ネット=過激化の温床」という認識が広い中では同意を得にくいだろうが、筆者は次の統計を踏まえた上でそう考えている。


外国の情報の入手手段に関する調査結果
内閣府の「外交に関する世論調査」は、2002年から2005年まで「外国の情報の入手手段」という項目を設けていた。Twitter や Facebook が日本に上陸する前に途絶えた調査項目だが、参考に掲載しておく。


時事ニュースに関する情報を得た情報源に関する調査結果
しばらく間は空くものの、2012年以降は、総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」に近い設問がある。それは、「この1カ月間で時事ニュースに関する情報を得た情報源」を尋ねるものだ。

2012年というと、ちょうど20代のポジティブさが表に出てくる年であるため、その調査結果を見てみよう。


この総務省のメディア利用に関する調査結果と、内閣府の外交に関する世論調査を併せて見ると以下の通りだ。

米露中韓をポジティブに見る20代
 ・テレビ・・・88.4%
 ・新聞・・・30.2%
 ・インターネットニュースサイト・・・53.3%
 ・ソーシャルメディア・・・20.4%

米露中韓をネガティブに見る60代
 ・テレビ・・・96.0%
 ・新聞・・・77.0%
 ・インターネットニュースサイト・・・17.7%
 ・ソーシャルメディア・・・0.3%

ネット利用率が高く、マスコミ依存度が低い若者の方は、米露中韓をポジティブに見ている。逆に、ネット利用率が低く、マスコミ依存度が高い高齢者の方は、米露中韓をネガティブに見ていることが解る。


2017年調査でも、高齢者のマスコミ依存度は高い
最新となる2017年調査では、下のグラフのように若者のマスコミ依存度はさらに下がっている。


ここへ、1日あたりの利用時間の視点を加える。「テレビを見ている人はテレビを何分間見ているか、ネットを使っている人はネットを何分間使っているか」という行為者平均時間で、グラフにすると以下の通りだ。

高齢者ほどテレビや新聞を長時間利用しており、若者はテレビの利用時間が短くネットの利用時間が長いことが解る。

高齢者でもネットを利用している人であれば相応に長い時間の利用が見られるものの、利用している高齢者の数の少なさは先述した通りである。


ちなみに、目的を絞らずに、各ソーシャルメディアの利用率を調べた結果は下図の様になっている。

メールの代替となる LINE は60代も多く使っているが、Twitter や Facebook の利用率はかなり低い。一方、20代はどのメディアも利用率が高い。


双方向のネットには、世論の冷却作用があるのではないか?
筆者は、ネットを使わない高齢者ほど米露中韓を見る目が厳しくなるのは、マスコミ情報が一方通行だからだと考えている。それに対して、ネットは双方向でのやり取りが気軽にできる世界だ。

マスコミしか情報源がない人たちは、「こういう事件がありました」で話が止まる。実生活で政治談義をするお国柄なら兎も角、政治の話を避ける日本では、不満に感じる情報を耳にした後はその不満を貯め易くなるのではないだろうか?

一方、普段からネットで言い合いをしている人たちは、そうした不満を解消できる場所を持っている。SNS上で意見を言うと反論もあるだろうが共感されることもあるし、言い回しが過激な発言もそれ自体がガス抜きとなる。

ネットでは様々な個人が発言していて、事件が多角的に見える機会も多い。

・素性を明かして、本名で活動している専門家の意見
・タレントコメンテーターからは出てこない角度からの指摘
・国際問題に反応する現地に住む日本人や在日外国人
・インフルエンサーやネット論客のアカウントで展開される議論


自分にとって都合のいい情報ばかりを集めるユーザーや、ネット上の議論で熱くなっていくユーザーにとって、ネットは過激化の温床なのだろう。他人からの影響で認知が歪んでいく場合は確かにある。

しかし、そうではない一般的なユーザーにとって、マスコミ報道に関してネット上で非難/擁護の応酬をすることは、冷静さを取り戻していくプロセスとなっている。ネットを通じたゆるいつながりは、自分の認識を修正していく場でもあるのだ。

各ユーザーに相応のリテラシーは求められるものの、基本的に、ネットには世論の冷却作用があると筆者は考えている。



問題の長期化は、年代による拡散という現象を生む

近年、中国に対する親近感で「年代による拡散」が始まっている。

この年代による拡散は、韓国に対しては、ネット利用率の低い時代からずっと続いている。つまり、前項の「ネットによる世論冷却」では説明がつかない現象だ。

そこで筆者が考えているのが”飽き”という要素である。


一般人は、同じ問題に長く付き合う意識の高さを持たない
年代による拡散の背景には、長く揉め続けたことによる”飽き”があると筆者は考えている。

同じ問題を繰り返し訴えられれば、揉める度に相手方を非難する人や揉める度に相手方を擁護する人だけでなく、”いつものこと”として関心が薄れていく人たちも出てくる。

十人十色、人それぞれの社会において、全員に終わりのない話に付き合ってくれる意識の高さを求めるのは無理な話だ。問題の長期化による”飽き”は、避けようがない事態である。


”飽き”は判断材料を個人化し、年齢による影響も出やすくなる
中国で説明すると、2010年の尖閣諸島沖、中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突してきた時は全年代がまとまって反発を強めている。そして、2012年の反日デモまでは、20代だけが高い値を示す段階にあったはずだ。

しかし、その後も、中国による尖閣諸島での領海侵犯は繰り返されている

このように問題が長期化すると”飽き”た人が出るようになり、関心度合いに個人差が生まれるようになる。関心を寄せ続ける人は 今でも報道に目を留めて 腹を立てるが、”飽き”た人は聞き流していく。

そんな時に「この国についてどう思いますか?」と尋ねられると、各個人は特定の問題以外のことを想起して回答するようになる。

・その国出身のパートナーや友人が居る
・その国に好きな歌手やアーティストが居る
・旅行に行って楽しかった


回答は、より個人的なイメージに基づくようになるため、回答者の年齢といった属性の影響も大きくなり、年代別の傾向も表に出やすくなるはずだ。近年になって中国に対して起こった「年代による拡散」は、おそらく、韓国に対しては統計以前の1990年代に起こっていたと筆者は想像している。



まとめ なぜ嫌韓は若者に少ないのだろうか

澤田氏は「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか」と問い立てしたが、これは相対的な話であるため「なぜ嫌韓は若者に少ないのだろうか」とも考えられる。そして、韓国の場合は若者の方から考えた方が解りやすい。

日本と韓国との間にある様々な揉め事は、どれも長期化している。

揉め事が長期化した結果として、問題を蒸し返されても、「またいつもの韓国だ」で済まされているのが現状であろう。これは、問題解決の熱量が失われた状態にある訳で、双方ともに損していることは指摘しておく。


ネットを中心とした第三次韓流ブーム
さて、問題が長期化することによって、親近感の判断材料が個人化することを本編で述べた。竹島などの大きな政治問題に飽きた人たちは、より個人的な好き嫌いを優先して回答するという話である。

いま、若者の間では、K-POP や韓国風のオルチャンメイクなどの第三次韓流ブームが起きている。インスタ映えするチーズホットドッグが流行るなど、同ブームの中心は SNS となっている。

普段からネットでの情報入手が多い若者は、韓国に対してポジティブな回答をする材料を集め易い状態にあるのだ。

ちなみに、その浸透具合は新聞報道へも出てきている。K-POP アイドルの人気を背景に、美容整形を目的とした日本人の韓国訪問が急増しており、その数は2017年に 9年前の20倍近く、約6000人に達した。


テレビや新聞で韓国の悪いニュースばかりを聞かされる高齢者
こうした若者の状況を裏返すと、高齢者で嫌韓が増える背景が見えてくる。

そもそもネット利用率の低い高齢者の多くは、SNS を中心とした第三次韓流ブームの外側に居る。同ブームは若者をターゲットにしていることから、マスメディアが取り上げるペースも鈍く、扱いも小さい。

そんなマスコミ依存度が高い中で高齢者は、李元大統領の竹島上陸以降も、朴前大統領の罷免や徴用工訴訟等に関する報道を見続けている。韓国のイメージが悪くなるニュースが多くなれば、韓国にネガティブな回答が増えるのは当然の結果だろう。


ネットを使わず、マスコミ依存度が高いから嫌韓なのではないか?
筆者の見方では、「高齢者の嫌韓を増やしてきたのはテレビや新聞」という話になる。

仮に、テレビや新聞が、韓国に関して意図的にネガティブな報道をしてきたのであれば、嫌韓の増加はまさにマスメディアの責任である。しかし、そうでないのであれば、ネガティブなニュースを報じられ易い韓国自身に問題があるのではないだろうか?

もし、高齢者の嫌韓を減らすことを考えるのであれば、高齢者のネット利用率を上げて、マスコミ依存度を下げるのが近道だと思われる。

マスコミとしては、韓国のイメージが悪くなるものであっても事実であれば報道しない訳にはいかない。であれば、悪くなったイメージを良くする、悪くなる度合いを弱めるのは、ネットに任せる他ないだろう。(了)




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